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10995せんべいを持って_第三話sIs9/17 19:26:01250cfOklnwmi0gvg

げて‐もの【下手物】

1 並の品。粗雑で安物の工芸品。⇔上手物(じょうてもの)。

2 普通とは違って、風変わりなもの。「―食い」「―趣味」

                             (出典:大辞泉)


sIs9/17 19:26:51250cfOklnwmi0gvg||749

 コール君がカルボン川で出会ったサーカス団は、団体だからだろうか、歩くのは遅いし、休憩がやたら多いし、とにかくじれったかった。亀の軍団と散歩をしているみたいだ。一人で歩いたほうが絶対数倍速い。あまりにも遅いので、苛立ったコール君は何度も急かした。

「早くしないと夜になりますよぉ」

 しかしブランコさんが笑って、

「いいのよ、どうにでもなるから」

 などと鼻歌交じりに言うので、他の団員も皆口々に焦るなよなどと騒ぎ、結局歩くスピードも、休憩の頻度も変わることはなかった。
 そりゃどうにでもなるでしょうよ。あんた達は。

sIs9/17 19:26:191250cfOklnwmi0gvg||355

 ヨーケンに着いたばかりなのに、既に太陽は地平線の向こう側。コール君は今日中に市長に会うつもりだったのだが、この時間では遅い。行ってもきっと門前払いを食らうだろう。明日に延期するほかない。
 そういうわけでコール君はひどく不機嫌だった。

「まぁまぁ、今日は私たちの名義で宿屋に泊まっていいから、機嫌直してよ」

 ちょっと困ったようなブランコさんの笑顔が、憎らしいほどに眩しくて、それが余計にコール君を不機嫌にさせる。だがコール君は結局直すしかなかった。ヨーケンで一泊するつもりはなかったので、宿泊代に事欠いていたのだ。


sIs9/17 19:26:351250cfOklnwmi0gvg||983

「……分かりました」
「うん、よしっ。それじゃあ着いて早速だけど、これ」

 眩しい笑顔を崩さずに、ブランコさんはどこからか紙の山を出して、コール君に抱えさせた。一枚一枚そのものは薄っぺらなそれは、よく見なくてもすぐにチラシだと分かる。「旅するサーカス、明日開演!」という赤い縁取りの黄色い文字が目に優しくない。
 はぁ、何これ? とコール君が質すより前に、ブランコさんが先に答えを言ってしまった。

「中央広場でビラ配り、よろしく。終わったら宿屋に来て」


sIs9/17 19:26:441250cfOklnwmi0gvg||337

 それじゃあねぇ、と手を振りながらブランコさんはすたすた歩いて、どこかへいってしまった。すぐに雑踏の中に消え、コール君はあっという間に見失ってしまう。ブランコさんに向かって伸ばした左手の指先をじっと見つめたが、そこに当たるものは何一つなかった。
 そういえば、いつの間にか他の団員も消えてしまっている。どこへ行ったんだ彼奴らめ。さっきは急かしても急がなかったくせに。一足先に仕事へ行ったのかな。僕にも押し付けるということは、人手が足りないということか?

「……働かざるものは、食うべからず……」

 宿代を立て替えてもらえるなら、と不本意ながらもコール君は割り切った。


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 ビラ配りは相当時間がかかった。
 中央広場は芋を洗うような混雑だった。行商人が路上に絨毯を敷き、その上で怒鳴りながら商売をしていた。コール君は今朝何故「交易が目的?」と訊かれたのかが分かった。
 これだけの人がいればこんな紙の山くらいすぐなくなるだろう、と甘い気持ちで臨んだのがいけなかったのか、チラシの減りは遅かった。いや、それもあるだろうけれど、それだけではないはずだ。精一杯の誠意を込めたつもりで「サーカスです、明日開演します」と売り込んでも、誰も受け取ろうとしてくれない。どうやら交易以外には興味がないらしい。


sIs9/17 19:27:161250cfOklnwmi0gvg||247

「すいません、遅くなりました」

 宿屋でサーカス団の関係者だと言い、主人に指定された部屋へ駆けていくと、ブランコさんがティーカップ片手に、ソファーの上で足を伸ばしながらくつろいでいた。
 一体何様のつもりなんだこいつ。

「ええ、遅かったわね。そんなにチラシ多かった?」
「もらってくれる人がなかなかいなくて……」
「捨てたの?」

 朝の、あの朗らかな笑顔が嘘みたいだ。突き放すような声が実際よりも大きく聞こえる。コール君の背筋が震えた。


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「いえ、まさか。ちゃんと全部配りました」
「ならいいわ。次は買出し。ここにリストアップしたものを全部、今すぐ」

 ブランコさんはカップを持ったままゆっくり立ち上がると、ぎっしりと品物の名前が書き連ねられたリストと、コール君の所持金の五倍はあるであろう代金をコール君に手渡して、そのまま部屋の外につまみ出してしまった。

「……」

 何かまずいこと言ったっけ、と悩みつつ、言われたとおり道具屋へ行き買出しを済ます。


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「三食分の食料と調味料、食器用洗剤、スポンジ、洗濯用洗剤、洗濯ばさみ、ハンガー、裁縫用の糸、針、布、……川せんべい二箱?」

 何に使うんだ、あんな下手物。というか、そんなものがここで売られているはずが……。

「……あった……」

 当然のようにきちんと陳列されていた。これは驚いた。まさか砂を売る道具屋があるなんて。リストにあったので一応買ったが、閉店間際の道具屋を出た後で、コール君は一箱にしておけばよかったと後悔した。既に一箱持っていたのをすっかり忘れていたのだった。
 遅れるとまたブランコさんに怒られるかもしれない、と慌てて宿屋へ引き返す。


sIs9/17 19:28:81250cfOklnwmi0gvg||349

「あの、買出し終わ……」

 部屋に戻ると、すべての団員が集まっていた。コール君がドアを開けた途端、全員がびくっと震えてコール君の方を振り返った。気まずい空気が流れる。何で?

「……り、ま、し、た……」
「……あ? あ、ああ、買出しね、そうね、頼んだのよね私。ありがと、そこに置いといて」
「はい」
「今会議中だから、しばらく外にいて」
「……はぁ」


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 ブランコさんが変に動揺しながら、コール君を部屋からまた追い出した。さっきの団員の反応といい、少し、いやかなり怪しい。コール君は部屋を出てすぐドアに耳を当て、「会議」を盗み聞きした。小声でよく聴こえない。聴こえる単語から内容を推測するしかない。

「……コールとかいう……」
「…………、よく働く……。使える……」
「テント……張らせ……。……雑用……働いて……」
「……私たち……楽に……。…………の洗濯……炊事も……」
「……、決まり……」
「よし、……」


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 コール君は途切れ途切れに聴こえてくる会話を反芻した。
 よく働く? そりゃあ働いているけれど。洗濯? 炊事? それについての鉄則は聞いたけれど。テント? テントって今朝川岸で張っていたあの小さな黄色いテントか? それともサーカス用の大きなテント? それはありえないか。……「雑用」? 何のこっちゃ。
 同じ思考を何度か繰り返すうちに、やがてコール君は一つの結論に至った。

「……冗談じゃない!」


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 誰にも聞こえない声量で叫んでから、コール君は突然走り出した。
 聴こえた言葉が多くて助かった。間違いなくコール君は雑用にされる。テントを張らされ、今後も雑用として扱かれ、炊事や洗濯も、おそらく全員分任せられる。一日ではないだろう。最悪の場合一生続くかもしれない。彼らを楽にさせる為に人生を捧げなければならない。とんでもない。誰がお前らのために働くなんて言ったんだ。
 階段を一段飛ばしながら降りていくコール君の後ろで、ドアの開く音が響いた。

「コール君、入っても……あら? ちょっと……」
「え、いない? もしかしてあいつ……!」


sIs9/17 19:28:491250cfOklnwmi0gvg||432

 「会議」が終わったらしい。遠くの方でブランコさんと、誰か男性の声が響いた。その後で数人分の足音が聞こえる。もしかして追いかけられているのか? それなら逃げなければならない。捕まったら前述の結果が待っているに違いない。
 しかしどこへ逃げよう。それが問題だ。もう夜遅いから、市庁舎は開いていないだろう。道具屋もさっき閉まった。民家へ駆け込むなど論外、変人確定。路地裏で一晩を明かす自信もない。

「一度ヨーケンから出るしかない……かな」


sIs9/17 19:28:561250cfOklnwmi0gvg||640

 走りながらコール君は、今朝コーアンスで貰った地図を初めて広げた。
 地図には奇妙な記載があった。町村の地名の下に、ベッドのマークと金額が書いてある。コーアンスで払った宿代と記載されている額が一致するということは、宿屋の料金だろうか。世の中には奇妙な記載のある地図があるんだな。
 チラシにはサーカスの公演は三日ほど行われるというようなことが書いてあったから、四日後に戻ってこればいい。金のことも考えると、一晩だけ宿屋に泊まって、あとの二泊は野宿するのが望ましい。そしてヨーケンから近すぎる場所は避けるべきである。
 以上のことを踏まえて、コール君は手頃な場所を探した。


sIs9/17 19:29:61250cfOklnwmi0gvg||301

「『アスタータ』っ」

 ヨーケンの南東の海辺に、一時避難だ。


sIs9/17 19:29:201250cfOklnwmi0gvg||728

 あとがき

最早お菓子として認められなくなった川せんべい。
ちょっと可哀想かな(爆)

すんごい急ピッチな展開ですいません。コール君逃げるの早すぎ。
ていうか、盗聴は軽く犯罪じゃないかと思うんだ。
……決して盗聴を推薦しているわけではないですからね!

更に新しい地名が出てきてしまって、僕自身も少し混乱しています。
しかもまだ沢山出てくるなんてありえない。ありえない。


sIs9/17 19:29:291250cfOklnwmi0gvg||532

 バックナンバー

第一話 http://bbs.chibicon.net/bbs/t12-10906.html
第二話 http://bbs.chibicon.net/bbs/t12-10953.html


9/24 23:32:322221cfs0yJVWVhobs||463
今晩は

お久しぶりです
一話目から覗かせていただいていました
話の運びが上手く、コール君の思考にも共感できて
とても読んでいて面白い話だと思います

四話目、楽しみにしています(__*

sIs9/26 23:40:221250cfOklnwmi0gvg||337

 武さん

お久し振りです。

これから段々とわけの分からない方向に進んでいきます。
ちゃんと書き切れたらいいなぁ……(いいなぁじゃないよ)
逃げるまでのコール君の思考回路、間違っていないでしょうか? かなり心配なのです。



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