3276 | 下の方にあるどっぺるってののスレに頭きたからさ | ダンディずん | 10/15 11:28:0 | 6122cfdBifb/Qx63Y |
ほとんど台詞ばっかの文書いてやったわ まぁ私はマトモなモノ書きじゃないんでこんなんしか書けんがね |
ダンディずん | 10/15 11:28:35 | 6122cfdBifb/Qx63Y||782 | ||
『ヴィジョン・クロッシングの実験』 |
ダンディずん | 10/15 11:29:6 | 6122cfdBifb/Qx63Y||188 | ||
「初めに言葉ありき」 古い羊皮紙で出来たその本は、どこか物憂げだが深く力強い声でそう言った。 「この言葉が何かわかるかね?」 「知ってるわ。ヨハネによる福音書の一番初めの言葉よ」 少女がそう答えた。少女はその小さな体に白い服を纏い、大きなトネリコの切り株の足元に膝をかかえて座っていた。 切り株の上から少女を見下ろしながら、本はまたひとつ少女に問い掛けた。 「では、その意味が分かるかね?」 「神様が世界を作ったとか言う意味なんでしょ、どうせ」 少女は胸元に鎖で下げられた二匹の蛇の環を象ったペンダントを指先で弄びながら、うんざりと言った風に答えた。 |
ダンディずん | 10/15 11:30:7 | 6122cfdBifb/Qx63Y||949 | ||
「お前は神を信じているのに、こと創造という神の御手による最大の奇跡となると、急に疑り深くなるのだな」 「だって、科学的じゃないわ。神が無から有を創り出せるのなら、なぜ神の法則が満たしているはずのこの世界では無からの創造が起きないの?それとも、アルベルト・アインシュタインが質量保存則を発表して、この世から神の奇蹟を消してしまったとでもいうの?」 「そこにもまた神の意志が存在するのだ」 本は重々しく宣言した。その声の響きに応じて、周りの樹々がしん、と震えたようであった。 「 |
ダンディずん | 10/15 11:30:36 | 6122cfdBifb/Qx63Y||195 | ||
「納得できないわ」 少女は手近にあった小枝を拾って地面に稲妻模様を書き殴ると、森の奥に向かって小枝をぽいと投げ捨てた。小枝はきれいな放物線を描いて地面に落ち、物理法則に基づいて予測されうる方向に跳ねた。 「不可知論者なんて言われるのはもうまっぴら。真実はひとつ、そうでしょ?神様が世界を創ろうと、科学が宇宙を覆っていようと」 「ひとつかもしれないし、そうではないかもしれない」 「あら、本当に賢いのね、あなたは。世間じゃあなたみたいなのを役立たずっていうのよ」 |
ダンディずん | 10/15 11:31:6 | 6122cfdBifb/Qx63Y||304 | ||
「せっかちじゃな。それはお前さんの答え次第なのだ」 本はまぶたを覆いそうなほど豊かな白い眉を軽く上げ、微笑んだ。 「いいわ、じゃあ続けて。聖書の引用なんてして、一体どんな説教をしようというの?」 「まず言葉があり、そして世界が創造された。この事について、お前さんはどう解釈を試みるかね?お前さんの得意な科学的解釈を、じゃよ」 少女はつと空を見上げてしばらく考えている様子であったが、やがて切り株の上の本に目を戻すと、こう答えた。 |
ダンディずん | 10/15 11:31:39 | 6122cfdBifb/Qx63Y||286 | ||
「まずは……言葉は人が使うものだわ」 「虫や動物や鳥が鳴きかわすのは?」 「それは……ただの合図よ。言葉じゃないわ」 「ふむ、言葉の定義がやや雑なようだが……まぁ今はそれでよい。それで?」 「言葉があったんなら、そこには人間がいたのよ」 「創造の前にかね?」 「ええ。存在、という意味ではいなかったかもしれないわね。けれど、そこには確かに人類の何かが介在したに違いないわ」 |
ダンディずん | 10/15 11:32:16 | 6122cfdBifb/Qx63Y||148 | ||
「初めがなければ終わりもない。科学と神を同時に奉ずる者が円環論を語ろうというのか」 「そうじゃないわ。やはり時間の進行に定向性が存在するのは確かなことよ。けれど、私たちは現象の理解に少なからずメタファーを使っているわ。時間の流れ、という言葉は因果的な時の概念、エネルギーの空間座標変化という時間の性質をうまく表している。けれど、それが思考の硬直を生んでいたのよ」 「だからこそ科学者は、昔から常に用語の定義に拘るものだ」 |
ダンディずん | 10/15 11:32:38 | 6122cfdBifb/Qx63Y||197 | ||
「だから……『時』は流れながら過去に遡ってフィードバックされるのよ」 「お前さんが先程引き合いに出したアインシュタインの理論によれば、その考えは否定されるであろうな。過去に戻るという事はそれ自体がパラドックスじゃよ」 「それは過去が過去であり、確定されたものであると決めてしまっているからよ」 「ずいぶん乱暴な考えになってきたな」 |
ダンディずん | 10/15 11:33:8 | 6122cfdBifb/Qx63Y||526 | ||
「過去、現在、未来が平行的に存在しているんだとしたら?そしてそれが時間の進行によって総体として次の時空間にシフトしているのなら?私たちがそのことを認識できないだけで、過去も未来も常に変化しつづけているんだとしたら?」 「だとしたら?」 「……神は人によって創造され、そして世界を創造した、とも考えられる」 「元々あったものを、過去に遡って創造しなおした、という事か?それも、人間の従僕として」 「そうよ。有は有からしか生まれない。だけど、『無から有を生み出す』という現象が有から生みだされないとも限らない……これが私の『初めに言葉ありき』の解釈よ……」 |
ダンディずん | 10/15 11:33:43 | 6122cfdBifb/Qx63Y||142 | ||
そう言いながらも、少女は自らの言葉に打ちのめされたかのように、じっと遠くを見つめていた。その右手は胸のペンダントを握りしめ、左手は首すじに残る輪状のアザをさすっていた。 「眠れぬ夜に、祈りの祭壇で、ずっと考えつづけてきた事に何故そんなに畏れ戦慄くのだ?」 本は先程までよりもより穏やかで、どこか優しさがこもった声で尋ねた。 「神は完成してないの」 少女がさすっていたペンダントは、徐々に銀色から黄土色に変わり、やがて透き通って琥珀になった。 「今もまだ、神は創りつづけられているの……人間の『言葉』によって……」 |
ダンディずん | 10/15 11:34:4 | 6122cfdBifb/Qx63Y||330 | ||
「お前さんは、何故お前さんの父がお前さんの母を殺さねばならなかった、それを考えているのじゃな」 「……それはお母さんが私を殺そうとしたからよ。お父さんは悪くないわ」 「では、母親が悪なのか」 「……お母さんは……お母さんが悪いわけない……そうしなきゃいけない訳があったのよ」 少女は立ち上がった。その瞬間、まるで衣が脱げるかのように、少女の日本人らしい黒い髪と瞳が、雪のような白へと変わった。 「では、何故お前さんはあのシスターたちの首を縄に吊るさねばならなかった?」 本は顔をゆがめ、自分のひと言ひと言に自らの身を切られているかのようだった。 |
ダンディずん | 10/15 11:34:26 | 6122cfdBifb/Qx63Y||19 | ||
「彼女たちが神の掟にそむいたから…『言葉』を汚したからよ」 「なら、母親がお前さんを絞め殺さねばならぬ理由はなんなのだ?」 「……私が『言葉』を汚す存在だから……」 「では、何故お前さんは生き残り、母親は死んだ?」 「順番が変わっただけよ!私もいつか裁きを受けるわ。だけど、それまでに私は神の創造に身を捧げなきゃ……死んだお母さんの為にも」 「それで今日、病院に出向いて父親を殺したのか。愛する者を殺さなければならなかった事に心を崩壊させてしまった、あの哀れな父親を」 |
ダンディずん | 10/15 11:35:3 | 6122cfdBifb/Qx63Y||835 | ||
「本当はあの日にすべきことだったのよ。お母さんが死んだ日に。私が摂理を理解していなかったせいで、お父さんを長年苦しめることになってしまった……」 「お前さんはネオ・ダーウィニストというわけだ。『言葉』という神の遺伝子を純化させようとする優生学者なんじゃな」 本はふう、とため息をついた。 「そして聖母たらんとしている……非情なまでに」 |
ダンディずん | 10/15 11:35:29 | 6122cfdBifb/Qx63Y||99 | ||
その時、少女の腰のあたりからルルルという電子音が聞こえてきた。少女がポケットに手を差し入れて取り出したのは携帯電話であった。 「私、いかなきゃ…彼が帰ってくる」 そう言う少女の髪と瞳は元の黒に戻り、服も尼僧衣へと変わっていた。胸のペンダントも銀に戻り、蛇ではなくクロスになっていた。 「帰って、自分の息子を十字架に吊るそうというのか」 「息子じゃないわ。同じ施設で育った幼なじみよ」 |
ダンディずん | 10/15 11:35:50 | 6122cfdBifb/Qx63Y||83 | ||
「……あの子はお前さんを慕っておるぞ。幼い日々に母親に虐待され続け、愛され方を知らないあの子は、お前さんに母親の姿を見出しているのだ。母親を愛せど報われず、それでも母親を愛し続けたあの子に愛され方を教えられるのは、お前さんをおいて他にはいない。無理に聖母になる必要はない。あの子の母になってやれ」 「だめよ。彼は罪を犯した。『言葉』を汚したのよ」 「お前さんも血を流すことになるぞ。その時わかるはずだ。聖母にはない、血の絆で結ばれた愛の強さが」 |
ダンディずん | 10/15 11:36:5 | 6122cfdBifb/Qx63Y||629 | ||
「なら、その時は」 少女は森の奥へ歩きかけた体をひるがえし、本の方を向いて言った。 「彼が生きている間だけ、彼の母親になってあげるわ」 少女は森の奥へと消えていった。残された本はしばらくその方向をじっと見つめていたが、 「つくづく自分の無力がいやになる」 と独り言を言い、またひとつ大きなため息をつくと、自らの体のページをめくって一文字一文字ゆっくりと読み始めた。 |
marinoe | 10/15 16:49:35 | 2199cfVZmfsvy71zk||455 | ||
ずん様、こんにちは 言葉って偉大ですね・・・凄いの一言で片付けてしまいそうです 宗教はいつでも戦争の引き金になる大問題だから、 軽々しく論じられなくて、有耶無耶に・・・しておくほうが・・・ そこに真っ向から立ち向かう物書き予備軍が一名 孤高を行く聖マリアに肩入れしかねないけど、頭でっかちで役立たずな『本』に1票です 親という存在は、子供の手を離してはいけません でも、子供はその手を振りほどいてどこかに行かなければいけない者だから 生きている間は母になると宣言できる少女は自らの信ずる道を驀進していくのでしょうね しゃべり言葉で説明するのが一番分かりやすいです |
marinoe | 10/15 18:23:35 | 2199cfVZmfsvy71zk||604 | ||
支離滅裂でまとまりのないレスに追加させて頂きます おとぎ話を愛している私としては総てを白日の元に還し、 説明したがる科学の目は感心できても余り好きではありません 神、妖精、お化けなどの諸々のなんだか分からない者共には いついつまでもそばに留まっていてほしいと望んでいます 無から有を作る御技のひとつとして言葉があるのですね 神の似姿として人が創られている訳ですから、人の中に神が居ても何の不思議もない ア〜、貴方のパラドックスなおとぎ話に落ち込んだようです まとまりのない感想になってしまいましたが、私はこの物語、気に入りました |
桃代 | 10/15 23:22:21 | 2111cf/nP9DUXmDug||330 | ||
ダンディずんさん、お久しぶりです^^ 神と言葉は互いに曖昧な関係ですね。 神の創造は、言葉と同じく人間が誕生した時から 必然に変わってしまったと言えるでしょう。 しかし、神を裏切るのは常に「人」である。 言葉はもしかすると、神から「人」への 贈り物であり、裁きなのかもしれません。 何を言っているのか、自分でも分からなくなって きました。いつも、ふんぞり返って何もしない私の 脳味噌も、貴方のお蔭で働いてくれました。 ありがとうございます。 |
ダンディずん | 10/16 1:19:2 | 6122cfdBifb/Qx63Y||681 | ||
お二方とも、丁寧かつ慎重なお返事をありがとうございます このような文に目を止めて少しでもお考えいただけたことが一文一文感じられ、 非常に喜ばしく思うとともに、痛み入るものがあります というのも、ここに書き連ねてある文はある種の思考実験だからです 私は神学者はありませんし、物理学者でもありません この文に登場するものの中で唯一専門的教育の一端でも受けたといえるのは進化学くらいなものです |
ダンディずん | 10/16 1:35:7 | 6122cfdBifb/Qx63Y||622 | ||
だからここに描かれていることひとつひとつに私の意志が明確に出ている、という訳ではなく、 ただいくつかの思考をひとつに統合、反応させた後、再び分離するといった技法を試す目的でした けれど、成果はそれ以上のものであったと思います お二方のお返事の中に共通して現れることとして、「言葉」という言葉の本質についてが あります 私はお二方のお返事を読み、この話を書くにいたって「言葉」というものを 単に人間の象徴としか扱っていなかったように思えてきました |
ダンディずん | 10/16 1:38:35 | 6122cfdBifb/Qx63Y||894 | ||
私は話中の少女に神が世界を言葉で創った理由について思考させることを怠っていたようです 即ち、私自身が怠っていたということですが その気づきを与えてくださった御二人には大変感謝いたしております この気づきを活かし、さらにこの世界を深くしていきたいと思います |
特殊文字 by.チビファンタジー |