6627 | 風水母の舞う国色終 | ダンディずん | 9/3 3:54:36 | 6122cf/xp.tcSszM. |
ダンディずん | 9/3 3:55:24 | 6122cf/xp.tcSszM.||935 | ||
*風水母が舞う頃* 風水母が空に舞う頃、村は秋を迎える。 畑は黄金に、山は紅に輝き、 人々は肌を黒くする。 農夫たちは大地の聖人に実りを祈り、 子らは山繭でじゅずだまを綴る。 風よ、どうか村に恵みを。 |
ダンディずん | 9/3 4:1:5 | 6122cf/xp.tcSszM.||395 | ||
風水母が空を舞う頃、村に夜は訪れない。 かがり火を焚き、空を焦がす。 炎が、風を呼ぶ。 陸の風が麦を実らせ、 海の風が悪魔を寄越す。 風よ、どうか村に恵みを。 風水母が空を舞う頃、村は高い柵を立てる。 秋分に山に入り、丈夫な蔦と柳を採る。 網の柵を作るのだ。 子らが柳の網棒で、 猫を追いまわして遊ぶ。 風よ、どうか吾子らに恵みを。 |
ダンディずん | 9/3 4:1:41 | 6122cf/xp.tcSszM.||90 | ||
風水母が空を舞う頃、村は風水母と戦う。 大人は網棒を、子供は頭陀袋をかつぎ、 昼も夜も、畑の見回りに追われる。 風の運んだ悪魔達が、 小麦を枯らしてしまわないように。 風よ、どうか村に恵みを。 風よ、どうか村に、明日の夜明けを。 |
ダンディずん | 9/3 4:2:23 | 6122cf/xp.tcSszM.||368 | ||
*風車小屋のミリィ* 「陸風の吹かぬ秋が、一番恐ろしい」 婆さまがそう言うとき、いつも、 しわしわの顔の奥で、軍鶏みたいな目が光っていた。 幼いあたしには、恐いものなんてなかったから、 あたしは婆さまに、お手玉をせがんだっけ。 秋は学校がお休みになるし、山にはぐみや山葡萄がなる。 村の子はみんな、秋が大好きだった。 もちろん、あたしも。 あの秋が来るまでは。 |
ダンディずん | 9/3 4:3:11 | 6122cf/xp.tcSszM.||752 | ||
太陽が歪みだしたのは、お昼をちょっと過ぎた頃。 風が気持ちの良い日だったので、 あたしはかかさまの車椅子を押して、村の広場へ散歩に出た。 広場の真ん中には湧き水の噴水があって、 透きとおった水が聖アグネスさまの髪に沿って流れていた。 かかさまは一日中、その像を見つめて過ごすのが好きなんだ。 あたしのかかさま。 物言わぬ、何も求めぬ、美しい聖女さま。 あたしは石段に腰掛けて、少し離れたところから うっとりとかかさまを見つめていた。 |
ダンディずん | 9/3 4:4:36 | 6122cf/xp.tcSszM.||338 | ||
そしたら、急にからすうり色の太陽が横に縦に伸び縮みしはじめた。 激しい海風に噴水が砕け、まるい虹が生まれた。 涙を流す聖アグネスさまの上に、透明な水玉が降って来た。 まるで真綿みたいに、音もなく次々に降って来る。 ベンチに座ってた香料店の老夫婦が大きな水玉に飲まれ、 あたしの見ている前で、白いふたつのかたまりに変わってしまった。 いつもマロニエの木陰で昼寝をしてたオールド・ジョーイは 子供がつくった犬の粘土細工みたいになってしまった。 水玉の表面から外に突き出た、ぎざのある方の耳を残して。 |
ダンディずん | 9/3 4:5:0 | 6122cf/xp.tcSszM.||220 | ||
あたしのかかさまは、水玉の中で浮かび上がって髪をなびかせ、 まるで捕らわれの人魚姫さまみたいだった。 でも、その後を、 あたしはとても、見ていられなかった。 |
ダンディずん | 9/3 4:5:30 | 6122cf/xp.tcSszM.||190 | ||
夢中で走った。 怖い、怖い、怖い。 その想いだけが頭をぱんぱんに膨らましてた。 とめどない涙は、かかさまのために流れてるんじゃなかった。 そのことでまた、いっそう涙がこみあげた。 駆け抜けた市場はりんごやオレンジの踊るカラフル水玉だらけで、 街道沿いのにれの木くらい高いところに荷馬車が浮んでた。 川には、家をまるごと飲み込んだ水玉がたゆたい、 下流に向かってゆっくりと流れていった。 |
ダンディずん | 9/3 4:6:6 | 6122cf/xp.tcSszM.||171 | ||
どのくらい走っただろう。 気がつくと、あたしはこの古い風車小屋にいたのだ。 |
ダンディずん | 9/3 4:9:36 | 6122cf/xp.tcSszM.||479 | ||
*竜にまつわる口伝* いにしえの世に この地に神があった 神はその掌の光を以って いのちを生み出した 神はその臍の胡麻にて 生み出したいのちに形を与えた 神はその陰部にて 形を与えたいのちをさらに二種に分けた 即ち 男と女である いのちはやがて自ら付き離れ、様々な形へと分かれた 神はそのひとつがいに 知慧を与えた かの如くして 人は生まれ 人の生まれた後、神は永き眠りにつかれた |
ダンディずん | 9/3 4:10:3 | 6122cf/xp.tcSszM.||980 | ||
人は子を産み、育て、ほかのいのちを奪いて増えた 神の与えし智慧は幸福よりも悪を生んだ 智慧はやがて濁りの空気を生み出し、 それを吸った泥水より、悪魔が生まれた 神は人を生み、人は悪魔を生み出した これ大いなる災いの始まりであった |
ダンディずん | 9/3 4:10:28 | 6122cf/xp.tcSszM.||85 | ||
悪魔は自らを創った人を憎み 里に現れ 暴虐の限りを尽くした やがて太陽は毒を放ち 雨は酸を含み、 人々は苦しみのうちに次々と死んだ 神は夢見に悪魔の所業を知り その寝息から創りし 天使らを遣わした 天使らはその透きとおった翼をもって悪魔を海に追いやり みな底深くに封印した |
ダンディずん | 9/3 4:10:57 | 6122cf/xp.tcSszM.||241 | ||
しかし 悪魔もまた 封印される前に その唾液でもって水よりしもべを創り 地上へと遣わした 悪魔のしもべは 眠っていた天使らを次々に呑み込み 天使ら全てを 無に帰してしまった 風をあつめる 一枚の透明な羽根を残して |
ダンディずん | 9/3 4:11:34 | 6122cf/xp.tcSszM.||470 | ||
*砂漠の行商人タリィ* その年は酷い旱魃で 牛も駱駝も ばたばた死んだ なつめ椰子だけはたくさんなって 日に三度 そればかり食べた みな 空ばかり見てた 雲を探して 幾人も太陽に目をやられ 盲てもなお 恵みを求めて 天を仰いだ 雨ばかりに気をもんで こころから 風が 消えた |
ダンディずん | 9/3 4:12:8 | 6122cf/xp.tcSszM.||143 | ||
それでも 行商人は砂漠を進む 私たちが ものを運ぶ いのちをつなぐ 明日を呼ぶ 陸帆船が 砂の海を滑る 船乗りの友は かもめでなく 砂嵐 順風満帆 金紗の風を腹にたくわえ 砂の壁に映る影に 古の獣の幻を見る |
ダンディずん | 9/3 4:12:44 | 6122cf/xp.tcSszM.||76 | ||
砂を越えると 岩の王国 コヨーテのなわばり サソリの巣穴 流れ者の吹きだまり サボテンの根元の酒場 テンガロンハットの群れの中に 細い肩 ブルーサファイヤの瞳 ダイヤモンドの涙 ギターのガットがメロウなメロディをふるわせる 男たちは目を閉じて はるかなふるさとに想いを馳せる バーボンに涙がこぼれ落ち 塩辛い杯を舐めて溜息 |
ダンディずん | 9/3 4:13:19 | 6122cf/xp.tcSszM.||15 | ||
女は立ち上がる 砂漠の風のような髪が踊る 黄昏る男たちの間をすりぬけ 荒野に消えていく 誰も見たことのない 透明な 巨大な 獣の手綱をひいて 彼女の風は どこへ吹くのか 帆をなくした男たちに もはや知るすべはない |
ダンディずん | 9/3 4:14:21 | 6122cf/xp.tcSszM.||929 | ||
***************************************** ―― 時は永久えに流れ、ヴィジョンは無限に広がる ―― ***************************************** |
marinoe | 9/3 13:6:57 | 5887cfezVQ.Rt1EJo||773 | ||
ずん様、こんにちは☆ 時の流れに漂う旅人でしかない私たちには無限の夢を見る力は 結構偉大なもののようで、智慧は悪魔を産む危険性もあるけれど 素敵な物語を見せてくれるような気がします。 自然の織りなす厳しさには物語を育む要素がいっぱいのようで カトリーヌの残した爪痕はお伽噺になると切なくて哀しいのに、 とてもリリカルです。今は蝗の被害も聞かなくなって久しいけれど、 お伽噺で語られる秋の実りへのお祭り騒ぎが懐かしく思えたりして。 砂漠化現象もこうして語られるとロマンチックまんまんです。 ファンタジーは狭間にひっそりと佇んで、語り部を待ち侘びているみたいです。 |
num | 9/3 16:56:28 | 2221cfxjaUMNZEWOs||458 | ||
バッタモンです、こんにちは。 稚拙な例えで申し訳ないのですが、この話群を見て 安直に映画「マグノリア」を思い出したバッタモンです。 有機的なお話の繋がりはいづれ、一つのお話に帰結することを 暗に示しているようでした。 |
ダンディずん | 9/3 21:17:26 | 6122cf/xp.tcSszM.||101 | ||
marinoeさん、こんばんは 最近某所で憎々しげに世をカリカチュア化する悦楽に浸っていたためか、 強烈なフラッシュバックのような御伽ワールドが樽から吹き上がりました 私がここに載せる短い文の綴りは、多くの場合短時間で書き上げたものなのですが、 今回はモチーフが古くから温めていたものということもあり、 特にその場のヒラメキばかりで構成されたものになりました |
ダンディずん | 9/3 21:17:32 | 6122cf/xp.tcSszM.||256 | ||
そういうこともあって、あまり社会問題について意図したわけではなかったのですが、 そう言われると、あぁそういう読み解きもあるんだなぁ、と感じいるものがありました ヴィジョンは無限に、そう、人と人の間も越えて広がる その想いがちゃんとかなったようで、無上の喜びであります ご感想、ありがとうございました |
ダンディずん | 9/3 21:20:55 | 6122cf/xp.tcSszM.||307 | ||
numさん、こんばんは そのモクレン科の映画は未だ見てはいないのですが、この一連の短文に 込めた意図は、まさにその通りであります ひとつの大きな世界を、色々な角度で描き出す そしてそこにひとつの流れを浮かび上がらせる まだ試みの段階ですが、また今度、他の角度での切り取り方を積み重ねて モザイクのようなストーリーを完成させられたらなぁ、と企んでおります ご感想、ありがとうございました |
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