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10218___孤独だったキミに、ケーキを贈ろう。李亞3/20 0:18:232182cfX1jgjTYluO2

俺はママを知らない。
俺はパパを知らない。
俺は―――

―――家族を知らない。


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孤独だったキミに、ケーキを贈ろう。



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「ガキが居ないだぁ?」


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 素っ頓狂な声を出した大柄な男は、手に持っている骨付き肉にがぶりつき、盛大に舌を鳴らした。褐色の肌に銀色の髪と瞳を持つ、三十代半ばの男だ。筋肉質な腕は椅子の背にまわされており、脚もテーブルの上に投げ出されているため、お世辞にも「上品な男」とは言えない。


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 ただ、彼が身につけている装飾品だけは、どれもランプの光を反射して煌びやかに己を主張していて、それに重点を置くのなら、彼は「上等な宝石を身につけた男」と言えるだろう。注視する箇所を映すだけで男のイメージがガラリと変わってしまう程、その宝石と男は酷く不釣合いだった。

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 彼の視線の先にはまた別の男が座っていた。こちらは質素な薄汚れたエプロンを身に纏った、二十代前半にも見える好青年だ。ただ、顔には苦笑が浮かべられており、今彼を取り巻いている環境が、彼にとって望ましい物とは言えないようだ。


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「……今日のお昼、お遣いに出たっきり戻ってこないんだよ。迷子も考えられるけど、もう九時だ。ねえフランチェ、ボクはどうしたらいい?」
「裏の胡散臭い探偵に頼めばいいだろ。その代わり、金貨が8枚は飛ぶぞ」
「やだなあ、しがないレストランにそんな大金あるわけないじゃないか」


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 そんなお金があるなら店を改築するね、と続け、彼は苦笑を崩さないまま辺りを見回した。
 天井には所々雨漏りの跡があり、その真下には端のかけたグラスや、潰れかけた缶、先の割れたビンが置いてあった。隅々まで掃除は行き届いてはいる物の、建物の老朽化をカバーするだけの装飾品も見当たらず、店内には古ぼけた椅子とテーブルが置かれているだけだ。そのうちの一つには、豪勢な食事が所狭しと置かれている。勿論、先ほどフランチェと呼ばれた宝石の男が足を投げ出しているテーブルだ。


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「自分で探せたらいいんだけど、ボクには店があるだろう?それに、あの子が行きそうな場所の心当たりすらないんだ」
「店くらい休め。どうせこんなチンケね店に客も来ないだろ」
「いや、客なら君が来てくれてるよ。きちんと二週間に一回、欠かすことなくね。そして、こんなに沢山お金を使ってくれる」

 青年が苦笑いを崩し、笑ってそういうと、フランチェの褐色の頬に少し赤みが差した。フランチェは間髪居れずにん、んっ、とワザとらしい咳払いをし、口の中に骨付き肉を詰め込む(直後、盛大に咽た)。


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「……あの子が出て行ったの、ボクがお店の事ばっかりで、あの子を構ってあげなかったからかな……」
「ンな繊細な奴じゃねえだろ。アイツはもっとなんかこう……図太い性格だ」

 ヴェスプッチのとこのストリップ小屋に連れてったときもはしゃいでたしな、とフランチェはニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべた。


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「……フラー、あの子は君と趣味を共有するには十年早いと思うんだけど」
「おっと、怒ってくれるなアンドレア。呼び方が変わってる」
「前に約束したね。酒と煙草と女は十六になるまで教えないって。だのに君ときたら、この前もヴェンド産のワインを飲ませてたね。あの子はまだ八つだ。いい加減にしないと、ボクも怒るよ」

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「おいおい、アイツはまだチェリーだぜ。大体、あのストリップ小屋に行くのは裸を見るのだけが目的だ。白黒ショーならヴェスプッチよりストラデッラ爺の方が過激だからな」
「だから裸がいけなっ…………―――ああもう!今の会話でティーが独りで居る時間が四分も増えた!次に無駄口叩いたら、君とはもう絶交だ!」


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 びっと指を突きつける青年に対し、フランチェは肩を竦めてワインを呷った。
 ここで、少しばかり分かった事がある。青年の名前に性格、それと、彼らの話題に上っている少年の名前と年齢だ。もっとも、「ティー」が本名なのかどうかは分からないが。


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 アンドレアは頭を抱えて、ああ、どうしよう、と皿を半ば乱暴に退かして顔を伏せた。指は彼の細い髪をぐしゃぐしゃと掻き、よく見ると、それが少し震えているのが分かる。フランチェはそれに対し、深く溜息を吐いた。

「おいアン、今日は何日だ?」
「十九だよ」
「何月の?」
「そんなの三月にきまっ…………あ」

 突如、アンドレアはがたっと音を立てて立ち上がった。


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「有難うフランチェ!今度何か奢る!」
「おうよ」

 アンドレアは乱暴に扉を閉めた。フランチェは彼の古びた靴が石畳をテンポよく叩くのを聞きながら、殆ど肉のなくなった骨付き肉にがぶり付いた。


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―――



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「……ふぅ……」

 少年は小さく溜息を吐き、足元の小石を軽く蹴った。座っているブランコが、きぃ、と音を立て、辺りに響き渡る。周りには誰もいない。あるのはガス灯の灯りだけで、それに照らされているゴミ箱の周りでは、野良猫がニャアニャアと鳴くばかりだ。普段なら、こんな不気味な場所に寄り付いたりはしない。けれど、今ならこの場所が、どんなふかふかのベッドより、どんな熱々のお風呂の中よりも落ち着く気がしたのだ(事実、恐怖心は全くない)。


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 少年は、数ヶ月前までは孤児院で暮らしている、身寄りのない子供だった。父親も母親も知らない。ただ、あるのは親に捨てられたという事実だけだ(院長が、若い夫婦が貴方を預けに来たのよ、と何回か教えてくれた事がある)。周りの子供もそうだったから、孤児院にいる時はその境遇をそこまで嘆いたりはしなかった。だが、彼を引き取りたいという青年が現れてから、少年の考えは変わった。

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 初めて知った「家族」は、徐々に彼を蝕んだ。少年を引き取ってくれた青年は、彼の父親の弟だ。青年の友人によれば、何年か前の紛争の際に生き別れた兄を探したが、彼は既に他界。青年は人伝に少年の存在を知り、何件も孤児院を回って、漸く彼を探したてたのだそうだ。青年は、少年に対して本当によくしてくれる。たまに、本当の家族のような錯覚さえ起こさせるんだから、彼は本当に少年の事を愛してくれているのだろう。それは分かった。けれど、青年の暮らしは貧しかったのだ。


李亞3/20 0:24:502182cfX1jgjTYluO2||504

 我侭を言うわけにはいかない。自分の存在で青年を困らせたくなかったのだ。だから、誕生日に、彼と顔を合わせたくなかった。


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 孤児院では、誕生日にお祝いをすることなんてなかった。誕生日すら分からない子供もいたし、第一、大勢居る孤児を一人ひとり祝っていたら、傾きかけていた財政はそれだけで破綻してしまう。でも、外の世界では違った。誕生日には大きなケーキを買って、家族や友人がその周りで笑顔を浮かべ、主役はケーキの上の蝋燭を吹き消す。しかし、青年の家には、そんな余裕はないのだ。

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 ホールケーキ一つで銀4枚、いや、5枚は下らないかもしれない。そんな高価な物を強請れば、青年はきっと困るだろう。けど、彼は優しいから、何とかお金を出してホールケーキを買ってくるかもしれない(そういう人だ)。でも、彼がそんな辛い思いをして買ったケーキで誕生日を祝うなんて嫌だ。今日はこのまま此処で一夜を明かして、明日の朝、家に帰って怒られよう。そうすればきっと、青年は怒りで誕生日のことなんて忘れてくれるかもしれない。


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 そう思って、寝床にしようと決めていたベンチの方へ行こうと、ブランコを立ち上がったときだ。


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「ティツィアーノっ!」

 なんで彼が此処に居るのか、理解できなかった。

「やっと、みっ、けたっ……!」
「アン……え、なんで……」
「誕生日!」

 アン―アンドレア―は、手に持った小さな箱をティツィアーノに突きつけると、彼を無理矢理ブランコに座らせた。


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「菓子屋のラウラさんちに行って、売れ残ったのを貰ったんだ」

 アンドレアは箱に手を掛け、ティツィアーノの膝の上に乗せたそれを、じゃじゃーん、という掛け声と共に開けた。現れたのは、蝋燭がささった小さなショートケーキだ。アンドレアはいそいそとマッチを取り出して蝋燭に火をつけると、ティツィアーノの顔の近くまでそれを持ち上げた。

「ティー、誕生日おめでとう。他の家みたいに大きくないし、蝋燭も一本しかないけど、ボクにはこれが精一ぱ―――」
「なんでだよっ!」


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 ティツィアーノがブランコの鎖を握り締める手に、力が篭った。


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「……なんでっ……どうして、アンは……!」
「え、ちょ……ティー?キミなんで泣くの?もしかして嫌だった?」

 ふるふると首を横に振ると、アンドレアの顔色が少し良くなったのが、視界の端で見て取れた。

「っ……アンは、ずるい……」
「え、いや、イカサマはフランチェの担当だよ!」
「ちが、くてっ……」

 涙が止まらなかった。


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「なんでっ……なんで、俺の、してっ……ほし、こと……そーやってっ……」

 今分かった。別に、大きいケーキとかはどうでもよくて、ただ、欲しかったのは本当に小さなことだった。


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―――誕生日おめでとう。



李亞3/20 0:27:242182cfX1jgjTYluO2||675

 親からも言われたことのない言葉を、アンドレアの声が紡いだことは少し腹立たしかったけれど、今はその言葉が貰えただけで、嗚咽が止まらなかった。袖で鼻水を拭くと、アンドレアはハンカチでティツィアーノの鼻を拭い、ケーキを潰さないよう、背中に腕を回す。

「生まれてきてくれてありがとう、ティー。来年は、もうちょっと大きなケーキ買うよ」
「ったり、めーだっ……」


李亞3/20 0:27:372182cfX1jgjTYluO2||974

 孤児院に居た頃は、こんな言葉を貰えるなんて思ったことはなかった。それどころか、誕生日を祝う意味も分からなかったし、生まれた時だって誰からも喜ばれなかったであろう自分には、全く関係のない行事だと思っていた。いや、もしかしたら、自分を生んでくれた誰かは生まれた瞬間は少しだけ喜んでくれたのかもしれない。でも、結果的に自分は捨てられたのだ。生まれてきてくれてありがとう、だなんて、一生縁のない言葉だと思っていた。

 なのに、嬉しかった。


李亞3/20 0:28:32182cfX1jgjTYluO2||307

――――――――――――――――――――
名前が全員イタリア系なのは、別に意味なんてなくて。
ただ、いつもとはちょっと違うテイストのお話を書きたかったわけで。
世界観とか云々は別に、考えてなかったわけで。
結局フラーがどういう経緯でそういうファッション(?)をしてるのかも考えてなかったわけで。
アンが何でレストランなんかやってて、どうしてフラーと親しいのかも考えてなかったわけで。

……何も考えてなかったんです。


完成日07/03/19(月)
名前も知らない誰かの誕生日祝い!

李亞3/20 0:29:272182cfX1jgjTYluO2||994
alacarte(短編)

※安楽椅子はHPに行きました。

___昔の噺。
http://bbs.chibicon.net/bbs/t12-9935.html


melancholy

お手紙でホームページを教えて欲しいって方が二、三人おりましたので、ホームページの方で処理しました。
alacarteの方も、近いうちにそっちの方に行く予定です。

http://kamakura.cool.ne.jp/kadukiria/


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