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1533僕の居場所で。浅漬け7/11 10:17:562221cfIKs5zGGfHeI
僕は 生きている意味など無かったのだろうか。

何も 救えなかったのだろうか。 この手で。


―――――僕の居場所で。―――――

日曜日。僕はいつものように外に出掛けた。
絵を求めて。 舞い落ちる桜とか 悲しみに暮れた黄昏時の空は
いつも僕を絵筆に向かわせる。キャンパスに書き留めるために。
今日もそんな素材を探しに向かった。
僕を狂わせるぐらいに 素晴らしい素材がないかと。

浅漬け7/11 10:18:52221cfIKs5zGGfHeI||672
そして僕が こんなにもキャンパスに向かうのには理由があった。
・・・その事は思い出したくないのに 今も色褪せず強い記憶で縛られている。

「今日は桜公園に行ってみようかな。」
桜公園とは 僕のウチの近くにある公園で 春には狂ったように桜が咲き誇る
そしてそこには噴水があり、僕のお気に入りの場所の一つだ。
「・・・噴水か。」
今日目に留まったのは 美しき飛沫(しぶき)をあげて 水がサラサラと流れ落ちる
噴水だった。描いてみたい。 この水の流れを。
そして僕はいつものようにキャンパスと絵の具を取り出して スケッチを始めた。
この記憶があせないように 鉛筆を走らせて。

浅漬け7/11 10:18:142221cfIKs5zGGfHeI||383
鉛筆を走らせ終えたら 水色と紺色の絵の具で塗りつける。
水の飛沫をどうしたら上手く出せるか 考えながら
そんな風にして、いつもの休日を過ごしていた。 が。
「綺麗な噴水ですねぇ。素敵です。」
・・はい?そう思って顔を上げた。僕の目の上にいたのは
流れるような漆黒の髪に 澄んだ瞳の とても綺麗な女性だった。
「お上手ですね。憧れます!」
・・いや、感想は良いんだけどさ。だからアンタは誰だっての。
「・・すいません。アナタは誰ですか?」
「あっ、ごめんなさい!あまりに綺麗だったモノで、自己紹介を忘れていましたね!
私は美風。綺良 美風(きら みかぜ)といいます!」

浅漬け7/11 10:19:52221cfIKs5zGGfHeI||888
「あ、はぁ・・そうですか。」
「あなたは?アナタは・・何というのですか?」
・・僕も自己紹介するのかよ。
「・・僕は空風 秋夜(そらかぜ あきや)と言います。とりあえず絵を書くことを趣味としています。」
「素敵ですねぇ!いいなぁ・・私はこんな風に綺麗に書けないです・・。
素晴らしい才能って奴ですよね!」
・・才能なんかは僕にはない。ただ、描いているだけのこと。それだけだ。
才能って言うのは・・あの人の為にある言葉だ。
「・・僕には才能なんてありませんよ。ただ水の流れを書き留めていたかったから
ココでスケッチしてるだけの事です。」

浅漬け7/11 10:19:162221cfIKs5zGGfHeI||401
「そうですか?・・こんなに素敵な絵を描けるんですもの。立派な才能ですよ。
・・でも・・なんていうか。少し寂しげな噴水ですね。」
・・アナタはどうしてそんな風に誉めるんだ。昔のあの人みたいに。僕の心を見透かしているみたいに。
「あなたもお世辞が上手い方ですね。僕には才能なんて一欠片もない。」
「・・・どうしてそんな風に自分を責めるんですか?」
「さぁ・・ただ時の流れに向かって描いていただけの話を、綺麗事を並べられるのは
嫌なだけですよ。」
「そうですか・・・。」
・・・何故そんなに寂しそうな目をするんだ。あの人の面影と重なってしょうがない。

浅漬け7/11 10:19:402221cfIKs5zGGfHeI||82
「あ、じゃぁ・・私はコレで失礼させて貰います。・・また会えるとイイですねっ!」
・・僕は会いたくない。あの人の面影と重なってしまう。アナタのその澄んだ瞳が
僕を余計に縛り付けるから。
・・だぁっ!あの人と話してたらもうこんな時間だ!
夕方じゃないか!・・全く。僕は何をしているんだか。まぁとりあえず絵の具を少しは塗ることが出来たし。
また明日ココへ来よう。・・・学校の帰りにでも。

・・・朝だ・・・。あっという間だな。睡眠なんてとってないんじゃないかと思える。
とにかく早く支度をして学校に行かなきゃ・・。
学校も材料の一つなのだし。キャンパスに向かうための。

浅漬け7/11 10:19:502221cfIKs5zGGfHeI||873
「よー秋夜っ!またキャンパスに絵の具塗りたくってんのか?」
「そんな風に言うなよ宏人(ひろと)・・・。世間一般では描くと言うんだ。」
「そういうもんなのか!よし覚えておこう。」
「全く・・・。」
宏人は僕の唯一の友人というか、・・・親友って奴で。親しくしてるのはコイツだけだが
まぁイイ奴で。・・馬鹿なところが玉に傷なのだが。まぁとにかく割と何でも話せる友人だ。
・・まぁあの事だけは話していないがな。

ふぅ。今日は学校で何も見つからなかったなぁ・・・。また公園に寄ろう。

浅漬け7/11 10:20:12221cfIKs5zGGfHeI||108
・・いた。
あの長い漆黒の髪をまとって、澄んだ瞳で噴水を見つめている女性。
・・美風・・という方だったか。
まぁ僕にはそんなことはどうでも良い。絵が描きたい。思いをのせた絵を。
「あっ!秋夜さん!こんにちわぁ!」
・・気付かれたか。 君は・・やっぱしその目で僕を見るんだね。記憶が縛り付けている目。
「あぁ・・こんにちわ。」
「今日も絵を描かれに来たんですか?」
「まぁ・・。昨日は途中で描くのを止めてしまったので。」
「・・見てていいですか?」
「まぁ・・。どうぞお好きに。」

浅漬け7/11 10:20:112221cfIKs5zGGfHeI||105
また僕はキャンパスに向かった。
絵筆が昨日より早く進む。水色と紺色が溶けていく。
やはり絵筆を動かしているときは最高の時間だと言えよう。
こんなに素晴らしいことはないと感じてしまう。
・・こういう風に絵を描いていると、あの人の目を思い出す。
強い、あの澄んだ眼差し。あの人の絵に対する情熱も
強いモノを感じた。思わず焦がれて惹かれるような、強いまなざし。
・・あの瞳を思い出すと 今でも胸が締め付けられるけど。
「・・やっぱし素敵ですねぇ・・。秋夜さんの絵。」
・・だからそんな風に誉めないでくれ。哀しくなる。

浅漬け7/11 10:20:382221cfIKs5zGGfHeI||946
「だから・・・。僕には才能なんて無いと昨日からから言っているでしょう。
おだてたって何も出ませんよ。」
「わ・・私は・・・ただ秋夜さんの絵が・・上手いから・・。」
あ、・・・少しキツい言い方だったかもしれない。
「キツくてすみません・・。でも。僕は誉められるとか言うことが嫌いなんです。
特に絵。今後止めていただければ2度とあのようなことは言わないでしょう。」
「・・・はいっ!」
突然美風さんがふわっと・・。その周りの空気が一瞬にして柔らかくなってしまうような
笑顔を僕に向けた。・・・美しい。描きたい!・・いや、さすがにダメだろう。
人間とは一瞬であるからこそ美しいモノなのだから。

浅漬け7/11 10:20:472221cfIKs5zGGfHeI||155
「? どうかされたのですか?」
はっ!しまった。つい見とれてしまった。
・・あんなに美しい笑顔は久しぶりに見たな・・・。
「いえ、何でもありません。」
気を取り直さなくては。・・僕が心に決めたのはいつもあの人だけなのだから。
また絵筆を動かす。今度は藍色を絵筆につける。
美しい・・・。今まで描いたモノのなかではかなりいい方だろう・・。
いや、傑作かもしれない。ここまで良いものが書けたのは久しぶりだ。
・・あの人が居た頃だったか。それこそ。
「うわぁ・・・!素敵です・・!この飛沫とかなんてもう本物みたい・・!
あ、ごめんなさい・・。」

浅漬け7/11 10:21:02221cfIKs5zGGfHeI||180
「いや・・・。今回は自分でも良い出来だと思ったので・・。嬉しいです。」
「あ、そうですか!良かったです・・・。」
やはり自分の傑作を誉められると嬉しい。あの人もこんな風に誉めてくれたな。
「では、僕はコレで。」
「えっ・・あの・・待って下さい!」
・・・は?
「まだ何か?」
「いえ・・。もう・・こんな時間ですし。ゆうしょくをごちそうさせて頂けませんか?」
・・はぁ?まぁ・・悪い気はしないんだけど。とりあえず会って間もない女性と男性だ。
この人には警戒心というモノがないのだろうか・・・。

浅漬け7/11 10:21:112221cfIKs5zGGfHeI||790
「まぁ・・。じゃぁお言葉に甘えて。」
「良かった!」
・・またあの笑顔で笑った。美しい・・。どうしてこんなにも人間の一瞬とは美しいのだろう。
儚いけれども、美しい。一瞬とはそう言うモノなのかもしれない。
「うち、ココのすぐ近くなんです!っと・・その前にあの・・買い物付き合っては貰えませんか?」
「え・・まぁいいですよ。今夜は何のメニューにするつもりなんですか?」
「肉じゃがとワカメと豆腐のみそ汁と焼き魚です!」
・・随分と和風だなぁ。まぁいい。ここのところ絵ばかりでろくなもん食ってなかったし。

浅漬け7/11 10:21:242221cfIKs5zGGfHeI||697
「ここ、安いんですよ!」
そう言われて入ったお店は随分とシャレててとてもスーパーマーケットには見えない店だった。
「ここ・・本当に食材が売ってるんですか?」
「勿論ですよ!この奥です。」
少し廊下を歩く。前に見えたのは・・え?ココ・・さっきの本当にしゃれた店の一部なのか!?
どう見ても・・市場だ!
「ココ、私の穴場なんです。洒落た雰囲気の店の奥に、まさかこんなトコがあるなんて
思ってなかったでしょう?」
当たり前だ。しかもあんなに洒落てて落ち着いた雰囲気の店がいきなりこんなに
活気溢れる場所となるなんて・・・。

浅漬け7/11 10:27:402221cfIKs5zGGfHeI||497
「私も・・・最初、ココがこんなお店だったなんて知らなかったんです。
ちょっとお洒落な店があったから入ってみようかなぁ・・なんて。そんな感じで。」
凄いなぁ・・・。こんな不思議な光景がこの世にあったのか・・。
「ココの事、誰にも言っちゃダメですよっ!私たちだけの秘密ですからね!」
無邪気な笑顔で美風さんが笑った。さっきの魅入るようなあの笑顔とは違って
今度は凄く・・・何というのだろう。抱きしめたくなるような無邪気さというか。
まぁいい。とにかく今は腹が減った。
「・・・分かりました。秘密にしておきます。さぁ、早く買い物をしましょう。」
「そうですね!」


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