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3373くすりゆび有芽10/26 14:41:362182cfD2WKtSEYqq6
指先から解けて

 海へ

還ってゆく


  +くすりゆび+


「手、どうかした?」

不意の問いかけに顔を上げると、私の向かい――机の正面に学ランのズボンが目に入った。
それを辿る様に見上げると、人の良さそうな笑顔を浮かべた和彦が私を見下ろしていた。
私は顔の前に翳してあった手を机の上に置き、目だけじゃなくて顔も和彦に向けた。


有芽10/26 14:42:492182cfD2WKtSEYqq6||212
「小指が動かないの」

「突き指でもした?」
「ううん。怪我の類は全然してない」

和彦の背中にもたれて小指の動かない左手を太陽に翳す。
あの後タイミングよくチャイムが鳴って、私は和彦に引きずられる様にして屋上へと来た。
正直サボるのは好きじゃないけど和彦の顔見たらそれも仕方ない、と諦められた。
なんともないふりして心底心配してる瞳。
ポーカーフェイスが上手いんだか下手なんだか解らない。

「病気?――って、そんな病気あるわけないか。病院は?」
「行ったけどなんともないってさ」



有芽10/26 14:43:02182cfD2WKtSEYqq6||569
和彦は私の言葉に「そっか」と短く返してため息を零した。
不自然な沈黙が続く。
風と、それに乗って微かに波の音が聞こえた。


有芽10/26 14:43:172182cfD2WKtSEYqq6||821
不自然な間は次第に自然な沈黙へと姿を変えた。
自然の驚異というやつか、形容しがたい何かがこの数分の間に働いた。
逆に言えばあまりに自然すぎて話を切り出しにくくなった。
どう切り出そうか、と悩んでいる間ずっと小指を見つめていた。
どんなに指令を送っても小指は一向に動かない。
まるで私の中から独立した固体のように、それは微動だにしなかった。

有芽10/26 14:43:342182cfD2WKtSEYqq6||430
奈有、とサエが呼んだ。
何?と振り向くと、サエは私に向き直る。


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