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5771猫頭山・七ダンディずん6/20 7:47:106122cfoMAVqdadA4U

ダンディずん6/20 7:47:516122cfoMAVqdadA4U||583
 
 それからの二人の生活は、短い間であったとは言え、時津彦にとってその人生で最も驚きに満ち、そして最も楽しい時間であった。
 
時津彦は少女の仕事を手伝うようになった。まだ十分に回復したとは言えなかったが、薪を拾ったり近くの沢から水を汲んだりすることは出来た。

少女もそれを黙って彼に任せた。彼の行くところにはあの猫がついてまわり、少女の代わりに彼を見守っているかのようだった。
 

ダンディずん6/20 7:48:516122cfoMAVqdadA4U||447
  
 時津彦は作業の合間にも折を見ては色々と少女に話し掛けてみた。

大抵の場合、少女は返事の代わりに微笑みかけるだけであったが、「水」といったようないくつかの単語や、挨拶などの簡単な言葉は理解していて、時津彦が何かを求めるとすぐに持ってきた。

猫がいたずらをしていると声を出してたしなめることもあった。

やはり渡来人であるらしい。それならばと、時津彦は少女に言葉を教え始めた。
 

ダンディずん6/20 7:49:186122cfoMAVqdadA4U||372
 
 初めは時津彦の意図が飲み込めずにいた少女であったが、時津彦が言葉を教えようとしているのだと判ると、森から様々なものを拾ってきては目の前に差し出し、彼が名前を教えるのを瞳を輝かせながら待った。

時津彦もひとつひとつ指差しながら発音し、丁寧に言葉を教えていった。
 
かみ合わない会話を繰り返し、幾度も同じ質問をしては返答を苦労して解きほぐした結果、時津彦は山ほどある少女の謎のうち、いくつかは答えを得ることが出来た。
 

ダンディずん6/20 7:49:496122cfoMAVqdadA4U||528
 
 少女は支那国から来たらしい。

果たしていつ、誰と、何の為にこの島国を訪れたのかは分からないが、渡来してきた後、しばらく那島の支那国人街にいたのは間違いない。

 なぜこちらに来たのか尋ねた時津彦に、少女は木に登った猫を抱え降ろしながらこう答えた。

 「この子と同じ。おれも温かいところ、好き。温かい人の近く、好き。だから、ついて来た」
 

ダンディずん6/20 7:50:306122cfoMAVqdadA4U||116
 
 西海に海千足が現れて以来数百年、海を渡るのは危険なこととして錫船交易はとうの昔に廃止されていたが、その後も支那国からの船は時々やって来ており、その寄港地として那島には多くの支那国人がいた。

だが、五年前に打倒太白神を掲げるタカノヒラハラが兵を挙げると、那島の支那国人の多くが大陸へと引き上げていった。

那島の支那国人の間に、タカノヒラハラが支那国人を虐殺しているという噂が流れたのだ。

事実と逆とはいえ、錫船交易が太白神の庇護の下で行なわれていたことを考えれば、支那国人らの危機感も理解出来るものであった。
 

ダンディずん6/20 7:51:196122cfoMAVqdadA4U||242
 
 その時のことを、少女はいつもより少し真剣な面持ちで語った。

「おれ、みんなに行ったら死ぬと言った。多い足の魚があぶない、言ったけど、みんな舟に乗った。でも、おれは無理しない。わかっていても人に無理させない。生きても、死んでも、決めるのはみんなだから」

 多い足の魚、というのは海千足のことを指しているらしい。この不思議な力を持つ少女のことだ、きっと危険を察していたのだろう、と時津彦は思った。

少女は足元の小石は拾ってはどこを狙うともなしに放りながら、変らぬ口調で付け加えた。

「舟、みんな、沈んだ」
 

ダンディずん6/20 7:51:506122cfoMAVqdadA4U||97
 
 那島での騒動を時津彦が噂に伝え聞いたのは、もう三、四年も前の話である。少女はその後も猫とともにこの国に残り、山野を彷徨いながらこの丹生岳まで来たというのだから、いったい幾つからこんな生活をしていたのだろうか。

ある時、時津彦は少女に年齢を尋ねてみたことがあった。質問の意味を理解させるのに随分と骨が折れたが、その答えには時津彦の方が困惑することになった。

それまで洞窟の入り口傍で座って椎の実の殻をむいていた少女は、おもむろに立ち上がると林縁まで駆けていき、何かを持ってくると、それを時津彦に手渡した。
 

ダンディずん6/20 7:52:276122cfoMAVqdadA4U||142
 
 それは一枚の木の葉であった。夏には厚くがさがさとし、縁の鋸歯が肌に刺さるほど硬くなる木の葉も、今のような新緑の時期にはしなしなと柔らかく、春の陽に瑞々しく照り映えていた。

 
「おれ、これと同じ」
 
 
 時津彦は幾度も葉をひっくり返したり陽に透かしてみたりしたが、なんの変哲もない木の葉のように見えた。
 

ダンディずん6/20 7:53:196122cfoMAVqdadA4U||261

「葉、か?」
 
 
「そう、葉。これ、新しい」
 
 
「若い、ってことか」
 
 
「そう。おれ、若い」
 
 
「若い、か。それはそうだろうが…」
 
 
「そうだ。おれ、若い、ずっと」

 
 苦笑する時津彦に、少女は逆に尋ねた。
 
 
「時津彦、違うのか?もう若くないか?」
  
 
 そう言って微笑んだ少女の姿に、時津彦はその問いかけに様々な含みがあるように思われ、どこかこの少女に気圧されている自分を感じていた。

ダンディずん6/20 7:54:286122cfoMAVqdadA4U||678

 

  
 少女は言葉の飲み込みが早く、時津彦が支えなしで辺りを歩き回れるほどに回復する頃には、随分と楽に会話ができるようになった。

 しかし、この約ひと月間ふたりと一匹で暮らし、少女とすっかり馴染んだ時津彦であったが、どうしても振り切れない疑念が今でも心の奥底に澱のように沈んでいて、少女の不可思議さに動揺する度に頭をもたげては、心を曇らせた。
 
 ある午後、ふたりは水汲み場にしている沢まで降りて、清流のほとりでゆっくりと時を過ごした。
 

ダンディずん6/20 7:54:506122cfoMAVqdadA4U||278
 
時津彦は岩の上に寝転がって、冷たい清水に声を上げながら猫と遊ぶ少女の姿を眺めていた。

こうしていると、この世にはこのふたりと一匹しか存在せず、いつまでもこのつつましくも安らかな生活が続くような気もした。

だが一方で、一刻も早くここを出発して小呂松に戻らねば、と考えている自分もいた。
 

ダンディずん6/20 7:55:356122cfoMAVqdadA4U||401

 考え事に疲れたのか、それとも春の陽気のせいか、いつの間にかうとうとといていたらしい。
 
時津彦は少女の声で我に返った。

「時津彦」

 見ると、少女は浅瀬に立って肩越しに彼を見つめていた。

少女は、見ていろ、というように微笑みかけると一歩足を進め、木洩れ陽を仰いで清流の真ん中に立った。

一瞬の静寂が訪れた後、さらさらという水音に呼応するように、辺りの樹々がさわさわとさざめき始めた。

少女を中心にして水面に波紋が走り、徐々にその波が大きくなっていく。
 

ダンディずん6/20 7:56:166122cfoMAVqdadA4U||954
 
 時津彦はこの一ヶ月の間に、これは少女が不思議な力を使う前に必ず起きる現象であることを知っていたので、ただ固唾を呑んで少女を見守った。

ざわめきは低いまま喧しさを増し、眠りから醒めかけた世界が、彼の周りでもぞもぞと寝返りを打っているかのようだった。

 水面はやがて魚ぶらのように激しく飛沫を上げ始め、風が水玉をさらって空に巻き上げた。

はちきれそうな緊張が空間を震わせていたが、少女が何かを捧げるかのように軽く両腕を上げて掌を空に晒した瞬間、足元の水が大蛇のように鎌首をもたげ、空に立ち昇った。

強烈な風が四方に吹き荒れ、木の葉が舞い踊った。
 

ダンディずん6/20 7:57:246122cfoMAVqdadA4U||744
 
 水の柱は宙でひとつにまとまり、大きな水の球になった。

水球は中に太陽を宿してぐよぐよと揺らぎ、その形を不規則に変えていたが、突如渦巻きながら押し縮まると、その力を解放するように一気に空中で破裂した。

 
 思わず目を閉じた時津彦が次に見たのは、木洩れ陽を反射して空いっぱいに広がる飛沫の煌きと、清流を挟んだ左右の森の間に渡された虹色の掛け橋であった。

 
 少女は振り向いてにこりと笑うと、

 
「きれいだろ?」
 
 
と言って、もう一度屈託のない笑顔を見せた。
 

ダンディずん6/20 7:58:16122cfoMAVqdadA4U||822

 しかし、時津彦の心中は複雑だった。

水と光が織り成す色彩の魔法は、彼の瞳を通してその心に深い感動を呼び起こしたが、同時に嫌な事も思い出させた。

あの三河原で泣沢女が仕掛けた濁流の罠。

あの情景を思い出すたびに、彼は太白神への憤りを蘇らせ、首筋が熱くなるような思いをするのだった。
 

ダンディずん6/20 7:58:556122cfoMAVqdadA4U||674
 ――この娘の力が、もし神などと関わるのなら。

 時津彦は支えを失ったように岩の上に腰を下ろした。

 時津彦の異変を察したのか、少女は怪訝な面持ちで駆け寄ってきてしゃがみこむと、下から時津彦の顔をのぞきこんだ。
 
 
「どうした、傷、痛いか?」
 
 
 時津彦は瞑っていた目を開いた。
 
 目の前に少女がいた。
 
 その屈託のない幼い顔は彼のもうひとつの記憶と重なり、激しい感情の迸りとなって胸の内を駆け巡った。
 

ダンディずん6/20 7:59:256122cfoMAVqdadA4U||769
 
 時津彦は泣いた。

 涙など全て怒りに換えてしまったと思っていたのに、後から後から溢れ出してどうしても止まらなかった。

 そんな時津彦を見つめながら、少女は黙って彼の頭を優しく撫でた。
 

ダンディずん6/20 7:59:576122cfoMAVqdadA4U||877
 
 泣くだけ泣いてしまうと晴れやかな気分だった。

今まで時津彦を苛み続けていた悲哀や憤怒が記憶から流され、ただ今は亡い人々の美しい思い出だけが心の内で輝きを増したようだった。

日はだいぶ傾いた。時津彦は洟をすすり、涙をぬぐうと、少女に尋ねた。

「お前はどうやって、ああいう不思議なことを起こすんだ?」

 少女は、そんな事より時津彦の方が心配だ、という風に、時津彦の背中をさすりながら事も無げに答えた。

「おれ、名前を知っている。それだけ」
 

ダンディずん6/20 8:0:516122cfoMAVqdadA4U||990
 
「名前?」

 
「名前を知っていれば話し掛けられる。ちゃんと話し方を知っていれば、あいつらは言う事聞く。でも、あいつら何も考えない。だから、おれがちゃんと話さないといけない。おれは、その話し方を知っているだけ」

 
「あいつらっていうのは、何のことだ?」

 
 時津彦の問いかけに、少女は腕をめいっぱい広げてみせた。
 
 
「これ、全部」

 
「全部?」
 
 
「そう。名前あるものは、名前がない小さいものの集まり。おれは、名前知っているものだけに話し掛ける。そうしたら、名前を知らない小さな奴らの集まりが動く。気まぐれだから、なかなか言う事聞かないけど」
 

ダンディずん6/20 8:1:326122cfoMAVqdadA4U||360

 少女は岩の上に登ると、時津彦の隣に座った。

 
「名前を知ることは、それを自分の中に…つかむ、こと。名前を知ったら、それはおれのもの。だけど、おれもそれのものになる。そうやって、ここにある色々なものは、一緒にここにあるんだ」
 

 少女の話を飲み込めずにいる時津彦を見て、少女は微笑んだ。
 
 
「ここ、おれが昔いた場所と違う。おれはここにいて、ここにいなかった。時津彦が名前教えてくれたから、おれ、今ここにいる」

 
 そこで少女は言葉を切り、一息つくと時津彦に尋ねた。

 
「時津彦、おれが怖かったか?」
 

ダンディずん6/20 8:2:316122cfoMAVqdadA4U||398
 
 時津彦は自嘲気味にかすかに笑い、こう答えた。

「あぁ、怖かった。自分では気付いていなかったが、俺はお前に怯えていたようだよ。

 俺は神っていうものを憎んでいる。心の底から、だ。俺はお前の力が、神から借りたものじゃないか、と思っていたんだ。

 だから、お前が不思議なことを起こして俺を驚かせるたびに、俺はなにかが壊れていくような、自分がなくなっていくような気がしていた」
 

「かみ、ってなんだ?」
 
 
 少女の問いかけに、時津彦は言葉に迷った。
 

ダンディずん6/20 8:3:136122cfoMAVqdadA4U||516
 
「神ってのはな…すごく大きくて、いやになるくらい大きくて、なんでも出来るくせになにもしてくれない、そんな奴だよ」

 
 その言葉にもはや猛る怒りの色はなかったが、どこかうっすらと哀切が漂っていた。

 
「あぁ、わかった」

 
 少女は、全てを理解した、というように膝を打った。

 
「でもな、時津彦。神はいない」

 
 時津彦は少女の口から出た意外な言葉に、思わず大声で笑った。

 
「俺は今では、お前こそが本当の神じゃないかとすら思っているよ」
 

ダンディずん6/20 8:3:506122cfoMAVqdadA4U||257
「神なんて、いないよ。人が喜んだり、怒ったり、悲しんだり、楽しかったり、そんな時に自分の中に見つけるのが神。

いい神か、悪い神か、それを決めるのは自分。だけど、神を好きだって言える人は、温かい。

神が嫌いだって言う人も、だいたい人が好きな人。だから、やっぱり心の中は温かい。一番悲しいのは、神がいない人。心が動かない人」

 
 そう言った時、少女はぎゅっと膝を抱え、眉を潜ませた。その表情は、これまで見せたことないほど険しいものであった。

 
「おれ、そういう人のそばにいると悲しい。けど、たぶんそういう人が一番悲しい。だから、おれが温める」
 

ダンディずん6/20 8:4:386122cfoMAVqdadA4U||949
 
 少女が語る痛みは時津彦にはよく判らなかったが、今になって彼は急速にこの少女のことを理解した気がした。

同時に、少女の言う、少女の「昔」というのは、彼には及びもつかないほど長い時を遡った先にあるのではないか、と思った。

 しばらくうつむいていた少女だったが、突然ぱっと顔を輝かせて頭を上げると、時津彦の袖をつかんだ。

 
「そうだ、時津彦。名前つけろ、名前」

 
「名前って、お前のか?」

  
 そう言われて初めて、時津彦は自分が少女の名前を知らないことに気がついた。

ダンディずん6/20 8:5:146122cfoMAVqdadA4U||6

「しかし、お前にも名くらいあろう。支那国ではなんと呼ばれていた?」

 
 けれど、少女はかぶりを振った。

 
「ここ、支那国じゃない。おれを知っている人もいない。だから、新しい名前つけてくれ。それと」
 

 少女は背中で遊んでいた猫を腕を回して抱え、膝に座らせた。

 
「この子のも」
 
 
 猫はくりりと瞳を回すと、なぁお、と鳴いた。その顔は、良い名をつけてくれよ、とでも言っているようだった。
 

ダンディずん6/20 8:6:286122cfoMAVqdadA4U||602
 
 ずっと一緒に暮らしていながら、この少女に名前がないことが気にならなかったのは不思議であった。

この少女はどこか、この周りの世界を埋めている「名前のないもの」のひとつのような、そんな気配があったからかもしれない。

そのせいか、時津彦は低く唸りながら少女の名前に考えを巡らせてみたが、どうにも思いつかなかった。なにかどんな名前をつけても、彼女の捉えきれない雰囲気にそぐわない気がするのだ。


ダンディずん6/20 8:6:406122cfoMAVqdadA4U||247

(名前を知ることは、自分の中につかむ事)

少女が言ったその言葉の意味が、今、時津彦にはようやく判った。

決めあぐねる時津彦の目の前を、一枚の木の葉が落ちていった。

若草色の瑞々しい木の葉は清水の中に舞い降りると、すっと流れに乗って遠くへと旅立っていった。
 

ダンディずん6/20 8:7:536122cfoMAVqdadA4U||157

「おと」

 
 時津彦の口からその名が出たのは、その時だった。

 
「乙、なんていう名はどうだ。若い、という意味だ。あの木の葉のようなお前に、ぴったりの名だろう」
 
 
 少女は、おと、おと、と味わうように幾度も口の奥でつぶやいていたが、岩の上に立ち上がると、

 
「おと!」

 
と、大きな声で叫んだ。その澄んだ鈴のような声は樹々や山に響き渡り、隅々にまで少女の存在を知らしめて回るかのようだった。
 

ダンディずん6/20 8:8:86122cfoMAVqdadA4U||323
 
 少女は、ふぅ、と息をつくと、時津彦を見下ろしてふわりと微笑んだ。

 
「乙は、おとの、音が好きだぞ」


 その笑顔は若い光に満ち、実に愛らしかった。時津彦はこの時初めて、自分がこの少女を愛していることに気がついたのだった。
 

ダンディずん6/20 8:9:136122cfoMAVqdadA4U||504

 少女は抱いていた猫を時津彦の肩に乗せ、時津彦にせがんだ。

 
「じゃあ、この子の名は?」

 
「実はな、こいつの名前は前から考えてある」

 時津彦は自慢げに言った。病床の友として、そして仕事仲間としてずっと一緒にいたこの猫に、彼は密かに名をつけ、心のうちで呼んでいたのである。
 

ダンディずん6/20 8:9:476122cfoMAVqdadA4U||508
 
「白虎、というんだが。支那国の西方の守護霊獣の名だ。白虎は口から火を吹き、耳からは硫黄の煙、爪は鋭く、尾は岩をも裂く、と言うから、こいつにはちょっと大仰過ぎるかもしれんが。だがまぁ、西から来たこいつにはちょうどいいだろう」
 
 
 少女はその名も気に入ったらしく、白虎、白虎、と呼んでは猫の喉や腹をさすった。

 当の猫も満足気に喉を鳴らしているから、異存はないのだろう。
 
 乙と白虎。

 時津彦はもう心残りはない気がした。

 時津彦は白虎に語りかけて遊ぶ乙に、ずっと考えていたことを切り出した。
 

ダンディずん6/20 8:10:226122cfoMAVqdadA4U||881

「乙、俺はそろそろ戻ろうと思っている」
 

 乙ははっと振り向くと、時津彦の顔をじっと見つめた。

 
「戻るって、時津彦の家にか?」

 
「あぁ、似たようなものだ。そこに俺の居場所はもうないかもしれない。だが、俺にはまだやらなければならないことが残っている」
 
 時津彦は岩から立ち上がると、ひょいと乙を抱え上げて地面に降ろすと、膝を曲げて音と同じ高さで彼女の目を見つめた。

 
「だから、俺は明日、ここを出発する」
 

ダンディずん6/20 8:10:516122cfoMAVqdadA4U||449

 乙は悲しむかもしれない。そんな時津彦の思いとは裏腹に、乙は笑顔を浮かべると、こう言ったのだった。

 
「乙に名をくれたのは時津彦だ。だから、乙はもう、時津彦の中のひとつだ。それに、言っただろ?乙は白虎と同じ、温かいところが好きだって」

 
 乙は時津彦の手をぎゅっと握った。


「時津彦の手は、温かいぞ」
 
 
 固く手を結ぶふたりを、一月前と同じ三日月が、夕焼け空の隅から優しく見守っていた。


ダンディずん6/20 8:13:136122cfoMAVqdadA4U||413
 
 
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実に普段の三倍の分量になってしまった
やはりこういうところに載せるにはもう少しコンパクトな方がいいようだ
これでも最後の方はかなり慌ててる観があるから、時間をかけていたら
もっと長くなったかもしれない
桑原桑原。
 

ダンディずん6/20 8:20:376122cfoMAVqdadA4U||468
自分の本名を好きだったためしがないせいか、私は姓名や言霊思想に
比較的敏感であったように思う
今回の話は名前というのがひとつのテーマだが、
実は話の外でも名前に関するテンヤワンヤがあっていたのです
実は当初、スピードアップのため「名前に拘らない」ということを目標にしていたのだが、
結局色々と資料を引っ張ってきてこじつけてしまった私のこのクセは
治らないものなのかもしれない
しかし、この「名前」という観点でこの話を読んでいただければ、
今後の流れがより楽しめる  かも

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marinoe6/20 12:0:362101cfsffFvSS6eiI||291
ずん様、こんにちは☆
名付けるという行為に特別な意味があると私も信じています。
例えば、物語の根本はやはり、色んな物に、
名前をつけないと始まらないのではないだろうかな。
その一番厳かで、究極的な場面を見せていただけてよかったです。
『乙』という文字の持つ意味、オン、全てひっくるめた雰囲気は大事ですね。
今回は男のロマン溢れるmy fair ladyの要素まで、
とても面白かったですが、時津彦の哀しみがちょっとぼやけてしまったかも。
ただ、これは、この章だけを読んだ印象ですので、
読み返す、楽しみがあって、これはこれでいいのかな?

博多ダンディ(兄6/20 14:49:16122cfoMAVqdadA4U||118
marinoeさん、こんにちは
文章を書く上で一番困るのも、やはり名前だったりします
どうにも名前がつけられないものは、やはり自分の中でもその実体を
見つめきれていないように感じます
そういえばこのチビファンタジーも最初に名前をつけるわけですが、それが今になって
自分の人生にまで大きく影響していますね
幾度も本を読み返すくせのせいか、自分で書くときも不明瞭な伏線を貼りまくって
後から発見してほしいと思ってしまう性質のようです
時折思い出していただいて、うまくつながっていたら御喝采
後は私の努力次第…でしょうね


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