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3635前の席しなの11/30 14:48:222191cfz6H3FKsSMQQ
 私の好きな人は塾でななめ前に座っている。
私の通う塾は近所にあって、成績の良い順に前から座る。そんな座席指定がなされている。
一列9人で7列、60人くらいの生徒が授業を受けている。
つまり、彼は私より10位ほど前に位置しているのだ。
新しい英文法をノートに書き写しながら私は彼の後ろ姿をそっと盗み見る。
右手で器用にペンを回しながら左手で頬杖をついている。

しなの11/30 14:50:422191cfz6H3FKsSMQQ||64
彼のことは小学生の時からずっと好きで、でも話かけることすら恥ずかしくてできなかった。5年生の時に引っ越してきた彼は頭が良く、運動も人並みにできたし、
かっこよかった(私的観点だけど)。
男子とばかりいつも遊んでいて、女子には興味がないようだったからそっけない感じだったけど、ちょっとした優しさと転校生という特有の雰囲気に惹かれ、女子の方は彼を放っておかなかった。  私もその中の一人。

しなの11/30 14:56:72191cfz6H3FKsSMQQ||473
声をかけることすらできなかった私と彼との初めての会話は、転校してきて数ヶ月たった算数の授業中だった。
たまたま席替えで彼の前に座っていた私だったけど、その時まで配布物を回すとき以外は振り向くことすらできずにいた。
私は他の教科に比べて算数は出来が良く、その日も満点ではなかったものの高得点をキープした。
すると隣の男子が急に
「うわ、こいつ大畑より点いい」
なんて声に出すから・・・私はついに話をするチャンスを得た(ありがとう誰だったか忘れたけど)。

しなの11/30 14:56:182191cfz6H3FKsSMQQ||157
後ろから彼の声、大畑君の声。
「菱久何点?」
「・・・96」
精一杯の返事は一秒もかからなかった。
勇気を出して振り向いたとたん、彼の悔しそうな顔が目に入った。すぐに前を向き後悔。
彼は負けず嫌いだった。

しなの11/30 14:56:582191cfz6H3FKsSMQQ||399
(後ろの席っていいな)そんな事をぼんやり考えながら塾長の英文法の説明に耳を傾ける。
目は彼の後ろ姿を見ている。
全く動かない右手、左手で頬杖をつきながら体は完全に固まっている。
(寝てるんだ・・・)そう思うと少し笑いがこみ上げる。
閉じられた目の長いまつげを想像してみる。

しなの11/30 14:58:452191cfz6H3FKsSMQQ||748
算数のテストで負けてから、私の予想に反して彼は私に頻繁に話しかけるようになった。
嬉しかったけど、内容は乙女チックなものではない。
「菱久今回は?」
「うん、89」
「うわぁ、一点差か」
どうやらライバル視されているようで、テスト返却のたびにこの調子。

しなの11/30 14:58:572191cfz6H3FKsSMQQ||83
私はいい点数を取ることで興味を引くのに成功した。
おもしろい話もできないし、運動は苦手だったので、それしかなかった。
テスト前は必死で勉強をし、ライバルでもいいから彼に意識して欲しかった。
「次は負けない」と言うときの真剣な顔。
「勝った!」と言うときの満面の笑顔。
だんだん私の中で彼への思いは大きくなっていった。

しなの11/30 15:0:52191cfz6H3FKsSMQQ||199
二時間の長い授業が終わり、みんなが帰り出す。
全員が一斉に席を立つので、ドア付近は大混雑。
それを避けるため私はいつも宿題を少し進めてから帰ることにしている。
もちろん彼は友達と先に帰る。
バイバイの一言も言えずに彼を見送る。
(木曜日の授業の時は何か話せるかな・・・)
中学生になってクラスが別になってから塾が私の楽しみの時間になっていた。
学ラン姿の彼は格別にかっこ良く見える。
でも遠くなってしまった気がする。
見るだけで精一杯の片思い。

しなの11/30 15:3:222191cfz6H3FKsSMQQ||635
その時、
「菱久?」
びくっとして振り返る。
(何?どうしたの?)
言葉は浮かんでくるのに声にならない。
「居残り宿題?いつもやってんの?」
「あー、入り口混雑してるから・・・」
「いつの話、10分前?」
笑う彼。 つられて照れ笑いする私。
今、片付ければ一緒に帰れるかもしれない。
急いで机の上の物を鞄にしまい込む。
(まだいる、もしかして待ってる?)なんて思ってみる。

しなの11/30 15:4:42191cfz6H3FKsSMQQ||603
「5番の問題わかった?」
急にそんな事を聞くから一瞬彼を見上げる。それからあわててプリントを見る。
「・・・3かなぁと思う」
「一緒一緒。なっ、合ってるよな」
何があってこんな事になったのかわからないけど最高の時間を過ごしている。
顔は今になって熱くなっているのに気付く。うれしい、嬉しい・・・。
「木曜席替えやって。塾長がさっき言ってた。今度も負けねぇからな」
そう言って私に手を振り、彼は視界から消える。
私は少しの間呆然とする。

しなの11/30 15:6:372191cfz6H3FKsSMQQ||706
(負けねぇって・・・がんがんに負かしてください!後ろからあなたを見ていたいのです。
むしろ私が勝ってしまったら勝負に勝ってある意味負け。いや待って、もしかすると隣なんてことになるかも)
なんて都合のいいことを考えながら教室を出る。
(木曜は私から挨拶をしよう)
今まで数え切れないほど心に決めて実行されることのなかった目標を今日もまた立てる。
席替えに心躍らせて。
 

しなの11/30 15:10:112191cfz6H3FKsSMQQ||273
彼はどんどん成績を上げている。
私は置いていかれないように勉強を頑張る。

 明日、彼が10番で私が18番になるなんて今の私は知らない。
 二列目の両端に座ることになるなんて、今日の私はまだ知らない。

しなの11/30 15:12:512191cfz6H3FKsSMQQ||88
終了です。
なんだか現在と過去がごちゃ混ぜになってしまって読みにくいかもしれません。
こんな話ですが最後まで読んでくれた人、どうもありがとうございました。


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