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3398くすりゆび有芽10/28 14:22:52182cfD2WKtSEYqq6
指先から解けて

 海へ

還ってゆく


+くすりゆび+


「手、どうかした?」


不意の問いかけに顔を上げると、私の向かい――机の正面に学ランのズボンが目に入った。
それを辿る様に見上げると、人の良さそうな笑顔を浮かべた和彦が私を見下ろしていた。
私は顔の前に翳してあった手を机の上に置き、目だけじゃなくて顔も和彦に向けた。


「小指が動かないの」

有芽10/28 14:22:402182cfD2WKtSEYqq6||345
「突き指でもした?」
「ううん。怪我の類は全然してない」

和彦の背中にもたれて小指の動かない左手を太陽に翳す。
あの後タイミングよくチャイムが鳴って、私は和彦に引きずられる様にして屋上へと来た。
正直サボるのは好きじゃないけど和彦の顔見たらそれも仕方ない、と諦められた。
なんともないふりして心底心配してる瞳。
ポーカーフェイスが上手いんだか下手なんだか解らない。


「病気?――って、そんな病気あるわけないか。病院は?」
「行ったけどなんともないってさ」


和彦は私の言葉に「そっか」と短く返してため息を零した。
不自然な沈黙が続く。
風と、それに乗って微かに波の音が聞こえた。

有芽10/28 14:22:562182cfD2WKtSEYqq6||958
不自然な間は次第に自然な沈黙へと姿を変えた。
自然の驚異というやつか、形容しがたい何かがこの数分の間に働いた。
逆に言えばあまりに自然すぎて話を切り出しにくくなった。
どう切り出そうか、と悩んでいる間ずっと小指を見つめていた。
どんなに指令を送っても小指は一向に動かない。
まるで私の中から独立した固体のように、それは微動だにしなかった。

有芽10/28 14:23:72182cfD2WKtSEYqq6||800
恵、と和彦が呼んだ。
何?と振り向くと、和彦は私に向き直る。

有芽10/28 14:23:222182cfD2WKtSEYqq6||917
「海、行こっか」

有芽10/28 14:23:582182cfD2WKtSEYqq6||484
いつもの笑顔でそう言うと、私の返事も聞かずに和彦は手を取って歩き出した。

一瞬、掴まれた手首を振りほどきそうになった。

学校から海までは10分と歩かない。
あっという間に着いてしまうその短い道のりを、私は出来るだけゆっくり歩いた。
和彦がいつも私の歩調に合わせて歩くのを知っていたから。
ホントなら回り道したいくらいだった。
けど、そこまでする勇気はなくていつもより歩幅を小さくしてゆっくりゆっくり歩いた。
足の長い和彦に申し訳ないことこの上ない。

有芽10/28 14:24:132182cfD2WKtSEYqq6||865
そんな私の努力むなしくやはり10分しない内に海岸線に来た。
防波堤の一角に設けられた階段。
そこを下りればもう砂浜だ。
階段の1番上の段で、私の足は完全に止まった。
2、3段下にいた和彦がどうかした?って振り返る。
ううん、何でもない。
そんなこと言いながらも私はそれ以上進めなかった。

打ち寄せる波の音がやけに癇に障る。
心臓が、ありえないくらいゆっくり脈を打って、
視界が霞んだ。
自分を失いたくなくて耳を塞ぐと、何故か和彦が呼ぶ声が聞こえた

有芽10/28 14:24:352182cfD2WKtSEYqq6||957
結局私たちは学校に戻ってきた。
体育館裏に二人して座り込んで、どこかのクラスがサッカーをやってる音と声を虚ろげに聞いてた。
ちらり、と和彦に視線を流すと、目を泳がせていた。
きっと何か聞きたいに違いない。けど聞かない。
私が切り出すのを待ってるんだ。聞かれたくない話だって解ってるから。
私は1度手に目をやって、空を見上げた。
体育館の屋根と向かいに生えてる肉桂の木で遮られた狭い空は原色のように青かった。


「最近ね」

独り言のように呟くと、和彦はうん、と頷く。
聞いてくれてること確認して、私は変な夢見るの、って続けた。


有芽10/28 14:24:482182cfD2WKtSEYqq6||569
最近、ここ3日ばかり奇妙な夢を見る。


青白い、けれどとても大きな満月が照らす夜の海に私は立っていた。
波打ち際とかじゃなくて、水面に、立っていた。
アメンボになったような気分かな?夢の中じゃそれが“普通”だ。
私は疑問も持たずに海の上に立っている。

それが、突然足場を失ったみたいに海の中へ沈んでしまう。
けれど私はうろたえることなく水面へと登っていく気泡を見ながらどんどん沈んでいくのだ。

夢のせいか、息はまったく苦しくないというのも要因の一つだろう。

足掻くことせず、ただ流れに飲まれるように
コポコポと音を立てて、遠ざかる水面を見つめながら。

有芽10/28 14:25:52182cfD2WKtSEYqq6||817
そうしているうちに、ふと金色に光る光の筋が目に入る。
それを辿ると自分の小指から発せられたものだと気付く。
小指が、まるで解けるように金色の糸になって水面へ昇っていく。


昨日の夢で、小指は解けきってしまった。

そして小指は動かなくなった。

有芽10/28 14:25:172182cfD2WKtSEYqq6||381
「あの夢見始めてから、なんだか海が怖くなってさ。さっきはお騒がせしました」
「それはいいけど、恵はどうすんの?」
「何を?」
「だって他の指まで解ける夢みて、ホントに動かなくなったりしたらさ・・・
 よく解らないけどその夢ヤバいって」

有芽10/28 14:25:412182cfD2WKtSEYqq6||73
心配そうな顔で私を見つめる和彦に、曖昧な笑みを向けて、
また狭い空を見上げた。
そんな私の様子に、和彦はため息を吐いて壁に凭れかかる。

「何かストッパーでもあればいいのにね」


ホント言うと、昨日の夢で薬指も解け掛かってた、なんて
言えるわけなく私はそれ以上口を開かなかった。

有芽10/28 14:26:212182cfD2WKtSEYqq6||326
コポコポコポ


気泡が音を立てる

体が沈む

意識が遠ざかる


指が


ほどけてく


「オハヨ。指どう?」
「微妙なとこ」


有芽10/28 14:26:582182cfD2WKtSEYqq6||760
朝、登校する生徒の群れに紛れて私たちはそんな会話を交わした。
夢の中で第一関節まで解けた薬指。
何となく感覚がなくなってる気がして正直怖かった。
これからどんどん小指のように感覚がなくなって、動かなくなって


“意識”と“感覚”が海に解けて人形になってしまう


そんなことが頭を過ぎった。

有芽10/28 14:27:192182cfD2WKtSEYqq6||77
「恵」


突然呼びかけられて、少し遅れて何?と返した。
顔を上げたと同時に差し出された右手。


「よかったら填めといて」

そう言って渡された細い指輪。
銀色の、飾りっ気のないそれに、私の思考は一時停止した。

有芽10/28 14:27:312182cfD2WKtSEYqq6||858
「え?これ・・・」
「ストッパー。効き目は解んないけどまぁ気持ちだけ」


何なら俺が填めようか?なんて冗談交じりに和彦は笑った。
私は、じゃぁそうして。と、
和彦は人目憚らずに、まるで指輪の交換をするように私の指に指輪を填めた。


有芽10/28 14:27:502182cfD2WKtSEYqq6||430
その日を境に、あの夢は見なくなった。
そして私達は“友達”という関係から踏み出した。
思い返せば、あの夢は私の不安の表れだったのかもしれない。


けれど、左手の小指が動くことは二度となかった。


end...

♪美月♪10/28 18:48:432202cfWKGIvWXBWwM||143
す、すごーーーーーーーーーい感激才能ありすぎです

♪美月♪10/28 18:49:442202cfWKGIvWXBWwM||663
私はこんな才能まったくないですよ

有芽10/30 9:19:242182cfD2WKtSEYqq6||287

♪美月♪さん感想ありがとうございます(*・ω・)ノ

才能あるなんて・・・・wwww(*ノдノ)
次回も頑張って書きたいのでよろしくお願いします♪(*・д・)ノ


とにかく感想ありですww


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