戻る
6836幸福論3壱号10/5 16:13:506127cfjjkaSD0enTA
ナカナカオワラネエヨウワアァァァァァン!!!
毎日がんばって書いてるんですけどね。
ちょっと補足説明。
大母っていうのは、簡単にいうと力そのものです。
感情を内部に作用させる心の大母と、外部に作用させる現実の大母があります。
ディーンが沈んでいるのが心の大母で、現実の大母は別のところにあります。

壱号10/5 16:14:386127cfjjkaSD0enTA||104
「・・・・・・クレート」
昔から、死は身近に存在していて、何かがソレに囚われるたび、泣いたり怒ったり、ざまあみろ、なんて罵ったりしていた。
今のように、自分がどんな感情を持っているのかわからないのは、まだ死に実感をもっていない小さな頃以来だった。
多分哀しいのだ。同時に怒りも悔しさもあるのだろう。それは、こんなふうに平然としていられる類のものではない筈だ。
なのに、遠離の心は動かない。真っ白な空間に置き去りにされて、心の時が止まってしまったようだ。

壱号10/5 16:14:596127cfjjkaSD0enTA||711
「悲しいですか?」
ナザリーが聞いた。
「たぶん・・・なんか変」
クレートの銀髪の色が残った手で、遠離は頭を抱えた。私は狂ってしまったのか?
「何も見えない、何も感じない、どこまでも広くて、独りで、でも孤独じゃない。
 あたしは何? どうしちゃったの? クレートが死んじゃったのがショックなの?
 じゃあなぜ私は泣いてないの?」

壱号10/5 16:15:196127cfjjkaSD0enTA||262
「大丈夫、それは異常なことではありません」
「ナザリー様?」
訝るようなカディラの視線を、ナザリーは黙って受け止めた。
そして、大母の中央を指差す。
そこに、ディーンはいなかった。光の渦だけが変わらず揺れている。
驚いているカディラに今度は上を向くよう合図した。
二人で見上げる。

壱号10/6 16:21:116127cfjjkaSD0enTA||870
最初、変わらぬ天井があった。
見ていると、ゆっくりと、頭上に光が集まりだした。
光は遠離の前に音も無く降りてきて、ゆっくりと彼女に近づき、俯いた顔の前で止まった。
「あれは?」
「陛下の一部です。おそらく、遠離様に精神制御をかけられたのも陛下です。
 私がやろうとも思いましたが、ご自分にもかけられていますから、慣れたものですね」
「精神制御、ですか?」
「ええ。負の記憶から意識を遮断する式術です。ここで暴走されるのは危険ですから
 それより気をつけなさい。陛下の身に何かあれば、その時点で計画をはじめます」
「わかりました」

壱号10/6 16:21:286127cfjjkaSD0enTA||342
「・・・・・・あれ? ここ、どこ? あたし死んじゃったのかしら」
遠離は、いつのまにかさきほどとは全く違うところにいた。
そこには、何も無かった。見渡す限り、ペンキで塗りつぶしたように陰影の無い白が広がっていた。
声も響かず、影も無い。上下がわからなくなりそうだ。
「ここは大母の中?それとも、変わり磨かれた後の世界かしら」
不思議に思って、遠離は感覚の触手を広げた。
目を閉じて、空間の性質、異常なものの有無を探る。

壱号10/6 16:21:506127cfjjkaSD0enTA||115
―――何も無い。空間には果てが無く、どこまでも遠離自身を感じる。おかしいのはそこだが、どうすることも出来ない。
「だーれもいないのね。変な感じ。
 孤独じゃないわ、あいかわらず。心が麻痺したのって、きっとこんな感じなんだわ」
することも無くて、遠離はだらりと床?に転がった。
「こんなところ、つまんなぁい。どうしようかしらん。
 まず、大地が欲しい。次は色。次は、やっぱり音だわ。昼と夜を作って、太陽と月と星に心を教えなくちゃ。
 ―――そう、心よ。こんなに静かで、何も私と共に無いなんて、やんなっちゃう」

壱号10/6 16:22:206127cfjjkaSD0enTA||399
目を閉じて、独り言の世界を想像してみる。
昔なら、こんなに障害の無い場所なら簡単に思い通りの世界を、一日ぐらいは練り上げておけたかもしれない。
ナザリーのせいで、いまは自分を変えることしか出来ない。
歩くようにテレポートし、空を飛び、腹の立つ相手を宙吊りにしてやっていたあの頃が懐かしい!
夢を見るのも空しくなってきて、遠離は目を開けた。

壱号10/6 16:22:456127cfjjkaSD0enTA||991
「エ・ン・リ?」
「・・・は?」
目の前に、宇宙人がいた。
正しくは(いや宇宙人だから正しいっちゃぁ正しいんだけどね。)、心の大母の中にいたはずの彼女の祖母、ディーンだった。
相変わらず娘盛りの美しい顔、髪、肌、そして豊かな胸と細い腰。おまけに、かなり大きくなった赤い翼。
寝転がった遠離の頭の近くに、しゃがみこんでいた彼女は、こうのたもうた。
「お迎えに、来たの」
「お、おばあちゃん? いつの間に」
気配がしなかったのは納得できる。しかし、遠離の感覚にも引っかからなかった。

壱号10/7 16:41:296127cfjjkaSD0enTA||260
そんなことを知ってか知らずか、ディーンはいつもの子供の笑顔で遠離に笑いかけた。
「ついさっきだよ。遠離が泣きそうになってるとき」
「へ? いつのこと? 泣きそうになってた?」
「うん。だから、泣かないようにした。心を悲しいっていうのがわからないようにしたんだよ。わかる?」
急な話の展開に、思わずあっけにとられて、ディーンの顔をまじまじと見上げる。
これは何かの罠か? それとも、変わり磨かれた世界はこういうところなのか? こんなところが桃源郷?

壱号10/7 16:41:466127cfjjkaSD0enTA||911
「僕はね、エンリが悲しむのが嫌なんだ。だから、兄さんと一緒に、ここまで来た」
ディーンは笑って、遠離から一歩引いて、立てるようにした。
胡散臭そうに立ち上がる遠離。怪しいに決まっている。何で彼女がここにいるの?
「エンリが泣きそうになってたから、エンリの心に魔法をかけた。
 幸せと一緒にいられる魔法。かけられた人は、誰でも悲しいことを忘れられる。
 まあ、僕は悲しいことなんか最初から無かったけど」
「・・・ってことは、おばあちゃん、あたしに精神操作の式術をかけたんじゃない!」

壱号10/7 16:42:26127cfjjkaSD0enTA||946
「ちがうよ。もう僕には力は無いもの。
 心を伝えるキスと同じ。心を伝えるだけ。
 『悲しまないで。苦しい気持ちなんか捨てちゃいなよ』って話し掛けた」
「おばあちゃんにやられたら、式術と同じようなもんじゃない!
 おじいちゃんはどうしたの? おじいちゃんはそれこそ四六時中おばあちゃんとひっついてたじゃない」
操られているにしては自然すぎるし、祖父レオンが一緒にいないのはおかしい。
急に黙り込んで、ぼけぇっと虚空を見上げたディーンを不審に思って、遠離は声をかけた。

壱号10/7 16:42:186127cfjjkaSD0enTA||216
「おばあちゃん?」
「・・・ぇ? なに?」
はっと正気に戻ったディーンを警戒しながらも、遠離はディーンにもう一度話し掛けた。
「だからね、おじいちゃんはどこって。
 あと、あたし、こんなふうに心を操られるのってイヤ。戻して頂戴」
ディーンはそれを聞いて、本当に残念そうに遠離を見つめた。
「せっかく幸せのままでいられるのに。僕、嫌だよ。
 悲しいことを思い出したら、遠離は泣くだろう? 遠離、悲しまないで」

壱号10/8 13:13:326127cfjjkaSD0enTA||761
「イヤ! あたしを操作しないで! あたしをあたし自身から遠ざけないでよ!」
言い放った瞬間、ディーンに向かってありったけの怒りの気持ちを送る。
周りは相変わらず白一色だが、エネルギーの流れがはっきりと見える。一直線にディーンに向けて迸る力。
ところが、力はディーンの手前であとかたもなく霧散してしまう。
ディーンはほとんど泣きべそだ。
「エンリ、怒らないで。君の気持ちは痛いんだ。鋭すぎて、強すぎる。
 世界が壊れちゃうよ。幸せな世界を壊さないで、僕をいじめないで」

壱号10/8 13:13:536127cfjjkaSD0enTA||987
急激に、ディーンの周りに力が溢れ出す。ディーンを包み込もうとして、制御されずに地に落ち、流れていく。
「兄さん、どこにいるの? 僕を助けてよ、一緒にいてよ、寂しいんだ。
 苦しいよ、こんな気持ちいらない、兄さん助けて」
へたり込み、顔を手で覆って泣き出す。背中の翼がどんどん大きくなっていく。力がどこまでもすごい勢いで放たれていく。
力の作り出した風が顔に当たる。冷たい感覚。
手で頬をぬぐうと、水滴がついていた。泣いている。
確認した途端、どっと涙が溢れてくる。ディーンの恐怖が、精神制御を破ったのだ。

壱号10/9 12:16:56127cfjjkaSD0enTA||217
胸の奥が痛む。クレートの還元によって生まれた悲しみが、ようやく遠離に牙をむいた。
「うっ・・・」
頭が、胸が痛む。目の奥が熱くなって、熱いものがこみ上げてくる。
ごめんねクレート、あたし、アンタをいじめてばっかりだったみたい。アンタの子犬みたいな目ばっかり、頭に浮かぶの。かわいいなぁ、もう。
そうだ、この感覚だ。大事な人がいなくなると、こんなふうになるんだ。知っていたけど、いつでも新鮮な気持ちでこの感覚を受け入れることができる。

壱号10/9 12:16:276127cfjjkaSD0enTA||534
一歩一歩、吹き荒れる力に逆らって、苦しむ彼女へ近寄っていく。
「おばあちゃん、大丈夫、感情って必要なものなの。
 大切だって気持ちの裏返しが、苦しさなの。
 はねつけないでいいの、受け入れて、一緒におじいちゃんを待とうよ」
「エンリ、エンリ、怖い、いじめないでよ、やだ、やだぁ」
混乱しすぎて、力が制御しきれていない。ひときわ強い波を放った後、弱い断続的な波が足元に当たる。

壱号10/9 12:16:496127cfjjkaSD0enTA||381
「怖くない。いじめたりしないわ、一緒にいてあげる。
 おじいちゃんが来たら、一緒に帰ろうよ。みんなのお家に」
ディーンを守るようにかぶさった翼に優しく触れる。びくりと翼が動き、ゆっくりと開く。
恐怖と絶望の入り混じったその表情は、あまりにも彼女に似合わない。
遠離は彼女の頬を両手でゆっくりと包み、笑いかけた。
「大丈夫。おばあちゃんは今、ちょっとびっくりしてるだけ。
 すぐに何もかも、良くなるの。もう一回、幸せな世界が生まれるの。
 皆で一緒に暮らすの。お兄ちゃんと、おじさんと、おじいちゃんおばあちゃん、そしてあたしで」

壱号10/9 12:17:96127cfjjkaSD0enTA||188
ディーンを抱きしめる。幸せしか知らなかった、脆弱な夢の生き物を。
「エディと、ユゥリと、兄さんと、僕と・・・」
「そして、あたs」

急速に、変化が起こった。

体が軽い。目がかすむ。眠い。どんどんだるくなってく。おばあちゃんがこっちをみてる。怖がってる。何に? あたし?
何が起こってるの? あたしにはわからない。何がわからないの? なに? なんなの? なんのこと?
ああ、そうか、あたし、そうよ、わかった、そうよ、きっとそう、あたし、そうよ

                       還 元 さ れ て い っ て る

壱号10/9 14:38:366127cfjjkaSD0enTA||5
「ナザリー様、あれは」
ディーン(光)が遠離に触れた瞬間、遠離が還元された。異常を感じてナザリーに声をかけたカディラもまた、話し終える間もなく還元
される。
水面が小さな手を無数に生やして蠢き、ナザリーの足を捕らえようとする。
あらかじめ自体を予期していたナザリーは、手から逃れるため空中高く飛び上がる。
ナザリーは素早く伸びてくる手達を避けつつ、ディーンにテレパスを送った。
『きみのおにいさんはどこ?』

壱号10/9 14:38:516127cfjjkaSD0enTA||868
ディーンは自分の体を濡らす何かに気付いて、びくりと体を揺らした。
まだ正気に戻ったわけではないが、体に触れるそれは、異常な存在感でディーンをはっとさせた。
いつのまにか、体にかかる重みと暖かさも無い。
ディーンは顔を上げた。そこにはエンリ?がいた。
不思議そうな顔でこちらを見つめている。溶けていく。そして笑う。
バシャっと音を立てて、エンリが還元され、大地に染みていく。
後に残ったのは、生々しい赤黒い染み。
手で触れる。温かい。生物の感触。気持ちが悪い。

壱号10/9 14:39:86127cfjjkaSD0enTA||933
「エンリ? どこへいったの?」
染みを何度も撫でる。こする。顔を近づける。 少しづつ薄くなっているようだ。
「エンリ、消えないで、独りにしないで。幸せな世界をかえして。
 さびしいよぅ、エンリ・・・」
ディーンに誰かがささやく。
『きみのおにいさんはどこ?』
「にいさん? ・・・にいさん? どこ?」
辺りを見回す。何も無い。彼の優しい眼差し、落ち着いた声、少し低い体温、花の香り、静かな心。自分の感じられる彼の全て。


本文(<>," shift+7使用不可)
 ※メルアドや電話番号を公表してはいけません、荒らしを批判するのは「俺が神掲示板」以外は禁止!
 
特殊文字 by.チビファンタジー 過去ログ
無料ゲーム総合サイト無料オンラインゲームネットおもしろフラッシュ総合サイト