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10642思い出、観せます_-_ある体験者の記録_-李亞6/6 20:53:42182cfX1jgjTYluO2

李亞6/6 20:53:332182cfX1jgjTYluO2||876
 
 かつん、かつんと響く足音。錆びた鉄の階段に、少し前、「今年の夏は足元のお洒落が勝負を決める!」との煽り文句に釣られて買ったパンプスを打ちつけ、私は薄暗い闇の底へと下りて行った。
 徐々に汗が伝い始め、街灯の明かりが届かなくなった頃、見えてきたのは灰色の扉。仕事帰りで掌に食い込む鞄から、銀行から下ろしたばかりのお金がたんまり入っている財布を取り出して、私はその扉を押し開く。その時ちらっと見えた、就職祝いに両親からプレゼントされた少し高い腕時計の長針は11を、短針は7を指していた。


李亞6/6 20:53:452182cfX1jgjTYluO2||439
 
 
「いらっしゃいませ」
 
 
 10センチにも満たない隙間から突如響いた初老の男性の声に、思わず肩を震わせて唾を飲み込んでしまった。彼に、この音が聞こえていないことを祈るばかりだ。
 

李亞6/6 20:54:142182cfX1jgjTYluO2||992
 
 

 
思い出、観せます - ある体験者の記録 -
 
 
 
 

李亞6/6 20:54:332182cfX1jgjTYluO2||764
 
「友里っ、起きろよ、友里!」
「…………いお、り……?」
 
 聞き覚えのある、を通り越して、半ば聞き飽きた低い声に目を開くと、東にある窓の向こうで輝く太陽が私の目に飛び込んできた。ぴぴぴぴぴぴ、と、枕元にある猫を象った時計から、延々と電子音が流れていて、煩い。少し乱暴にそれの頭に掌を押し付けると、ベッドから身体を起こして伸びをひとつ。そこで気付いた。
 目の前に、伊織がいる。
 

李亞6/6 20:55:72182cfX1jgjTYluO2||151

「お前がオレより遅く起きるなんて珍しいな……。あ、ほら、卵焼き作ったから食べろよ。あと、昨日の夜の残りの味噌汁と、炊飯器に入ってた米な」
「う、ん……」

 言われてみれば、私の鼻孔には食べ物が人間を誘う匂いが飛び込んでくる。手を引かれて部屋から出た先。居間の中央にあるテーブルの上。そこには、なんとも言えないものが並んでいた。

「…………味噌汁とご飯はいいとして、さ……」
「あ?」
「……この卵焼きのつもりらしい黒いのは、いったい何」
「え、卵焼きじゃん」


李亞6/6 20:55:442182cfX1jgjTYluO2||277
 
 ここで、料理が出来ないくせに台所を勝手に使うなと、私の怒声が響くのだ。―――本来なら。今日は、溜息しか出なかった。そして、苦笑。普段と違う態度を取る私に訝しげな表情を浮かべる伊織になんとも言えない笑みを零し、私の目線より数十センチ上にある頭に、ぽんと手を置いた。
 
「すぐ作り直すよ。座ってて」
 
 口の端を少し持ち上げると、ぽっと火が点いたように、伊織の頬が染まる。今まで抱いたことのない感情が生まれた。


李亞6/6 20:56:312182cfX1jgjTYluO2||189

 伊織が、可愛い。瞬間、まるで伊織を置いて、私だけ成長しちゃったみたいで、凄くもやもやしたのだけれど、何度も首を縦に振って、なるべく私に顔を向けないように、と背を向けて座る彼の一挙一動を見つめてたら、どうでもよくなってきた。
 ここに私が居て、ここに伊織が居る。これが今、私を占めている「わたしのすべて」、なのだ。うへ、気持ち悪い、とピンク色な考えに再び苦笑いを零し、冷蔵庫の中から卵を取り出した。「賞味期限 H18.12.26」。ラベルに印刷されたそれが、紛れもない嘘の証明。


李亞6/6 20:56:462182cfX1jgjTYluO2||444

 けれど私は、それを見ないように2秒目を瞑って、牛乳とかお茶のペットボトルとか、そういったものに視線を向けながら卵を2つ手に取った。それをボールに割って、砂糖を入れて、掻き混ぜて。こんな何気ない動作だけれど、伊織の視線を感じるだけで少し手が強張った。ねえ、伊織。私、伊織の目に、どんな風に映ってる? ちゃんと、「私」になれてる? ぶつけたい疑問は山ほどあれど、それをぶつけることはできなくて、ただ、黙々と目の前の卵の渦に集中した。
 温めた油の上に卵を流し込むと、なんとも言えない、ジュゥウ、という音が耳を埋めていく。半熟なうちにくるくる、くるくる、と卵を巻いて。ほら、できた。


李亞6/6 20:57:182182cfX1jgjTYluO2||868
 
「おまたせ」
 
 かたん、と小さな音を立ててお皿をテーブルに置くと、伊織は不思議そうに首を傾げて卵焼きを見つめた。
 
「……なんで、友里はこうやって黄色のまんまで焼けるんだよ」
 
 オレの真っ黒なのに、と机の端に除けてある卵焼きらしき黒い物を見つめ、伊織はうーん、と小さく唸った。
 
「私が伊織を好きだから、伊織に食べてもらう卵焼きは上手に焼けるんだよ」
 

李亞6/6 20:57:452182cfX1jgjTYluO2||19

 特に羞恥心を感じることもなく、さらりと口にできたその一言に、どうしても埋まらない溝を感じた。内心、胸がぎゅうっと締め付けられて慌ててる私とは対照的に、伊織は照れくさそうに笑うのだ。ぴしり。なんて音と共に、何かに罅が入った気がする。
  
「でも、その原理で行くとオレは友里のこと、そこまで好きじゃないってことになるな」
「……ふぅん。愛されてないんだ、私」
 

李亞6/6 20:57:582182cfX1jgjTYluO2||429
 
 私は意図的に唇を尖らせることも、暗い表情を作ることもできるようになった。でも、目の前の伊織はそんな私を知らない。本当に落ち込んでいると思ったのか、彼は少し慌てて、おろおろと卵焼きにのばしかけた箸を彷徨わせていた。
 
「いや、あ、あの、オレ、友里のこと大好きだけど、料理だけはできなくて、あの、べつに、あ、愛して、ないわけじゃ、なくて、あの、え、ええとっ……」
 
 こんな伊織を見るのは初めてで、こんな状況を作ったのは私だっていうことを自覚した途端、伊織との間にある溝が広がった気がした。
 
「大丈夫。知ってるから」
 

李亞6/6 20:58:252182cfX1jgjTYluO2||91
 
 これ以上みていられない。これ、誰。伊織じゃない。伊織は私よりいつも優位に立っていて、私をからかっていて、いつも、ああやってうろたえるのは私だった。なのに、これは、何なんだろう。違う。こんなの違う。違う違う違う違う違う違う違う。
 
「―――……ゆ、り……?」
 
 気がついたら、テーブルを叩いて立ち上がっていた。伊織が不思議そうな顔で私を見上げている。
 
「……なんで、連れて行ってくれなかったの」
「え……?」
 

李亞6/6 20:59:02182cfX1jgjTYluO2||486
 
 伊織、好き。それ故に、目の前の伊織が嫌い。好きすぎて、好きすぎて、偽者じゃ満足できなかった。時計を見たら7:24。一番安い30分間のコースを買ったから、残った時間はあと6分。
 
「1人で居なくならないでっ……辛いんだよっ、辛くて、辛くて、どうしようもないの! あんたじゃ伊織になれないこと分かってるのに、なのに、大好きでっ……でも嫌いで、なのに大好きで、でも嫌いでって繰り返して、自分でもわかんなくなっちゃう! お願いだから私も連れて行ってよっ、あんな場所に独りで居たくない! 伊織の居ない場所なんか、私要らない! 一緒に連れてってっ……独りは、嫌なの……!」
 

李亞6/6 20:59:372182cfX1jgjTYluO2||142

 目の前の伊織は違うのに、私なに言ってるの。ぼろぼろ落ちる涙が止まんない。ほら、伊織のプログラムが不思議な顔をして私を見てる。
 
「友里には、オレがいるだろ? 独りじゃないよ」
 
 肩に手が置かれたけど、ちがう。いないんだよ。いおりは、もう、いない。
 頭を振って拳を握り締めたら、後ろから、ぎゅって手を回された。耳元で、声が聞こえる。
 
「―――友里。聞いて」
「や、だっ……ききた、く、なっ……」
「オレ、友里の傍に居たよ。事故のあったあの日から、ずっと傍に居た」
 
 ―――え……?
 

李亞6/6 20:59:582182cfX1jgjTYluO2||65
 
「でもさ、駄目、なんだよなあ。オレ、友里が他の男といちゃつくのも嫌で、ずっと友里のこと、オレに縛り付けてた」
 
 このプログラムは、生前の伊織をモデルにプログラミングされてるんだから、伊織が死んだことなんて……―――。
 
「友里……」
 
 後ろからの声に、ゆっくりと目を開いた。時計を見たら、あと3分もなかった。180秒にも満たない時間をこの伊織にあげたら、どうなるんだろう。連れて行ってもらえる? ずっと一緒に居られる? それとも、現実に戻る?
 

李亞6/6 21:0:402182cfX1jgjTYluO2||827
 
「愛してる、んだ。ずっと、触れたかった。抱きしめたかった。またデートしたかった。キスしたかった。でも、オレじゃもうできないんだよ。どう足掻いたって、オレ、友里の傍に居られなくなった。やっと……それに、気付いた」
 
 いおり。わたしも、いっしょだよ。
 前に回された手をしっかりと握り締めて、鼻の奥がつんとするのに耐えた。
 
「だから、凄い悔しいけど、友里はもう、オレの女じゃない」
「い、おりっ……」
「愛してた……ありがと」
「私も、愛し―――」
 
 振り向こうとした時、急に目の前が暗色に支配された。ふっと浮かんだ、白い文字。
 

李亞6/6 21:0:522182cfX1jgjTYluO2||971
 
 
『プログラムにエラーが発生しました』
 
 

李亞6/6 21:1:122182cfX1jgjTYluO2||593
 
 
 
**
 
 
 

李亞6/6 21:1:262182cfX1jgjTYluO2||127
 
「すみませんねえ」
 
 ブラックアウトした視界に少し驚いた次の瞬間、私の顔を覆っていたヘルメットは外され、視界には蛍光灯で照らされた薄汚い、コンクリートむき出しの部屋が現れた。
 
「まさかエラーなんてねえ。あたしもこの仕事始めて数年経ちましたけど、こんなんは初めてでねえ。大学の方に、修理にださないといけんかねえ」
 
 寝転がっていた機械から起きて、私は申し訳なさそうに眉を八の字にする初老の男性を見つめた。エラー。そう、か。あれ、エラー、だったんだ。
 
「……なんともありませんか?」
 

李亞6/6 21:2:202182cfX1jgjTYluO2||515
 
 何も喋ろうとしない私を心配そうに見下ろして、男性は首を傾げた。「なんともありません?」なんて。私は、その問いの的確な答えを持っていない。なんともない。でも、なんともなくはない。あの「エラー」に、私は、ずっと胸に閊えていた何かを消去してもらったのだから、凄く不思議な気分だ。ふっと、口元が弧を描いた。
 
「……過去は振り返るだけのものであって、縋るべきものじゃないんですね」
 
 自嘲にも似た笑み。男性は少し驚いたように瞳を揺らした後、満足気な笑みを浮かべて私を見下ろした。
 

李亞6/6 21:2:342182cfX1jgjTYluO2||916
 
「お客さんは、気付きましたか」
「……同じなのに、違う。所詮あれはプログラムで、私の、大切な人じゃなかった」
「そうですねえ……でも、それに気付かない人も居る。ご覧なさい」
 
 彼は私の5つ隣の機械を指差した。
 

李亞6/6 21:3:202182cfX1jgjTYluO2||235
 
「あそこには40代の女性が入ってんですがね。彼女は、とある資産家の御曹司と大恋愛の末に結ばれたそうですが、30にもならないうちに相手が亡くなったんですよ。子供は居なかったと言ってましたから、残ったのは莫大な金だけ。そして彼女は、此処を知ってしまったんですね。一生ここに居させて、とあたしに泣きついてきましたよ。目覚めようと思えば目覚められるように設定はしたんですが、眠ってからもう3年と2ヶ月になりますか。あの人は依然として、過去に絡め取られたままだ」
「……貴方は、どうしてこの機械を……?」
 
 男性はふっと寂しげに笑って。
 

李亞6/6 21:4:22182cfX1jgjTYluO2||777
 
 
「あたしもねえ、過去に縋ってる人間なんですよ。この立場を利用して」
 
 

李亞6/6 21:4:132182cfX1jgjTYluO2||968
 
 
 
**
 
 
 

李亞6/6 21:4:412182cfX1jgjTYluO2||646
 
 あまり軽くなっていないのに、金額の方は格段に軽くなった財布と鞄を手に、私は扉を押し開いた。かつん、かつん。また、鉄にパンプスを打ちつける音が響く。
 もう、私は此処には来ない。過去の伊織にしがみ付いて、ずっと手を離せなかったのは私のほうだ。他の男と寝てるときも、相手の一挙一動に、ずっと伊織の面影を探ってた。伊織とのキスは気持ちよかったな、とか、伊織はもっと優しくしてくれたな、とか、何かと伊織を引き合いに出して、結局別れる。そんなこと繰り返したら、私はきっと、幸せになんてなれない。それに気付いた途端、少し気持ちが晴れやかになるのを感じた。


李亞6/6 21:4:542182cfX1jgjTYluO2||552

 今まで断ってた合コンも、これからは少しくらい出てみよう。1人微笑を漏らして、足を早めた。
 

李亞6/6 21:5:72182cfX1jgjTYluO2||259

 
 かつん。
 
 

李亞6/6 21:5:252182cfX1jgjTYluO2||729
 
 ふと、自分以外の足音を耳に捕らえ、顔を上げた。上から降りてきたのは、私とそう歳も離れていないであろう、細身の男性。距離が案外近くて、少し吃驚した。
 
「あ……」
「あ……」
 
 同時に声を漏らして、苦笑い。「どうぞ」と彼が狭い階段で道を譲ってくれた。
 
「ありがとうございます」
 
 
 彼がどんな過去に縋りたいのかは私には分からないけれど、あの、少し寂しそうな背中にも、過去の本当の意味に気付いて欲しいと思った。
 

李亞6/6 21:6:142182cfX1jgjTYluO2||617
 
H23.6.24/石崎 友里  『4年と半年目の伊織記念日に』


李亞6/6 21:6:512182cfX1jgjTYluO2||618

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極度のスランプに陥って気晴らしに昔の作品を整理してたら、書きかけのが見つかった。
まあ、つまるところ未来設定だ、と。アトムみたいな。


加筆と修正したら、少し読めるようになった気がしたけど、そうでもなかった。


H19/6/6(水) あ。Dグレの神田の誕生日だった。

李亞6/6 21:10:382182cfX1jgjTYluO2||737

▼過去

*歪曲世界*

001:http://bbs.chibicon.net/bbs/t12-10516.html
002:http://bbs.chibicon.net/bbs/t12-10593.html

---:http://bbs.chibicon.net/bbs/t12-10538.html


李亞6/6 21:12:502182cfX1jgjTYluO2||452
*歪曲世界*002*より

▼鳳城亮さんへ

放置プレイは続きます。どこまでも。
SMは一人でも可能です。自縛とか色々頑張って下さい。

リオットちゃんとアルくんがピーな関係になるのは、もしかしたらないかもしれないし、あるかもしれない、かな。

鳳城亮6/10 13:22:102192cflXzhj8n6dss||896
ぐふwココで返事ですか
マゾじゃないので其の役目は李亞さんに托して退散します
侮るな。あの程度の呪い、飲み干せなくて何が英雄か。


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