6990 | 空白2 | 壱号 | 10/29 15:49:26 | 6127cfjjkaSD0enTA |
空白の続きです。 今度は幸福論で登場したあの二人が再登場!(藁 前回に引き続いてリオ視点です。 意外な事実も発覚・・・っていうか、これの前のほうを投稿してないので、驚きも半減かも。 |
壱号 | 11/1 16:28:52 | 6127cfjjkaSD0enTA||516 | ||
エゼルガの導くまま、世界を渡る。 独りになれる場所へ、静かな場所へ。 テレポート特有の浮遊感の後、大地に触れる足の裏が靴底越しに暖かさを捕らえる。 花の香りの風が吹く。穏やかな光がまぶたの裏を照らす。 目を開けたそこは、パステルの春色に包まれていた。 |
壱号 | 11/1 16:29:2 | 6127cfjjkaSD0enTA||228 | ||
そこは、春の花園だった。 暖かい光が降り注ぎ、桃色、水色、雪色の花が咲き乱れる。 丘の向こうに、小屋が一軒建っているのが見える。 絵に描いたような、うららかな春の風景。 |
壱号 | 11/1 16:29:13 | 6127cfjjkaSD0enTA||235 | ||
どこからか歌声が聞こえる。 柔らかで無邪気で美しい、ゆったりとしたアルペジオ。 目を凝らすと、花の中に埋もれて、黒と赤の破片が見え隠れする。 破片は起き上がって、こちらを見た。 そして笑う。花よりも美しく。 その赤い唇を開く。 「エディオン!」 |
壱号 | 11/1 16:29:32 | 6127cfjjkaSD0enTA||530 | ||
その人は、両手を広げてこちらに駆けより、首根っこに飛びついてきた。 「おかえりなさぁ〜い!」 「のわっ!」 手加減無しの速度で飛びつかれて、後に倒れる。 花のむせるぐらいの香りが俺たちを包む。 「おかえり!おかえり!」 「なんだぁ?!」 しっかりとしがみつくその人を押しのけて、俺は起き上がった。 その人は、俺と同じかもう少し下ぐらいの歳の女の子だった。 俺と同じ黒髪を長く垂らし、俺と同じ紫の目をまん丸に見開いて、俺と同じ赤い翼をパタパタと動かした。 |
壱号 | 11/1 16:30:12 | 6127cfjjkaSD0enTA||254 | ||
白い袖なしのワンピースの下の体は、包帯を所々に巻いている。 良くみれば胸はでかいし腰は細いし色は白いし、目鼻立ちも整った相当の美人だ。 「お前、俺の事知ってるのか? 俺とよく似てるし」 「? 僕のこと覚えてない? カノンから聞いてないのかなぁ」 「母さんの知り合いか?」 「そんな薄いつながりじゃないよ。きみの生みの親だよ、僕は」 「生みの親ぁ? 人違いだろ」 ふざけてるのかと思ったが、彼女の顔は真剣だ。 「そんなに時間はたってないはずだけど。まあいいや。おかえり、エディオン」 彼女は俺を立たせて、歩き出した。俺の腕をしっかり握って。 |
壱号 | 11/1 16:31:1 | 6127cfjjkaSD0enTA||84 | ||
「おい、どこ行くんだよ。人違いだって」 「人違いじゃないったら。せっかく帰ってきたんだから、今日は久しぶりに何か食べよう!」 ルンルンと楽しそうにスキップしだした彼女に引きずられて、俺は丘の向こうの小屋に連れて行かれた。 小屋の手前までくると、わかっていたかのようにドアが開いて、男が一人出てきた。 やっぱりそいつも俺と同じ黒髪に目に翼を持っていた。彼女より更に俺と顔立ちが似ている。 「みてみて! エディオンが帰ってきたよ!」 「だから人違いだって!」 「忘れてるだけだってば! すぐ思い出すよ」 彼女は俺を男の前に押しやって、うふふと笑った。 「ほら、エディオンでしょ」 |
壱号 | 11/1 16:31:17 | 6127cfjjkaSD0enTA||786 | ||
言われた男は、ふむと小さく呟いて、俺の頭に手を置いて、くしゃくしゃと髪をなで、言った。 「・・・エディオンだな。間違い無く」 「だよね! やっぱり!」 「だから違うって」 「もう、心配しないで、すぐ思い出すから」 彼女は俺と男の手を取って、うきうきと小屋へ入った。 「さ、お茶の準備をしてくるからね♪ エディオンのマグカップ、さがさなきゃ」 彼女は台所へ繋がるらしい戸を開けて、居間から出て行った。鼻歌はさっきのアルペジオ。 男は俺に椅子を薦めて、その向かいにひじをついて椅子に座った。 「・・・覚えてないのか?」 |
壱号 | 11/1 16:31:45 | 6127cfjjkaSD0enTA||933 | ||
単刀直入に切り出す。 「覚えてないっていうか、人違いだと思いますよ? 俺はエディオンじゃなくてエディ・リオです」 「そうか・・・」 男はテーブルの花瓶の絵を指でなぞりだした。 「覚えてないのも無理は無いのか―――それともカノンかナザリーの仕業か」 考えるように呟きつつも、手は休めない。癖らしい。 「とりあえず、覚えてないのなら名乗っておこう。 俺はレオン。あいつはディーンだ。ここで暮らしてる」 溜め息を一つ。 「これから話すことは、急には信じなくて良い。期待はしていないから」 「そんなにとつびょうしも無い話なんですか?」 「大抵は信じない。本当に覚えてないようだし」 |
壱号 | 11/1 16:32:7 | 6127cfjjkaSD0enTA||182 | ||
レオンはまた溜め息をつくと、かなり大雑把に話し始めた。 「俺たちは昔旅をしていて、途中で旅を続けられなくなった。 旅を止めたが、それだけでは解決しない問題があった。 解決のために、俺とあいつはお前を創り、とある能力を持った娘に預け、育ててもらった。 その後俺たちは休暇を楽しむためにここへ来た。 預けた子供がどうなったかは俺たちは知ろうとしなかった。連絡が取れなかったからな。 大体は予測できたが、ここに帰ってくるとは思っていなかった」 「あのー、すいません、質問良いですか?」 「ん?」 「大雑把過ぎてわかりにくいんですが」 |
壱号 | 11/1 16:32:24 | 6127cfjjkaSD0enTA||924 | ||
俺の当然の質問に対して、レオンはさらりとこうのたもうた。 「詳しいことを理解する必要は無い。 お前が俺達に創られて、何年か時を過ごした。この事実だけが重要だ」 おいおい。俺の意思は無視か。 「それに、話せば長くなる。あいつの前でこの話はしたくない」 「おまたせぇ!」 レオンが言い終わった瞬間、ドアがひとりでに開いてディーンが戻ってきた。 トレイの上にティーセットが乗っている。 「お茶を三人分作るなんて、何年ぶりかなぁ。 だぁれも訪ねてこないんだから」 |
壱号 | 11/1 16:32:39 | 6127cfjjkaSD0enTA||817 | ||
「呼べば良いだろ」 「自然に来るから良いんじゃないか」 手早くお茶をセットして、椅子が二つしかないことに気付く。 「あれぇ、椅子どこにしまったっけ?」 「いい、出さなくて。俺が立つ」 さらりと言って、レオンが上半身を浮かせる。 比喩でなく、本当に上半身だけ。下半身は黒いもやになって消えていた。 「・・・・・・(汗」 「ありがと」 「ん」 |
壱号 | 11/1 16:32:57 | 6127cfjjkaSD0enTA||451 | ||
ディーンは椅子を引き寄せて、どさりと腰を下ろした。 そして肘をつき、こちらを見上げる。 「ふふふ。エディオンが帰ってきた」 俺の顔を両手で包んで、目を合わせる。 「これからは家族三人で、幸せに暮らすんだね。 ここに来るまでにどんな事をしてきたのか、教えてくれない?」 「あの、悪いんだけど、ほんとに俺、あんたたちの事知らないんだよ。 こんな扱い受けたら、本人に悪いよ。俺、帰る」 俺が言うと、ディーンはしばらく驚いたようにこちらを見ていたが、今までとは打って変わって感情の無い声で囁いた。 「・・・だめだよ。行かせない」 |
壱号 | 11/1 16:33:9 | 6127cfjjkaSD0enTA||564 | ||
俺の顔に爪を立てて、顔を近づける。恐ろしいほどに無表情で、それでいて煮えたぎるような憎しみが目に映る。 「きみは僕だ。僕から離れることは出来ない。許さない。ここにいるんだ」 強制的に何かが俺の口を動かす。恐怖かもしれないし、本能かもしれないし、誰かに操られていたのかもしれない。 「俺は・・・ここにいる」 「そう、ここにいるんだ。どこかに行くことは許さない。三人で一人。全てはここで始まり、終わる」 まるで刻み付けるかのような口調に、俺は何故か頷いていた。 |
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