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2917これ、マジッスカ?熊雄9/13 18:23:562195cfAQAdSc9sPQA
そのころ私は、大手警備会社に所属していた。
この話は、同僚の警備員Cが話してくれたものである。

彼は阪神高速道路の夜間集中工事の警備の応援ため東京から神戸へと出張していた。
応援と言っても作業自体、難しい物でも無く、東京でよく行われている高速道路の集中工事とさほど変わるはずもなかった。
高速道路上で工事車両と一般車両の接触事故が起きないように、高速道路の車線を規制する-------それだけのことであった。
ただ一般の道路工事と違うのは、作業が高速道路上のため、トイレや食事で高速道路を降りる訳にはいかない。

熊雄9/13 18:26:82195cfAQAdSc9sPQA||742
そこで、作業員はあらかじめ食事を持参し高速道路上の安全な場所で食べ、トイレは工事終了まで、ひたすら我慢しなければいけなかった。

その日もCくんは、工事帯の中程で、工事車両の出入の管理をしていた。
夜8時から始まった工事はいつしか真夜中になっていた。
すると、工事帯先頭にいるはずの新人のSが、彼の方へと泡を食って走ってきた。
Sの持ち場は工事帯の先頭で誘導灯を振り、走ってくる車に工事帯の存在を促し、工事帯へ車両が突っ込まないようにしなければならない最も重要な場所である。
そこを、勝手に離れた事にCは怒鳴った。
「こらS! すぐに戻れ! トイレだったら我慢しろって言っただろ!」

熊雄9/13 18:26:262195cfAQAdSc9sPQA||207
しかし、Sは違うとばかりに、大きく首を横に振りながら走ってくる。
「ちゃうんす!せんぱい!、お・お・俺、みちゃったんです!」
しかし、CくんはSのいいわけを聞こうとしなかった。
「いいから、戻れ!」
しかしSは、Cのもとに来ると、半べそをかきながら、
「イヤっす。出たんすよ!だから、あそこはイヤです。」
と訳の分からない事を言ったまま、持ち場に戻ろうとしない。
仕方なく、CくんはSにその場を任すと、自らSの持ち場である工事帯先頭へと向かった。
幸いSのいない間に問題はおきておらず、急いでCくんはSの代わりに誘導灯を振り始めた。

熊雄9/13 18:26:462195cfAQAdSc9sPQA||194
      ※      ※      ※
…1時間を過ぎても何ら異常や変化はなかった。
「あいつ、何が嫌だったんだろう?」
Cくんがそう思っていたそのときであった。
中央分離帯の柵の上で何かが動いた。

「えっ?!」

それは、中年の男だった。
服装からしても作業員ではない。
カッターシャツを着た男が柵の上からこちらの車線を伺っている。
「車両トラブルか?」

熊雄9/13 18:27:02195cfAQAdSc9sPQA||380
反対車線で車にトラブルか何かが起きて、Cくんから20メートル程前にある「緊急用電話」に男は向かおうとしている、そう彼は思った。
しかし、車の流れは、深夜になり少なくなっているとはいえ、ほとんどの車は時速100キロ近くを出している。
遠くに見えている車も、あっと言う間に目の前を通り過ぎて行く。
そんな中を「緊急用電話」を求めて車線を横断するのは危なすぎる。
「おい!危ないぞ〜っ!!動くなぁ!」
Cくんは、叫んだ。
しかし、その声は男には聞こえてはいない様子だった。
男は、一瞬「ゆらっ」としたかと思うと、こちらの車線へ降り立ちゆっくりと「緊急用電話」へと歩き始めた。

熊雄9/13 18:27:132195cfAQAdSc9sPQA||235
「危ないから戻れ〜!!」
Cくんはありったけの声を出して叫んだが、男には聞こえていない様子だった。
そこに、けたたましい轟音と共に大型トラックが走ってきた。
トラックは男に気づいていないのか、一向にスピードを落とす気配はない。
そしてトラックのヘッドランプが男を照らしだした。

「あっ!」

その瞬間、男はヘッドランプの光に溶けてしまうように、すっと消えてしまった。
トラックは何事もなかったかのように、彼の横を通り過ぎていった。
Cくんは目の前で何が起こったのかわからずに呆然としていた。

熊雄9/13 18:27:252195cfAQAdSc9sPQA||696
そして、Sの言っていた言葉を思い出し身震いした…。

「あいつ、このことを言っていたのか…」
Cくんが、気を取り直して仕事を続けようとしたそのとき、ふたたび中央分離帯で何かが動くのを見た。

熊雄9/13 18:27:452195cfAQAdSc9sPQA||206
…さっきの男が柵の上でゆっくりとこちらの車線を伺っていた…。
※ 補足事項
この話は、この工事に関わった複数の同僚から似た話を聞くこととなった。
中には、大勢の人間が行列をしながら数分に渡って横断していたと言う話もありしばらく会社ではこの話で持ちきりとなった。
しかし、原因は不明のまま、この場所は3ヶ月後、阪神淡路震災で大破した。

熊雄9/13 18:28:332195cfAQAdSc9sPQA||229
トーテムーポール


前話の「横断者」と同じく「阪神高速道路」の集中工事の際に起きた話である。

その日、Nくんは遅めの食事を高速道路上で取っていた。
工事中、保安の関係で警備員は一斉に食事休憩を取ることはない。
大概は、ローテーションで少数づつ休憩を取るか、休憩抜きになる。
その晩Nくんはローテーションの最後の順番で、休憩に入った時は3時近くになっていた。
食事休憩と言っても高速道路の上である。

熊雄9/13 18:28:582195cfAQAdSc9sPQA||546
勝手に下に降りるわけにもいかないし、当然、ゆっくりと休める場所は無く、Nくんは長く伸びた工事帯のはずれで1人食事を取っていた。

道路の上に腰を降ろし、工事前に買ってきたパンをほおばろうとしたときだった。
「おっ? 今頃食事かぃ? 遅いじゃないか…。」
と、声をかけられた。
見ると、顔見知りのトラックの運転手が彼を後ろからのぞき込んでいる。
「そうなんですよ、おなかが減っちゃって…。 運転手さんはもう食べたんですか?」
Nくんは運転手にそう返した。
「いやぁ、俺らもまだなんだわ。 それにしてもおいしそうだなぁ。 ちょっとくれよ!」

熊雄9/13 18:29:542195cfAQAdSc9sPQA||590
運転手は冗談半分にパンに手を伸ばした。
「またまたぁ…ダメですよ!」
Nくんは運転手からパンをさっと隠すと笑った。運転手も、その様子を見て笑った。
「邪魔したな。じゃ、また!」
そういうと、運転手は工事帯の奥の方にある自分のトラックの方へと歩いていった。
      ×      ×      ×
4つ程のパンを食べ終え、最後の1つをビニール袋から取り出そうとしたとき、Nくんは背後から再び声をかけられたような気がした。
ちょっと、目線を送ると彼の後ろから誰かがのぞき込んでいる。
「はは〜ん、運転手さんだな…」
彼は顔の方に首を向けた。

熊雄9/13 18:30:62195cfAQAdSc9sPQA||400
しかし、その顔は運転手では無く、知らない中年の男の顔だった。
暗い高速道路上でその顔は、いやに白く光って見えた。
さらに、目線を上げるとのぞき込んでいるのはその顔ひとつでは無かった…。
その白い顔の上から、もうひとり中年の男がNくんをじっとのぞき込んでいる。
「なんだろう? 俺なんかしたかな?」
そう思った彼は、男達の顔を見るべくパンを道路に置き、ゆっくりと体をひねった。

「い、いっ!?」

Nくんをのぞき込んでいたのは2人では無かった。
その2つの顔の上で、さらに3人の男が彼をのぞき込んでいた。

熊雄9/13 18:30:132195cfAQAdSc9sPQA||408
しかも、どの顔にも首から下は無い…。

胴体のない白い顔だけが真っ直ぐ上に5つ並んで彼をのぞき込んでいたのだ…。

「あっ!……トーテムポール……」

Nくんは次の日から仕事を休んだ…。

熊雄9/13 18:31:72195cfAQAdSc9sPQA||917
あの人はいいんだ

東京・池袋にある、超高層ビルの夜間警備に派遣された私の友人の話である。
警備の初日、彼は先輩についてビル内を案内されていた。
「…この時間になるとフロアには誰もいなくなる。チェックするドアはこことここ。
時間はこれこれ。誰か不審な人物を見かけたら決して一人では追いかけないように。
必ず他のフロアの警備員を呼びよせて…。大丈夫か?
明日からは一人で巡るんだからな。」
「…わかりました。」
彼はうなづいた。
「…でも先輩、さっきこのフロアはもう誰も居ないって言いましたよね。でもあそこ…。
あの壁の所に男の人が立っていますよ。」

熊雄9/13 18:31:142195cfAQAdSc9sPQA||302
「何だって!何処だ!」
彼は薄暗がりになっているエスカレーター脇の壁を指さした。
壁の隅に、ぼうっと男が立ってこちらを見ている。

「…ああ、あ・あの人…。」

先輩警備員はチラリッと無関心な視線を投げ、その場を足速に離れながら言った。

「…あの人はいいんだ…。」

熊雄9/13 18:32:332195cfAQAdSc9sPQA||85
とっておきの部屋

私が旅行会社の添乗員をしていた頃の話である。
確かあれは、『食欲の秋!味覚の紅葉と紅ズワイガニ食べ放題!』などと銘打ったバスを使った○○島ツアーの添乗をした時のことだった。
朝8時に池袋を出発し、関越道経由で新潟港からフェリーに乗り島へ。
夕方にはホテルに到着の予定が、途中様々なアクシデントにより、ようやく私たちがホテルについた時には、すでに日は暮れ辺りは真っ暗になっていた。
「遠い所、お疲れ様で御座います。あとの、お客様のご案内の方は手前供でやります。
添乗員さんは、どうぞお部屋の方で御夕食まで、ひとやすみなさって下さい。」

熊雄9/13 18:34:122195cfAQAdSc9sPQA||130
バスのお客全員のチェックインをすまし、夕食場所の説明などを終えた私にホテルの支配人が話しかけてきた。
「お陰様で、今日は久しぶりの満室でして、どたばた騒ぎで申し訳ありません。」
「じゃあ、私はバスの運転手さん達と一緒の部屋ですね。」
お客様最優先のこの業界。こういった場合は添乗員や運転手などは、一番安い部屋で相部屋になるのがセオリーであり、新人の添乗員や運転手はこういった機会に先輩の経験談や情報を教えて貰えるいい機会なのである。
私も、その日のバスの運転手と意気投合していたため、少々それを期待していた。

熊雄9/13 18:34:252195cfAQAdSc9sPQA||868
「いいえ、添乗員さんに相部屋なんて。とっておきの部屋を用意してありますので、どうぞ、そちらでごゆっくりおくつろぎください。」

「とっておきの部屋?」

支配人はそう言うと私を部屋まで案内した。
その部屋は、驚くほどに綺麗な部屋であった。
16畳程の広さの部屋に小規模ながらも個室風呂まで付いている。
窓からの眺めもたいへんに良く、2階の窓からは「蛍イカ漁」に行く眩い光を放つ漁船たちがまさに今、港を出て行く姿が見える。
「おかしい…。」

熊雄9/13 18:34:372195cfAQAdSc9sPQA||847
それは、あきらかであった。
今日のこのホテルの宿泊者は間違いなく多いはずである。
なぜなら、私のお客さんが2人部屋を希望したが満員を理由に断られているのである。
加えて、入り口に掲げてある『歓迎』の看板には5コースものツアー名が書いてあった。
通常なら、この部屋には最低4人、この状態ならば6人は宿泊させる事ができるはずである。
私には、嫌な予感がしていた。

熊雄9/13 18:34:512195cfAQAdSc9sPQA||420
         *     *     *
案の定、私の予感は的中した。
大広間でお客さんとの夕食を終え部屋へ戻った私はドアを開け驚いた。
部屋の中に線香の臭いが立込めているのだ。
「やられた…。」
しかし、他の部屋が満室と分っている今、部屋の変更などできるはずもない。
しかたなく、早めに風呂に入りさっさと寝てしまうことにした。
もちろん、この部屋にある風呂に入る訳もなく、大浴場へとむかった。
風呂から戻ると、再び私は驚いた。
真っ暗な部屋の中に付けてもいないはずのテレビが明るく光っていた。

熊雄9/13 18:35:22195cfAQAdSc9sPQA||219
ここの、テレビは一昔前のコインを入れて数十分見れるというものであり、番組もNHKを覗けばアダルト以外はまともに見れない。
したがって、かってにテレビが付くはずもなく、また万一私が消し忘れたとしても、入浴中に消えているはずなのだ…。(残り時間は有効利用いたしました…)
 私は、がむしゃらに布団を頭からかぶり眠った。

- ドン!!………ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン! -

激しく何かを叩く音で、私は目を覚ました。
それは、右隣の部屋からであった。まるで壁を叩くかの様に部屋全体が痺れる、そんな感じの音であった。

熊雄9/13 18:35:162195cfAQAdSc9sPQA||789
「うるせーな!ヨッパライが…。まったく、寝かしてくれよ。」
外はなお暗く、手元の時計は2時を少しまわっていた。
しばらくするとその音もやみ、ふたたび静寂が戻ってきた。
私は、布団をかぶった。
途端、部屋全体の空気が重くなり私は身動きできなくなってしまった。

- パタ・パタ・パタ・パタ・パタ・パタ・パタ・パタ -

枕元を小さな足音が走り回っている。
はしゃぐように走るそれは、あきらかに子供の足音だった。
          *     *     *
いつの間に寝てしまったのか、私が気が付いたのは翌朝のことであった。

熊雄9/13 18:35:272195cfAQAdSc9sPQA||716
このツアーは朝早くホテルを出発のため、私は、昨夜の事など気に掛けないよう急いで身支度を済ませ集合場所であるロビーへと部屋をでた。
廊下へ出た途端、ゾッとなった。

夜中、壁を叩いていた右隣の部屋がないのだ。
いや、正確に言うと扉に目張りと釘が打ち付けてあり、現在は使用されていなかったのだった。
ロビーは5種類ものツアーが入り乱れパニック状態であった。
ツアーの出発準備に追われる私の耳に、支配人が他の添乗員と話す声が聞こえてきた。

熊雄9/13 18:35:342195cfAQAdSc9sPQA||785
「昨日は、相部屋で窮屈さまでした。今晩はとっておきの部屋をご用意しておきますから…」
「……………………!。」
          *     *     *
後日、ベテランの添乗員から聞いた話では、あの小さな足音の主は、以前右隣の部屋の無理心中で亡くなった幼い少女のものだと言うことだった…。

熊雄9/13 18:36:142195cfAQAdSc9sPQA||111
パラパラッ

から十年程前。私がアニメーション業界で働いていた時、ある有名なベテラン演出家(監督・総監督)から聞かされた話である。
       *    *    *
まだ駆け出しだった昭和40年代、彼は東映で専属のアニメーターだった。
その日もいつもの様に、大泉の東映にある自分の机で新作映画の動画を描いていた。
新人の彼には1日のノルマを仕上げるのも一苦労であり、
いつもの如く気付くとすでに辺りは暗くなっていた。
当時の東映周辺は、日が暮れてからの夕食や夜食の確保は至難の技であった。
慌てた彼は食料を余分に確保している友人に、何か分けて貰おうと席を立った…。
「吉田!」

熊雄9/13 18:36:292195cfAQAdSc9sPQA||423
しかし、百畳はあろうかという作画室の中に、友人の姿はなく
部屋の中にいたのは、彼ただ1人であった。
『不夜城』と呼ばれた東映で、しかも50以上もの動画机の並ぶ大部屋である。
いつもであれば、何時であろうが誰か数人は残っているはずであった。
「ついてないな…。」
そう呟くと彼は、再び机に座り続きの動画を描き始めた。
「あっ!」
数分もしないうちに突如、部屋の明りが消えた。廊下で守衛の足音が聞こえる。
「あの、おじさん。俺がいるのに電気消してっちゃったよ…。まいったなあ…。」
仕方なく彼は、暗い部屋の中で仕事を続けた。

−パラパラッ -

熊雄9/13 18:36:422195cfAQAdSc9sPQA||432
彼は顔を上げた。誰もいない部屋の中で何かが聞こえた。

- パラパラッ -

それは、動画をチェックする時にパラパラと紙をめくる音であった。
『なーんだ。まだ、誰かいるんじゃないか。 何か食べ物もってないか聞いてみよう。』
彼は立ち上がり様に言った。
「おーい!誰かいるのかい。」
しかし、返事はない。
真っ暗な部屋の中、動画机が明るく光っているのは、彼の机以外に無かった。
『あれーっ。気のせいか?』

熊雄9/13 18:36:552195cfAQAdSc9sPQA||68
彼は、首をひねり再び机に向かった。

− パラパラパラッ -

音は彼の向かいの机から聞こえる。
慌てて、立ち上がり確認するため向こう側に回り込んだ。
しかし向かいの机には、誰もいなければ机に明りもない。

− パラパラパラパラッ -

その音は、今いた自分の机から聞こえた…。
彼は這いずりながらその場を後にし、以来夜中の仕事は絶対にしなくなったと言う。

熊雄9/13 18:37:272195cfAQAdSc9sPQA||344
現在、その部屋には1台の動画机もなく違うセクションの部屋となっている…。

熊雄9/13 18:38:232195cfAQAdSc9sPQA||113
リヒテルを連れた女

こわい話、というとつい聞きたくなるのが人情である。
しかし自分が語り手になろうとは・・・。  かなり以前の話になる。
それは友人のA女史が、怖い同人誌を買ったと電話をしてきたところから始まる。
なんでもオリジナル系同人誌即売会で買ってきたのだそうだ。
内容は
『頭の中にキャラクターの名を語る獣霊が棲みついて、
                       会話をしたり、眼の前に出てきたりする』
というものだった。
怖かった。 半端でなく怖かった。

熊雄9/13 18:39:362195cfAQAdSc9sPQA||447
A女史はその本を貸してくれると言ってくれたが、丁重にお断りした。
怖さのあまり、その夜は電気をつけて寝たほどだ。
なぜそんな怖かったのか。
全く同じ話を私は知っていたからだ。
同人誌では『キャプテン翼』のキャラクターだったということだったが、その人は『宇宙戦艦ヤマト』のキャラをつれていた(古い)。
一度しか会ってない友人の知り合いで、お茶会に現れた彼女の印象は、変なところの何もない、ごくごく普通の身なりのいいお嬢さんだった。
最初はありがちな話題から始まり、盛りあがって来た時、不意にその話が出た。

熊雄9/13 18:39:482195cfAQAdSc9sPQA||919
「私のそばにはヤマトのみんながいるの。」
彼女が言うには「いつもそばにいて、姿も見えれば会話もできる」というのだ。
「ええ〜?ほんと〜?今もいる?。」
と、半ば茶化して尋ねた我々に、彼女はまじめな顔で、
「ええ、今もそこにいるわ。」
と何もない空間を指さしたのだった。
「!」
我々は目が点になった。
彼女の話によると、キャラたちは想像でなく実際にいて、彼女に話しかけたり、キャラ同士で会話するのだという。
「アニメではこうこうこういう表現をされてるけど、ほんとは彼はこんな性格なの。」

熊雄9/13 18:40:72195cfAQAdSc9sPQA||632
と彼女の話はだんだん熱を帯びて来る。
「アニメのキャラとはいえ、いったん名前を与えられると、魂が宿るものなのよ。」
とも…。
 そういう彼女の話を否定する理由もない我々は、ただ相槌を打っていた。
         *   *   *
同じ話がまた別の場所であった。
彼女の場合は最初、自分のオリジナルキャラが周囲に現れる、というところから始まった。それは、彼女がオリジナル作家だった為だ。
ところがある時彼女は『闘将ダイモス』というアニメにのめりこんだ。
『ダイモス』と言っても今の人たちはわからないだろうが(笑)、故長浜監督の美形悪役がでる二十年以上も昔のロボットアニメである。

熊雄9/13 18:40:212195cfAQAdSc9sPQA||522
彼女はその敵役の、『リヒテル』 という背中に白い翼をもった、金髪の美形キャラに傾倒した。
ある時、霊感の強い友人が、たまたま彼女の姿をみかけたところ、その友人が
「あれっ!」
と声をあげた。
「あの子、すごい形の霊を連れてるわ。」
「え、なに、なに。」

熊雄9/13 18:40:282195cfAQAdSc9sPQA||418
「長い金髪で白い翼持った男の形をしてる。」
その友人は彼女が『リヒテル』に傾倒し、『リヒテル』の霊と会話ができる、などという話を知らない。なのに、実際に『リヒテル』の姿をしたものが見えるなんて!
霊が彼女の望む姿になっているのか、その辺は私にはわからない。
話す分には普通の人で、霊にとりつかれている感じはない人だ。
でもあんな話を聞くとこわくなってしまう。


− それだけの話だ。

熊雄9/13 18:41:372195cfAQAdSc9sPQA||709
交差点にて

「霊というのは、なにもひと気のない寂しい場所に限って現れる」
というものではないらしい。

これは、私の部下『N』が東京・渋谷駅前のスクランブル交差点で体験した話だ。
その日も彼は、いつものように営業の外回りから会社に戻る途中であった。
まだ明るい夕方。
Nはその交差点で、向い側で信号待ちをしている人だかりを何気なく見ていた。
ふと、その中の一人の女性に眼が止まった。
年の頃は二十歳位、髪を肩までのばし真朱なコートを着たN好みの女性だったという。

熊雄9/13 18:41:492195cfAQAdSc9sPQA||245
(私に言わせると、Nに好みなど無いような…。)
『うわーっ。いい女だなあ。あんな彼女が俺にもいたらなあ…。うふふふふっ。』
本能のままNはそう思った。
やがて、信号が赤から青に変わり四方から一斉に人の流れが動き始めた。
彼女も人の流れに乗ってこちらへ歩いて来る。
Nは、わくわくしながら、少しずつ彼女の方に軌道修正をしながら歩いて行った。
あわよくば声を掛けてお茶にでも誘おう、などと思ったらしい。
Nは、歩く速度を早めていった。
彼女もこちらへと向かって来る。わくわく、どきどきの瞬間が迫ってきた…。
が、Nははたと足を止めた。

熊雄9/13 18:42:402195cfAQAdSc9sPQA||779
なにか、彼女の様子が変なのだ…。
彼女の後から、早足で交差点を渡り切ろうとする男がやってくる。
人の流れをぬうようにこちらへと…。
男が彼女の背後に近づいた次の瞬間、男は彼女の体を突き抜け飛び出して来たのだ。
Nは慌てた………。
そして、彼が呆然としている目の前で、次々と周りの人も彼女を突き抜けていった。
もう、Nの頭の中には声を掛けるなどという選択肢はなく、一刻も早く彼女の脇を通りぬけるこの直線から離れることしか無かった…。

熊雄9/13 18:43:232195cfAQAdSc9sPQA||283
真朱なコートが、Nの脇をまるで、空気が流れるかの様にスーッと通り過ぎていった。
そして、四方からの人の流れがぶつかり、交じり、真朱のコートはその波の間へと消えていった。
Nは渡り切った交差点を暫くの間、声も出せずに眺めていた。
しかし、再び真夏の夕方に真朱なコートを見る事は無かった…。

熊雄9/13 18:43:352195cfAQAdSc9sPQA||800
         *     *     *
それから半年後。外回りから帰って来たNが興奮しながら私にこう話した。
「課長!課長! 今しがた、例のあの真朱いコートの女を見かけたんですよ。
参ったよなあ…。今度会ったら、正面から彼女に『ブチュッ』と飛び込んで、突き抜けてみたいと思っていたのに…。あと、5メートルってところでスーッと消えちゃうんですよ。」
「………!………」
「汚ったねえよなあ。よーし、絶対に今度こそはガンバルぞ!。」

熊雄9/13 18:43:432195cfAQAdSc9sPQA||63
…私は絶句した。


[余談]
Nの話だと、この他にも老紳士や彼の好みでない女性等、数人の霊が信号待ちしているのを確認済みとの事であり、ひどいときは1週間に1人位の割合ですれ違うそうである。

熊雄9/13 18:44:202195cfAQAdSc9sPQA||749
出版社の子ども

それは、まず私の友達のAさんから聞いた。
「私は霊感ゼロなんだけどさ、何年か前に池袋の『S出版』にBちゃんと入稿しに行った時に見ちゃったんだ…。
徹夜明けにS出版で必死に面付をしてたら、どうも目の端にチラチラ子供の姿が見えるの…で、振り返ってハッキリ見ようとすると、そこには誰もいないのよ。
あんまり気味が悪いからBちゃんにおそるおそる聞いたんだけど、
『そんなの気のせいよ…。何も感じないわよ。』
っていうし、きっと徹夜明けだったから寝ぼけたなって思ったの。
ところがその帰り道、Bちゃんが

熊雄9/13 18:44:332195cfAQAdSc9sPQA||795
『…あんたがあそこで下手に騒いでついてきたらいけないと思って言わなかったけど、あそこの印刷屋には子供(の霊)が2人、いるんだよ。あたしも以前入稿帰りについてこられたことあってさ。どうしようと思ったんだけど公園の脇通った時、公園に別の子供の霊がいたんで、そっちいっちゃってさ。よかったよ。』
だって。ゾーッ。
私は電話でこの話を聞き、その夜怖さのあまり電気をつけたまま寝た。

         ×   ×   ×
後日、私がCさんと電話でオバケの話をしていたところ、Cさんが
「あたしさー、どうやら霊に嫌われる体質なんだって。
巫女の家系の子に言われたことあるんだ。

熊雄9/13 18:44:462195cfAQAdSc9sPQA||154
(いわく、現実主義、割切りが早く誰にでも好かれる明るい性格なのだそうだ)
でもさあ、一回だけそれっぽいの見たことあんだよー。」
などと言いだした。
その話とは…

「前に入稿に行ったとき、もう夜の12時を回ってたんじゃないかな。
そうしたらさ、何か階段の踊り場あたりで子供が2、3人チラチラ見えるの。
初めは近所の子供かなと思ったんだけど、時間が時間じゃない…。
だから印刷屋にも確かめられなかったけど…。やっぱり、それって錯覚だよね。アハハー。」
こいつも徹夜続きだった。
「…それってどこの印刷屋?。」

熊雄9/13 18:44:572195cfAQAdSc9sPQA||737
「S出版。」
「……。」
CさんはS出版の子供の霊の話なんか全然知らなかったそうで、
私がAちゃんの話を聞かせてあげると、
「も〜っ。錯覚だって信じていたかったのに〜。」
と泣いた…………。

熊雄9/13 18:45:22195cfAQAdSc9sPQA||461
         *   *   *
池袋にあった『S出版』は、Aちゃんが『子供たち』見たあとしばらくして移転したそうだが、Bちゃんの話によるとその後も『子供たち』は移転したS出版にいたそうで、 どうやら『子供たち』は建物にではなく、S出版そのものに憑いているらしいとの事だった。

ちなみに私も、移転前の『S出版』には何度か入稿に行ったことがあるのだ…。

熊雄9/13 18:45:522195cfAQAdSc9sPQA||500
窓辺の少女

高校時代の友人『A』から聞いた話だ。
彼が中学3年生のころの事。それは進学塾からの帰宅途中に起きた。
自転車を漕ぎながらふと時計を見ると、針は九時半を回っていた。
「まずいなあ。十時からみたいテレビがあるし…。近道するか…。」
しかたなく彼は、普段は足場の暗さから避けている小学校脇の農道へ向かった。
暗い農道を走り続けると、急にひらけた所へと出た。
やがて、遠くに小学校の校舎が見えてくる。
「あれ?」
校舎の壁の小さな窓に誰かがいる。

熊雄9/13 18:46:72195cfAQAdSc9sPQA||41
彼の自転車を漕ぐ速さが増し、段々と小学校へと近付いてゆく。
それは、ひとりの少女であった。窓から腰まで身を乗出しこちらの方をジッと見ている。
「こんな時間に何やってんだろう。何年の娘かな。」
根っからのひょうきん者の彼は、自転車を止め少女に向かって、大声で叫びながら、ありったけのギャグをかました。
しかし、少女は無表情のまま一言も喋らず、ただ虚ろな目で彼をじっと見つめているだけであった。
「変な娘…。」
あきらめて、自転車のペダルを漕ぎ始めたその瞬間!彼は気が付いた。
「変だ! あの壁に窓なんかある筈無い!
彼女の胴体も不自然に長すぎるし、だいいち腰から下がねじれている…。」

熊雄9/13 18:46:482195cfAQAdSc9sPQA||36
彼は悲鳴を上げ、泣きながら家へと走った。
そして、テレビは見なかった。


翌日、新聞で昨日あの小学校で自殺した少女がいた事を知った。

熊雄9/13 18:47:282195cfAQAdSc9sPQA||20
草をむしる老婆

「なあ、君はオバケや幽霊って信じるかい?」
唐突に、野口氏が私に話しかけてきた。
私は盲腸をこじらせ腹膜炎、野口氏は左足複雑骨折にて入院中のベットの上での事である。
「さあ…。僕は信じていますけど、人はどうなんでしょうね。」
「そうか。実は、俺も信じているんだ。とは言ってもつい最近信じ初めたんだけどな。」
 そう言って野口氏は、ギプスで固められた左足を指差しながら笑った。
「この足は幽霊に折られたんだ。俺は今でもそう思っているんだ。誰も信じちゃくれないけどな。」

熊雄9/13 18:47:422195cfAQAdSc9sPQA||9
         *   *   *
野口氏は新聞配達をしながら専門学校に通う奨学生だった。
彼の担当地区は他の地区に比べ狭く、配達件数もそれほど多くないのに、仲間の間では人気のない区域だった。
それは、墓地の敷地を横断しないと、配達ができない2軒の家が担当地区の中にあったからだった。
しかし幽霊などを信じていない彼には、最高の地区であり他の仲間の怯えようが信じられなかった。
ましてや、自分がその当事者になろうとは夢にも思っていなかった。

熊雄9/13 18:48:302195cfAQAdSc9sPQA||105
その日は前の夜から激しい雨が降っていた。
いつも通り朝刊の配達に出た彼は、墓地奥の2軒の配達へとやってきた。
まだ真っ暗な早朝。加えて、この豪雨のため、墓地の奥の視界はひどく悪い。
墓地のところどころにある街灯だけを頼りにバイクを走らせねばならなかった…。
2軒目のポストに、ようやく新聞を放り込み彼は大きな溜め息をついた。
いつもなら、往復で2分もあれば済むところを片道に3分以上もかかってしまった。
たいした時間では無いが、こんな雨の日はとにかく1分1秒でも、はやく帰って熱いシャワーでも浴びたい。

熊雄9/13 18:49:192195cfAQAdSc9sPQA||287
- こんなんじゃ、何時に終わるか分かったもんじゃない。 -
彼は来た時よりも速いスピードで、墓地の出口に向かって、バイクを走らせた。
何本目かの街灯にさしかかると、その下に白い大きなごみ袋がおいてある。
− あれ?来るときは何もなかったはずなのに…。 -
好奇心にかられた彼は、その物体を確認すべくバイクで近寄った。
大きなごみ袋に見えたそれは、雨にうたれうずくまっている白い着物の老婆であった。
老婆はこちらに気づく様子も無く、うずくまったまま独りで何かを呟いていた。

熊雄9/13 18:49:322195cfAQAdSc9sPQA||978
- ははぁん。これは、嫁とケンカでもして家を飛び出した、近所のバアさんだな。-
厄介ごとに巻き込まれるのが嫌な彼は、バイクのアクセルをふかし、この場を素早く立ち去ろうとした。
と、その時老婆がこちらを向き、立ち上がった。
そして、バイクの眼の前を、すたすたと横断し始めたのだ。
その着物はこの雨にもかかわらず、全く濡れていない。
それどころか、着物の裾は静かに風になびいている。
老婆は再びしゃがみ込むと小さな墓の雑草をむしりだした。
それは異様な光景だった。
泣き声とも叫び声ともつかない嗚咽を漏らしながら、老婆は草をむしり取っている。

熊雄9/13 18:49:522195cfAQAdSc9sPQA||440
野口氏はバイクにまたがったまま、その場にたちつくしていた。
老婆の背中が突然大きくゆらいだ。ゆらぎはしだいに大きくなり、ゆっくりと眼の前から老婆は姿を消していった。十数秒程の出来事であった。
配達の事などもう彼の頭の中にはなかった。
パニックに陥った彼はバイクを無我夢中に走らせた。
見通しの良いT字路にでた。正面には見慣れた販売店が見える。
- 助かった -
彼が安心したその瞬間!
いままでいなかったはずのトラックが、突然バイクの目の前に現れた。

熊雄9/13 18:50:112195cfAQAdSc9sPQA||613
とっさの事にバイクは避ける間もなく、トラックの下に挟まれ50メートル程アスファルトの上を引き摺られる。
やっと、止まったトラックの下から這い出そうとした時、彼は左足に走る劇痛に耐えきれず気を失った。
次に目を覚ましたのは、この病院のベッドの上だった…。
全治9ケ月。そう告げられた。

熊雄9/13 18:50:232195cfAQAdSc9sPQA||117
        ×   ×   ×
もちろん周囲の人は彼の話を信じなかった。
販売所の人たちは当然のこと、両親まで老婆を見たというだけでなく、それが幽霊だったなどという話など信じてはくれなかった。
野口氏は誰にも話を聞いてもらえず、半ばイライラしながら病床に伏し続けた。
…そして3ケ月後、その隣りに私が入院したのである。
さて野口氏が入院して数日後、彼の先輩で新聞配達の仲間でもあるT氏がお見舞いに訪れた。
T氏は野口氏のもっとも親しい友人で、野口氏は彼にもまた老婆の話を繰り返した。
…当然だが、彼も真に受けた様子はなかった。

熊雄9/13 18:50:352195cfAQAdSc9sPQA||588
「そうか。あの地区は今までみんなで代わりばんこに配達してきたんだが、明日から俺が担当することになったんだ。お前がそこまで言うんだったら、ひとつその老婆がいたという場所を見てきてやろう。」
「頼む、おちおち寝てもいられないんだ」
「配達を終えたら、まっすぐここに来て教えてやるよ。だめだったら電話ででも…。」
「ありがとう。」
野口氏は地図を描き、詳しい説明と老婆の姿も事細かにT氏に伝えた。
翌日、野口氏はT氏からの連絡を今か今かと待ち続けた。
そこへ知らせが…。それは思いもよらぬ内容だった。

熊雄9/13 18:50:472195cfAQAdSc9sPQA||564
T氏が事故!。しかも野口氏と全く同じ場所、同じ時間、
ほとんど同じと言ってよいトラックにバイクごと引きこまれ、野口氏同様左足を粉砕骨折、今この病院に運ばれている途中だという。
野口氏の顔色は変わった。
「…ごめん! おれが変なこと頼んだから!」
 目が覚めたばかりのT氏に野口氏は会いに行った。
「…いやあ、お前のせいじゃないさ。だって老婆なんか見なかったぜ。
…でも不思議だよな。あんな見晴らしのいい道で、雨だって降ってないのに、絶対トラックなんかいなかったはずなのに、気がついたらトラックが飛びこんできて、気がついたらこの病院なんだぜ。」

熊雄9/13 18:51:82195cfAQAdSc9sPQA||65
「…その気がついたらって話だけど、あの時言わなかったけど…救急車で運ばれてる途中、気を失ってるはずなのに…妙に覚えてるんだ。気を失ってる間ずっと…夢枕にあの老婆が座ってたんだ。」
「…え。」T氏の声も低くなった。
「…実は俺も…老婆かどうかわからないけど…目を覚ますまでずっと、誰かに見られてたような気がする。夢うつつで目をつむってると、誰かがじっと俺を見てるんだ…。」
         ×   ×   ×
「…必ず何かある。…でもこの足じゃまだまだしばらくは入院生活だし…。」
嘆く野口氏に、むこうみずな中学生でもあった私は、

熊雄9/13 18:51:212195cfAQAdSc9sPQA||98
「じゃあ僕が見てきましょう」と受けあったのだった。
「僕はもうすぐ退院だし、墓地だって家の近くだもの。その上、バイクに乗らないから事故にあうってこともないだろうから…。」
退院した私はとりあえず、一人だと心細いので、同級生数人と連れだって問題の墓地を訪れた。
腕白ざかりの中坊数人が墓地でわぁわぁ言って騒いでいたせいだろうか。
たちまち住職が私たちを見つけて吹っ飛んできた。

顔を真っ赤にした住職に懸命に事情を話しやっと、『遊んでいたわけではない』とわかってはもらったが、職は問題の老婆には心当たりがないという。

熊雄9/13 18:51:332195cfAQAdSc9sPQA||138
とにかく野口氏の書いた地図を頼りにその場所に連れてってもらうことにした。
「あった!」
老婆が草をむしっていたという場所には、草ぼうぼうの荒れ果てた古い墓があった。
墓には、ひとりの女性の戒名が刻まれていた。
「ああここ…。」
やっと思いだした、という風に住職が話し始めた。
「このお婆さんの家族ね。数年前に九州に引っ越して、誰も墓の面倒をみなくなったんだ。手入れもしてもらえないから、こんな草ぼうぼうなんだな。気の毒に…。しかも、今年が十三回忌ときてる。」

熊雄9/13 18:51:432195cfAQAdSc9sPQA||892
住職は手を合わせ、低い声で読経を唱え始めた。
なるほどわかった、という顔で同級性たちはうなづいていたが、
私は一人だんだん顔が青褪めてくるのを感じていた。
私だけが気づいてしまった事実。
- 4月26日。墓に掘ってある故人の命日 -
それは、まぎれもなく野口氏が老婆を見、事故にあったその日の日付であった。

熊雄9/13 18:51:502195cfAQAdSc9sPQA||916
「へえ〜、これがそのお婆さんの墓かぁ。記念に写真とっとこ。」
こんな場所へ来ると、よせばいいのに写真を撮りたがる者はいるものだ。
(墓地に入った時からシャッターを切り続け、問題の墓も撮影したが、後で現像してみたら…老婆の墓だけ写真が真っ白だったという)

さて野口氏だが、住職がねんごろに読経してくれたせいだろうか、突然9ケ月のはずだった入院が早まり、その後3ケ月くらいで退院できることとなった。
そして再び新聞配達の仕事にもどり、現在まで何ごとも起きていない。

熊雄9/13 18:52:222195cfAQAdSc9sPQA||845
通行人

数年前、私が東京の池袋駅北口前にある雑居ビルで働いていた時のこと。

ある夏の夜。
夜間の宿直当番になったその日、先に帰ろうとする同僚数人を引き止め研修室にて、むりやりテレビゲーム大会を開いた(たしか桃太郎電鉄だったような)。
研修室は3階にあり、ブラインドの掛かった窓(幅8M程)と入口の扉以外、 窓ひとつなく、廊下からでも、中で何をしているかわからない、遊ぶには絶好の部屋であった。

熊雄9/13 18:53:472195cfAQAdSc9sPQA||148
しかもそこには、おあつらえ向きに、大型テレビと、ビデオデッキが設置してある。
まさに、遊んでくれといっているような場所だった。
比較的若い社員が多い職場のため、マージャンよりもテレビゲームが好まれ、結果この場所でのゲーム大会がたびたび行われていた。

といっても、万が一帰宅したはずの上司が戻ってくるかも知れない。
そこで、遊ぶときはいつも念のため室内の電気を消して遊ぶこととし、この夜も、電気を消しテレビの明かりのみでゲームを楽しんでいた。

熊雄9/13 18:53:592195cfAQAdSc9sPQA||406
12時をまわった頃、私がふと動く人の気配を感じ目線をあたりに向けると、閉めかかったブラインドの向こうを、背中を丸めたひとりの男  がゆっくりと歩いて行くのが見えた。

よれよれのコートを羽織った、痩せた男がゆっくりと窓の端から窓の端まで・・・。

しかし、窓の外にはベランダはおろか、人の歩ける場所もない。
しかも、向かいのビルまでは道路を挟んで20M以上離れている。
当然、向かいのビルにも、周りのビルにもベランダは無い・・・。
まさか、ブラインドと窓のわずかな隙間(10センチ位)に人がいるわけは無いし、真っ暗な室内の人影が窓に映りこむ訳はありえない。

熊雄9/13 18:54:102195cfAQAdSc9sPQA||545
第一、部屋の中で動いている者は一人もいないのだ!!
私は、今起きたことにショックが隠せず、窓を見つめ呆然としていた。

ふと、視線を隣に向けると、同僚も窓を見つめたまま呆然としているのが見えた。
同じものが、彼にも見えたのは間違い無かった。
「おいっ。なに2人してボーっとしてるんだ?」
窓を見つめ、呆然としている私たちに、他の同僚が声をかけた。
「おい!どうした!なにかあったのか?」
「いや、じ、実は、今しがた、窓の外を・・・」
私が今起きた事を、話そうとした、その時!!
「・・・・・・・・・・!」

熊雄9/13 18:54:202195cfAQAdSc9sPQA||801
全員が見ている前で、さっきの男が窓の外を、しかも今度は、こちらを覗きこみながら、 ゆっくりと通り過ぎていった。

にやにやと薄笑いを浮かべながら・・・・。


その日は、同僚を拝み倒してみんなで宿直をした。以後、夜の研修室でのゲーム大会はなくなった・・・。

熊雄9/13 18:55:22195cfAQAdSc9sPQA||982
飛ぶ笑顔

海田氏は私の高校時代の先輩で、様々な霊体験をしてきた人である。
その彼の体験の中で一番恐ろしく忘れられないものとは、『笑顔』だという。
小学校4年生の夏休み前日の事。
終業式が終り自宅に帰った彼は、明日から始まる夏休みを待ちきれず、通知表もそっちのけで、友達の家へと飛び出して行った。
夕方、家に戻り通知表を出そうと鞄の中を覗くと、夏休みの宿題が入って無いことに気づいた。
「まだ学校は開いているかもしれないから、早く行ってきなさい!」
「でも…。」

熊雄9/13 18:55:152195cfAQAdSc9sPQA||920
彼は夕方の校舎が嫌だった。誰も居ない筈の教室の中から人の声が聞こえたり、目の前の生徒が突然いなくなったり…。それは、いつもひとりで夕方の校舎にいる時だった。
「でもじゃありません!早く行きなさい!ぐずぐずしていると学校が閉まっちゃうわよ!」
いつになく厳しく母親に叱られた彼は、仕方がなく夕方暗い学校へとむかった。

毎日通う道を、小走りに走って行く。
5分程走るといつもの見慣れた、石碑が見えてきた。
この石碑をすぎるともう学校だ。急いで、石碑の角を曲がり学校正門へと向かう。
しかし、正門はすでに閉められていた。

熊雄9/13 18:55:292195cfAQAdSc9sPQA||325
ひとけの無い校舎はうす暗くひっそりと静まりかえっている。

−こまったな…。そうだ!通用門なら開いているかも。−

彼は迷う事なく通用門のある校舎裏側へと急いだ。
ネットフェンス越しに、15メートルも離れていない校舎を左手に見て走る。
校舎の窓に明りはなく、ただ漆黒に包まれた廊下が続いていた。
やがて、電柱の明りに照らされた通用門が見えてきた。
あたりは既に暗く彼はその光に向かって一目散に走った。

−開いているかな。誰かいて欲しいな。−

熊雄9/13 18:55:402195cfAQAdSc9sPQA||391
そう思った瞬間、背後で人の気配がした。
驚いた彼が振り向くと、一階の廊下に誰かがいる。
校舎の窓に頭をのせる様にじっと、こちらを覗いている。
青白い顔をした髪の長い少女だ。

−何年生の子かな。とにかく誰かいるし、良かった。−

すると、突然!少女がこちらの方へ向かって、もの凄い勢いで廊下を真っ直ぐ走り出した。
髪をなびかせ、少女が彼の横の廊下を通りすぎる。
少女はゆっくりとこちらをふり向き、生気の無い顔で彼の顔を見つめ、にやりと笑った。

熊雄9/13 18:55:552195cfAQAdSc9sPQA||561
体に電流が流れる様なショックが走り、彼は自分の目を疑った。

少女の首の下に胴体は無く、ただ廊下と同じ黒い空間があった。

そして、少女だと思ったその顔は、髪を振り乱した青白い顔の男だったのだ。
顔はそのまま彼の横を通り過ぎ廊下に突き当たり、吸い込まれる様に消えた。

その後の事は彼自身よくおぼえていないそうだ。
ただその後、学校そばの石碑の前で泣いていたところを、近所の人に家まで連れて来てもらったとの事だった。

熊雄9/13 18:56:12195cfAQAdSc9sPQA||353
両親はドリルを取ってこられなかった彼が、途方にくれて帰るに帰れず泣いていたのだろうと、彼の言う事を信じなかった。
そして、卒業まで幾度となくこの学校での霊体験を、彼はし続ける事となる。
              ×  ×  ×
 『刑場跡地』- 学校そばの石碑に掘ってある、この言葉の意味を知ったのは 中学生になってからだと、海田氏は私にいつも照れながら話すのだ…。

熊雄9/13 18:56:322195cfAQAdSc9sPQA||15
かわいいですね

自衛隊に入隊している友人が語ってくれた悲話である。
以前、彼はN県の駐屯地に駐屯しており、山岳レンジャー(特殊部隊)に所属していた。
この話はその上官(A氏)の身に起こった事である。
十数年前の夕方、付近の山中において航空機事故が発生した。
山岳部における事故であったため、ただちにA氏の部隊に救助命令が発令された。
それは道すらない山中で、加えて事故現場の正確な座標も分からぬままの出動であった。

熊雄9/13 18:56:472195cfAQAdSc9sPQA||629
彼らが現場に到着したのは事故から半日以上も経った翌朝の事だった。
彼等の必死の救出作業も空しく、事故の生存者はほとんどいなかった…。
           *     *     *
事故処理が一通り終了し、彼が駐屯地に戻れたのは、事故発生から実に1週間以上も経っての事であった。
『辛いことは、早く忘れなければ…。』
後味の悪い任務の終えた彼は駐屯地に戻るなり、部下たちを引き連れ、行きつけのスナックヘと直行した。
「ヤッホー!ママ、久し振り。」
「あら、Aさん。お久し振り!。さあさあ、皆さんこちらへどうぞ。」

熊雄9/13 18:56:592195cfAQAdSc9sPQA||462
彼等は、めいめい奥のボックス席に腰を降ろし飲み始めた。久し振りのアルコールと、任務終了の解放感から彼等が我を忘れ盛上がるまで、そう時間はかからなかった。

しばらくして、A氏は自分の左隣の席に誰も座らない事に気が付いた。
スナックの女の子達は入れ替わり立ち替わり席を移動し部下達の接客をしている。
しかし、その中のひとりとして彼の左隣へと来ない。
『俺もオジサンだし、女の子に嫌われちゃったかな…。』
少々寂しい思いで彼は、右隣で彼の世話をやいてくれているスナックのママの方を向いた。

熊雄9/13 18:57:132195cfAQAdSc9sPQA||886
「Aさん、とてもかわいらしいわね。」
彼と目のあったママが、思いっきりの作り笑顔を浮かべそう言った。
『かわいい?。俺が?。』
かわいいと言われ、妙な気分になった彼は慌てて左隣へと視線を戻した。
誰も座っていない左隣のテーブルの上にはいつから置かれていたのか、場違いな『オレンジジュース』の入ったグラスが一つ置かれていた…。
          *     *     *
その日から、彼の周りに奇妙な事が起こり始めた。
一人で食堂や喫茶店に入ると、決まって冷水が2つ運ばれてくる。
また、どんなに混雑している列車やバスの中でも、彼の左隣の席は決まって空席のままで誰も座ろうとしない。

熊雄9/13 18:57:252195cfAQAdSc9sPQA||143
極めつけは、一人街中を歩いていると見知らぬ人に声を掛けられる様になったことであった。
しかも決まって、

『まあ…。かわいいですね。』

と、皆が口を揃えて言うのだ。
これには、部下から鬼だと言われている彼も、ひと月しないうちに参ってしまった。
ある日、彼は部下に自分の周りに起きている奇妙な事実を話し、そしてこの件について何か知っている事はないかと問いただした。
すると部下は言いにくそうに、こう言った。

熊雄9/13 18:57:372195cfAQAdSc9sPQA||252
「これは、あくまでも噂話なんですが…。最近、Aさんのそばを小さな女の子が
ついてまわっているのを同僚たちが見たっていうんです。」

「小さな女の子?。」

「ええ、駐屯地の中でも外でも、ずっとAさんの側を離れずに、ついてるらしいんです。」
A氏の背中に電流が走った。
「最近って…。いったい、それはいつからなんだ?。」
「じ、自分が見た訳ではないので…。 ただ皆、例の事故処理から帰ってきた頃からと…。」

熊雄9/13 18:57:482195cfAQAdSc9sPQA||892
 「………………………………。」
A氏は思い出した。
あの時、散乱する残骸の中で彼が抱き上げた小さい遺体の事を…。
         *     *     *
その後、A氏は近くのお寺へと行き少女の魂を手厚く供養してもらった。
以後、ふたたび彼の周りに少女は現れていない。

熊雄9/13 18:58:472195cfAQAdSc9sPQA||612


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