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11121超人戦争りたーんずバルトーク11/16 23:32:542212cfBcsmysAsVME

 赤の国ではこの日、政治闘争の犠牲となって一人の貴族派議員が謀殺された。
 国内では先王の逝去後、跡目を巡って軍部と貴族とが対立しており、これで議員の死亡者数は今月に入ってから五人目。これからも抗争の激化が予想されている。


バルトーク11/16 23:33:552212cfBcsmysAsVME||918
 
 そんな時代の貧民街。この季節にしては寒い夜で、猫一匹の姿も見えないような夕暮れ時。外套を着込んだ男が所在なさげに周囲を見回していた。
「お待たせしました」
 暗がりから現れたのは、この季節だというのに薄手の服装の少年である。
 この街では望むべくもないことだが、栄養が少なく肌の血色は悪い。しかしこの街の人間には珍しく、希望を宿しているかのような瞳。希望があることはいい事だが、この世界ではそれが命取りになる場合だってあるだろうに。


バルトーク11/16 23:34:452212cfBcsmysAsVME||746

「ほら、これは前回の報酬だ」
「中を確認させてもらいます」
 少年は寒さで肩をさすりながらも、男が差し出した封筒を受け取って中を検める。
 その中に入っていたのは、貧民街での一人暮らしであれば数年は暮らしていける金額であった。それを確認した少年はにっこりと男へ笑顔を向ける。


バルトーク11/16 23:34:562212cfBcsmysAsVME||598

「毎度ありがとうございます」
「いや、こちらこそよろしくと奴に伝えてくれ」
「分かりました」
 目の前で頷く少年は、組織が懇意にしている暗殺者の使いだと末端の男は知らされていた。
 暗殺者本人は用心深い人間らしく、組織の人間でも暗殺者の姿を見た奴はいない。しかし、確実に仕事は遂行してくることから、余程の凄腕なのだろうと推測は出来る。噂では超人であるとも言われているが、本当のところは誰も知らない。


バルトーク11/16 23:35:542212cfBcsmysAsVME||245

「これは新しい依頼内容だ。前金はこっちの封筒」
「承ります」
 男が新たに差し出した二つの封筒を少年は受け取る。こちらは、中を検めるようなことはしなかった。
 後は用はないと、一礼して踵を返す少年を男は呼び止める。
「おい、これで何か暖かい物でも食いな」
 元々この男も貧民街の出身だった。今の組織に拾われて、少なくとも毎日の飯にありつける生活はしているが、ガキの頃の貧民街での厳しい暮らしは今でも覚えている。


バルトーク11/16 23:36:42212cfBcsmysAsVME||724

 それに、これからは寒くなる。目の前の少年はこの冬を生き残れるだろうか……そんなことを考えたら、偽善と知りつつも男は銅貨を数枚、少年へと放っていた。
「あ、ありがとうございます!」
 不思議そうに掌の中の銅貨を見つめていた少年だったが、男の言葉を理解すると深々と一礼して、そして暗がりへと駆けていった。
 

バルトーク11/16 23:36:412212cfBcsmysAsVME||100

「ただいま」
 老朽化が進み今にも崩れそうな礼拝堂の扉を、少年は馴れた手つきで押し開けた。
 内部は淡い蝋燭の光と、小さい子供たちの穏やかな喧噪に満ちている。
「お帰り、トッシュ」
「エリーナ。これは今回の分だよ」
 少年を出迎えたのは淡い栗色の髪を後ろで結っただけの少女。身長は少年よりも頭一つ抜き出ている。
 そのエリーナと呼ばれた少女へと、トッシュと呼ばれた少年は封筒を手渡した。
「これで……この子達も年を越せるかしら」
「まだ、分からないさ」
 礼拝堂の中では、下は三歳から上は十一歳までの子供たち十人近くが思い思いの行動をしている。


バルトーク11/16 23:37:462212cfBcsmysAsVME||816

 子供たちを見つめるエリーナの視線は慈愛に満ちていた。この目を見ると、トッシュは仄かな嫉妬を子供たちに感じてしまう。
 ここにいる子供たちは、トッシュやエリーナも含めて全員が孤児だ。飢えや戦争によって孤児は後を絶たず、内部での戦力抗争に躍起している行政府ではロクな対策も打ち出しはしない。だからこそ、彼らは助け合って生きていこうと決めた。
 元々、この礼拝堂は孤児院だった。しかし神父は夜逃げしたのか果てまた殺されたのか。行方知れずとなり、今は年長者であったトッシュとエリーナが切り盛りしているという状況だ。孤児全てを救えるとは思えない、当初からの兄弟たちで手一杯である。


バルトーク11/16 23:38:32212cfBcsmysAsVME||544

 しかし―――とトッシュは考える。
 早く見限るべきなのでは無いのか。助け合いなど、一文の得にもならない。既に孤児を養うことを考えなければ、エリーナと二人で暮らすには十分すぎる金を貯めたはずだ。しかし、エリーナはそれを子供たちの為に使ってしまう。
 そう、トッシュは子供たちに何の愛情も抱いてはなかった。多少はある、しかし優先順位を考えれば自ずと答えが出るはずだ。
 彼女には現実が見えていない。だからこそ、俺が現実を見なければ。常々トッシュはそれを考えていた。
 

バルトーク11/16 23:38:592212cfBcsmysAsVME||476

「明日、また仕事に出るよ」
「そう……」
 エリーナはトッシュが仕事に出ることを告げられて表情を曇らせた。
 彼女は生きる糧を得る為といっても、トッシュが人を殺すことは悲しかった。だが、自分に糧を稼ぐ術などない。それが口惜しい、私はなんと無力なのか。
「そんな悲しい顔をしないでくれ」
 トッシュは自分のほうが悲しげな顔をして、エリーナの肩に手を伸ばす。
 今のトッシュがあるのはエリーナのお陰だった。人ならざる人、超人として生まれてきた俺を受け入れてくれたのは彼女が最初で最後。だからトッシュは誓った、彼女を護り幸せにすると。


バルトーク11/16 23:39:552212cfBcsmysAsVME||985

「この仕事が終われば、きっと年を越えるだけの金額が手に入る。だからエリーナ、そんなに悲しまないでくれ」
「分かってます。大丈夫、トッシュ。頑張って下さいね。貴方が無事で帰って来ることを、私は祈っていますから」
 トッシュはその言葉でどれ程報われただろうか。彼女を護るためならば、彼は百万の軍勢を相手に戦いを挑むことも出来るだろう。
 しかし、エリーナが仕事を嫌っていることなどトッシュは既に知っていた。彼女を見ていれば、どんな間抜けでも気がつく。だがトッシュは決してこの仕事から手を引く気は無い。


バルトーク11/16 23:40:472212cfBcsmysAsVME||972

 この能力を活かせるのなら、こんな仕事しかない。それにいつかは朽ちる身。なら、エリーナに残せるだけの物は残してあげたい。
「大丈夫。俺は死なないから」
 トッシュは確信に満ちた声でそう言い放つ。
 この少年、決して暗殺者の使いなどでは無い。かれこそは無敗にして成功率百パーセントの暗殺者であり―――超人であった。


バルトーク11/16 23:41:412212cfBcsmysAsVME||398

 貴族院のゲオルグ議員が殺害されてから一夜、他の議員は次は自分が狙われるのでは無いかと気が気ではない。
 そんな状況は、用心棒にとって稼ぎ時である。
 腕に覚えのある武芸者が各地から集まり、貴族の護衛を申し出ていた。
 その一人にチバと名乗る緑の国の剣士がいる。痩身痩躯、まるで幽鬼のような体躯。
 武器は細い片刃刀が一振りのみで、服装は特徴的な着物と呼ばれる一枚の布を加工した衣服である。
 彼は腕を買われ、貴族院バーグ議員邸に用心棒として招かれていた。
 図らずもバーグ低は、トッシュが今夜襲撃する邸宅である。


バルトーク11/16 23:42:32212cfBcsmysAsVME||253

 深夜。
 ほんのかすかな気配を感じ、チバは目を覚ました。
 自分はバーグ殿の隣室に部屋を取っている。ここまで襲撃者が何の騒ぎも起こさず踏み入るなど考えもつかぬが……チバは訝しがりながらも、主の部屋の扉を開ける。
 目に入ったのは、バーグ殿の胸へと今まさに凶刃を突き立てんとしている下手人の姿。
「貴様、そこで何をしている!」


バルトーク11/16 23:42:482212cfBcsmysAsVME||784

 チバの怒声に驚愕の表情で振り向いたのは、昨日と変わらない服装のトッシュ。その表情は信じられないという驚き半分と、焦り、怒りなどが半分。
「クソッ!」
 苦し紛れにトッシュがバーグへと大振りのナイフを振り下ろす。
 しかしそれは、踏み込んだチバの一撃によって払われた。跳躍と踏み込み、そして抜刀と三工程を得た抜刀の動きは、部屋の端から端ほどの驚異的なリーチを誇る。
 チバはただの剣士ではなかった。緑の国の達人、俗に侍と呼ばれる人種である。


バルトーク11/16 23:43:172212cfBcsmysAsVME||204

「なんで、気がついたんだ」
 トッシュは先程の衝撃で痺れた右腕を庇いながら、左腕でナイフを構えた。
「この程度の殺気、気がつけぬとでも思うたか!」
 出口を塞ぎながらゆっくりと殺気を湛えるチバの姿は、さながら月を映す水面のようである。だからこそ、目の前の敵から逃げるのは、水面に映った月をすくい上げることより難しいだろうとトッシュは直感した。


バルトーク11/16 23:43:312212cfBcsmysAsVME||734

「俺の能力を破るなんて」
 じりじりと後退するトッシュを、ギリギリの距離を保ちながらチバは捕捉し続けている。
 解せない。トッシュを超人たらしめている能力は気配遮断。ここまで誰にも気が付かれずに忍び込めたのもそのお陰だ。しかし、なぜこの男はそれに気が付いた?
 

バルトーク11/16 23:43:512212cfBcsmysAsVME||849
 
「能力―――なるほど、お主は超人であったか」
 トッシュへと狙いをつけたまま、チバはふっと口元に笑みを浮かべる。
「実は我も超人なのだ。ふむ……超人どうしの戦いならば、油断するわけには行かんな」
 その言葉は、トッシュにとって最後チャンスだと告げていた。絶体絶命、しかし何かしらの隙があるならば逆転は可能である。
 窮鼠猫を噛むべく、トッシュは虎視眈々とチバの隙を窺っていた。


バルトーク11/16 23:44:572212cfBcsmysAsVME||686

「無駄だ、行くぞ!!」
 チバが構えを組替えるほんの一刹那、その合間にトッシュは自らの全力を搾り出す。
 それは気配遮断の延長上。この世界に溶け込み、自らへの認識を不可能とする能力。それは感覚透過。
 五感による認識はもとより、第六感、そして認識できないのだから、どのような攻撃も当たるはずがない。
「雷鳴突!」
 しかし透過の時間をそう与えてはくれない。コンマにも満たない時間で繰り出された必殺の一撃。
 

バルトーク11/16 23:45:502212cfBcsmysAsVME||216

 真昼のような眩い蛍光が部屋中に照らし、雷を纏った片手刀が獣のような咆哮を上げた。
 雷鳴剣、雷を宿す剣技こそチバの能力。そして耳をつんざくほどの雷音を響かせながら、破界の刺突が繰り出された。

 どちらが速いか。
 方やまさしく雷鳴のごとき刺突。方や世界さえも否定する完璧な透過。
 チバが繰り出した切先からは、豪奢な屋敷を振るわせるほどの衝撃波が屋内を蹂躙し、轟音が轟いた。まさしく雷鳴である。


バルトーク11/16 23:46:332212cfBcsmysAsVME||680

「む―――!」
 しかしチバは顔をしかめた。手応えが無さ過ぎるのだ。
 どうも下手人には逃げられたらしい。
「こ、これはどういうことだね!!」
 自分の命が消えようとしていたことも知らず、今まさに目を覚ましたバーグ議員は台風が通過したような部屋の様子に目を白黒させている。
 どうやって説明したものか。チバは苦々しくため息をついた。


バルトーク11/16 23:47:122212cfBcsmysAsVME||800
 
 トッシュが目を覚ませば、そこは礼拝堂の見慣れた景色であった。
 どうにも視界が狭い。トッシュが右目へと手を伸ばせば、そこには包帯の感触。
「トッシュ、気がつきましたか?」
 聞きなれた声がトッシュの耳朶を打つ。
 この声を聞くと、傷までが癒えてしまう気がする。だが、彼女に合わせる顔などあるのだろうか。


バルトーク11/16 23:47:512212cfBcsmysAsVME||655

「エリーナ。俺は……」
「大丈夫」
 そっと、包帯の上へとエリーナが手を添える。
「貴方は無事に帰って来てくれた。それで私は満足。だからトッシュ、もうこんな危ない仕事は辞めて下さい」
「だけど―――」
「倹約すれば年くらい越せます。新しい年が来たら仕事を探しましょう。みんなで働けば何とかなりますよ」
 理想論だ……トッシュは夢うつつに考える。
 それでうまくいけば行き倒れなどしないし、餓死者など出るはずも無い。
 だが何故だろう。彼女が言うとそれが最善に思えてしまう。


バルトーク11/16 23:48:462212cfBcsmysAsVME||852

「それも……いいな」
 エリーナの顔がパッと輝く。
 ああ、苦労して仕事を終えた時でさえこんな笑顔を見せてくれなかったというのに―――トッシュは何故だか理不尽な思いに捕われるようにして、再び眠りの泥へと沈んでいった。


 以後、かの暗殺者が活躍したという話は無い。
 しかし平和を望む人々の声は虚しく、赤の国は終わり無き報復戦争へと突入していくのである。


 fin 
 

バルトーク11/16 23:51:132212cfBcsmysAsVME||247

一応世界観が共通な話

http://bbs.chibicon.net/bbs/t12-10241.html 超人戦争15

今読み返すとその頃の稚拙さを切に感じます。
いや、恥かしい。


バルトーク11/16 23:58:122212cfBcsmysAsVME||181

後書き
何を隠そう超人戦争です。いやー懐かしいです。
ふと思い立ってそれを短編の形式で書いてみようかと思い立ったのがこれであります。
侍とか出てる時点で何でもありです。いや、書いてて楽しかった。

読んでくださった方、ありがとうございました。


11/17 8:40:272191cfsii56/wLob6||846
まってました!

 
お早う御座います。
超人戦争を心待ちにしていたおっさんの一人です。
やばいです、興奮しております。
久方ぶりに心が弾む(?)話が読めました。

続編、何年先でも楽しみに待たせていただきます(__*)

バルトーク11/17 10:43:212212cfBcsmysAsVME||37
な、なんとぉぉぉー!!
超驚いております。まさか覚えてくれている方がいたとは……っ
不甲斐なさで途中終了というか放っぽり出されてた作品ですが、こんなことを言ってくれるなんて…… うっ…… うっ…… なんか嬉しいと同時に放った自分が恥かしくなります。

続編書きますとも。頑張ります。
とか言って有言不実行な自分ですが、自分を見つめなおす意味でもやって見ようかなと少し気合が入ってますぜっ!!

シェイラ11/18 21:3:442191cfK1cernkD5gY||789
超人、首を長くしてまってましたぁ!

ものすごく嬉しいです!
また、超人を読める日が来るとわ〜と感激してます(涙)

今回のお話もまた、キャラクター達が生きていていいですね〜。
トッシュの現実主義とエリーナの理想主義とのギャップが読んでいて、胸にぐっときました。

学園シリーズ共々楽しみにしています♪

りゅ11/19 16:58:142184cfAU0jy/xyg/w||913
こんにちは〜。
最初見たときには頭の上に三点リーダーが出てました。結構長かったな〜と思ったり。だいたい八ヶ月くらいかな?
あくまでも現実を貫き通すトッシュと理想を信じるエリーゼの絡みが面白かったです。
ただ、気配を消す能力の持ち主の気配に気付くチバもすごいなーと。ただやっぱり日本名はカタカナは分かりづらいなー。ま、仕方ないことなんすけど。
次は何の作品がでるかな〜なんて期待するのが退屈な授業中に考えることです。
ではではこれにて。

バルトーク11/19 19:22:512212cfBcsmysAsVME||302
シェイラさん、首を長くってこんなに待ってりゃキリンみたいな首の長さに―――!!

かかか、感激なんて!! 覚えてくれた人がいた時点で既に自分が泣きそうっすよ!!
だけど昔の文章を読むと自分が成長してるのか退化してるのか迷います。成長してると思いたいもんすけど;

学園シリーズ、そう、それもあるんですよっ。
自分が色々と掴むきっかけにもなった作品なんで、最後までやりたいんですが……途中で目移りするのもご愛敬。是非是非両シリーズ共々よろしくお願いします!!

バルトーク11/19 19:30:422212cfBcsmysAsVME||453
りゅさんこんばんわー!
そうっすね、八ヶ月はインターバルにはやや長めっすかね。
その間にはたして自分は成長したのかと。充実度で言えば、大会前のあの頃が一番充実してた気がするよ。今は今でいいけども。

日本名も出したいんだよー。日本刀とか大好きだし。
ちなみにチバのモデルは、北辰一刀流の千葉周作なのは言わずもがな。自分の中では武蔵と並ぶ人。

おいおい、授業中にそんなことを考えるくらいなら自分のネタを練るべきだ!
そんなこんなで、でわっ!!


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