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7354読みきり小説:「翼同盟」ルール12/20 0:24:212221cfLPceIFxbQRA
 小さい頃から僕には翼を手に入れたい願望がある。
肩胛骨が成長して僕の肌から少しずつ抜け出すのだ。
翼は体の中に残らないように薄い粘膜に包まれていて、
でも顔出す時に皮膚を這う血に触れてしまうから薄い桃色に違いない。
ちょうど桜みたいに。
桜と言っても夜桜の様に妖しいわけでなく、昼の満開桜の様に圧倒させる色でもなく。
濃い桃と地の白で、しかしどちらも主張しあう色では無いから葉桜の様な印象だ。
僕はその色が好きだ。

ルール12/20 0:26:152221cfLPceIFxbQRA||391
いや、その色をイメージするのが、かもしれない。だって実際には見たことの無い色だもの。
すっかり姿を見せた僕の翼は、産声の代わりに数度羽ばたく。
僕の妄想はそこで終わり。あくまで翼が欲しいのであって空を飛びたいわけではないのだ。
その理由は、肩胛骨を初めて触った時に、翼の胎形だと思ったから。
何も言わずそこにたたずむことに違和感を覚えた。


ルール12/20 0:26:592221cfLPceIFxbQRA||539
僕にとって翼をいつまでも手に入れられないことは、
レストランでいつまでたっても料理が出てこないのと同じ。
翼が手には入らないからといって誰かに文句をつけられない点、もどかしさは比べられないほどだけど。
翼を手に入れるという願望は現在叶っていないわけだから、空想するのは少し虚しい。
だけど気持ち良い。
数列の規則を探す作業に似ていて。
 すごく興奮する。

ルール12/20 0:34:72221cfLPceIFxbQRA||369
そいつの名前はハヅキといった。自分で『羽が付くからハヅキ』だと決めたらしい。
変な話。
ちなみに僕の名前はカナ、火男。どう考えても翼にこじつけるのは無理だ。
どうでもいいか。
「君、なんで翼もってないの」
その日僕は突然声をかけられた。
彼(恐らく)は、僕が立っているところよりも高いステップにから手すりに頬杖を付き、こちらを見ていた。
そして僕の腕の長さほどの翼を背負っていた。なんだか重そうだ。
彼は細身で、どっちが背負われているのか分からない。

ルール12/20 0:34:462221cfLPceIFxbQRA||243
やはり僕は驚くよりも先に、翼をもっている奴に嫉妬を覚えてしまった。
軽く睨む。
人が持っているものって何でも良い物に見えるけど。僕の中で翼は格別だから。
「ねぇどうして」
小首をかしげると同時に翼の間接が揺れていた。時折風が吹いて羽先が流されている。
ビルディングをバックに、不調和に映りながらも際だつその印象は目に焼き付いて余計僕を苛立たせる。
まるでそれを見透かしたように奴は笑った。
「どうして」

ルール12/20 0:35:132221cfLPceIFxbQRA||302
僕は下を向き精一杯落ち着いて言った。目の前で奴がクスクス笑っているから。
自分が恥じる場面に遭遇したくないのは誰だって同じはずだ。
「君は」
「ハヅキだよ」
「ハヅキはどうしてそんなこと聞くの」
不思議なことにハヅキの翼を誰もが通り抜けていく。僕は見えていないんだ、と理解した。
見えないものは触れられない、それだけの話だ。
そういえば幽霊を見られない人がばったり幽霊にぶつかったという話は聞いたことがない。

ルール12/20 0:35:572221cfLPceIFxbQRA||820
 ぼんやりそんなことを考えていると、いつのまにかハヅキは僕の目の前に立っていた。
そして色も形も薄い唇を開き囁いた。
「僕が聞きたいぐらいだよ。君の歩き方ときたら後ろに引っ張られてるみたいだ。
翼を意識しながら翼を持たない人なんて初めて見た。」
「カナだよ、僕の名前」
「そう。じゃあカナ、一緒に行こう」
ハヅキはそう言って僕の手をとった。
「なんで?」
「翼、欲しいんだろう。そうじゃなければそんな匂いしないさ」
「どんな」
「翼が生まれる前の匂い。雨が降る前だって匂うだろう?」
「少し違うと思うけど」
「翼、いらないの?」
「いる」
「じゃあここに、翼同盟発足」

ルール12/20 0:37:412221cfLPceIFxbQRA||194
 そんな感じで僕達の関係は始まった。具体的に言えば共通の趣味を持つ友人に近い。
ハヅキはどこにでも現れる。
学校だったり道ばただったり僕の家だったり。
たいてい僕を待っていて、僕たちは色んな話をする。
いつ翼に興味を持ったか、とか、それ以外ではあそこの景色は綺麗だ、あの本は面白いとかいう話も。
不思議なことにハヅキは僕の見た景色は大抵知っていたし本もほとんど読んでいた。
ハヅキはどんな疑問にも救いの言葉で答えてくれた。
僕の年頃が抱く悲観的な妄想からいつも僕を救ってくれる。
後で考えればどんなにくだらないネガティブ思考の排泄物でも、
欝だ欝だと所詮暇を持て余しているに過ぎない僕を嗜めたりせず。

ルール12/20 0:39:432221cfLPceIFxbQRA||838
『ハヅキ、月だ』
『うん。三日月かな』
『形、綺麗だね』
『色も綺麗だ』
『でも月は寂しくないのかな。あんな暗いところでたった独りで』
『新月のときは月が泣いている。我慢の限界だって誰が言ったんだっけ?』
『…誰も言ってないと思うよ』
『嘘だ。君の作文にあったじゃないか』
『なんで知ってるの』
『月は寂しくないよ』
『話そらすな』
『月は寂しくないんだってば』
『なんでそんなこと分かるの』
『地球がいるじゃないか』
『そういえばそうだね』
『ダンスしてる。なんだか楽しそうだね』
『…気の遠くなるような年月を時々ターンして時々太陽も交えて。そう考えたら寂しくないのかな』
『詩人だね』
『君もね』

ルール12/20 0:40:492221cfLPceIFxbQRA||474
 時々ハヅキの翼に触らせてもらうこともあった。そのときが一番僕の胸の高鳴る時間だ。
思ったより白くて、ときどき透明で、夢で見るもやみたいだ。
幻想を抱いていたものが以外と普通で僕は少し恥じた。
あんなに具体的に想像していたのに。
僕らの幻想の産物ってたいてい思ったより普通だったり、それどころか汚かったり醜かったりするけど、
ハヅキに会ったのを期に僕は真正面からそれに向き合えるようになった気がする。
一度、ハヅキは僕の目の前で大きく羽ばたいてみせたことがあった。

ルール12/20 0:41:442221cfLPceIFxbQRA||594
肩を反らして一回、二回と翼が後ろに風を送っていく。
僕はきっと飛ぶんだろうと思ったけどそう簡単にはいかないらしい。
ハヅキは明日にでも飛ぶかもしれないし、100年後かもしれないと言っていた。
要はハヅキ次第みたいなんだ。
ハヅキは飛びたいわけでは無いとも言った。ただ翼が欲しかったんだ、と。
それは僕も同じだったから僕は一緒だね、と言ったけれど、ハヅキは少し困ったように笑っていた。

ルール12/20 0:42:392221cfLPceIFxbQRA||463
 そして僕は、ハヅキと話すうちに、翼がさほど重要じゃないような気持ちになっていった。
翼を手に入れて僕はどうするんだろう。翼を手に入れても僕はハヅキのようになれない。
彼はなんでも持っているのだ。悲しみから逃げなくてもそれに捕らわれない方法を。
妄想なんかしなくてもするべきことを見分ける力も。

ハヅキのようになりたい。そう思った。


ルール12/20 0:43:162221cfLPceIFxbQRA||705
 結局僕はどうすれば良かったのだろう。後になってよく考えることがあった。
翼を手に入れたい願望は、ハヅキと出会って少しずつ薄れてしまった。
同時にハヅキ自身が僕の欲望の中心になっていることに気づく。
愛といえども恋ではなく、他人と呼ぶには妙に懐かしすぎて。
今確かにあるのは具体的で強い願望があったと確信できる事実だけ。
きっといつか色あせて思い出になってしまうから悲しい。
だから事実の存在を、いつまでも憶えていようと思う。大人になっても。

ルール12/20 0:43:512221cfLPceIFxbQRA||418
 結果を話すと、僕とハヅキは一つになったのだった。
欠けたところがちょうどに合わさってうまく融合した感じに。
ツーピースパズルが完成したと言えるかもしれない。
僕は翼の欲望から脱し自分の力で進むことができる。
とにかく今、僕は、背に強い風を感じている。
妄想に拠り所を求めるのではなく、自分の力で確かに進む力。

それがまるで翼のようなのだ。

ルール12/20 0:46:362221cfLPceIFxbQRA||48
『ねぇハヅキ』
『なに』
『君は僕なの』
『なんで』
『あのねハヅキ、僕近頃変なんだ』
『どんなふうに』
『翼よりも自分の力で勝ち取る自由が欲しくなったんだよ。
変だね、「翼」ときたら「進める力の源」だと勝手に思いこんでいたみたいだ』
『じゃあさ、カナはどうするの』
『君に背中を押して欲しい。自身の力をフルに活用できる、その一歩を踏み出したいんだ』
『それなら必要ないよ。君はもう進み始めてる』
『ねぇハヅキ、』
『なに』
『君は僕なの』


『僕は今やっと翼を手に入れた気がするんだ』

ルール12/20 0:49:582221cfLPceIFxbQRA||189
終わりました!!
短編かと思いきや長くなってしまって自分でもびっくりです。
携帯でぱちぱち打ったものを、少し手直ししていっきにのっけてみました。
どなたか批評や感想など教えてくれると嬉しいです。
どうかよろしくお願い致します

紫苑12/20 18:4:95985cflhSfdJVBBMo||281
いいお話ですね♪
私も翼が欲しいと思うことがあります。
カナが本当の翼を手に入れた瞬間、私も翼を手に入れた気がしました。
今の私に大切なことを教えてくれた作品です☆
これからもがんばってくださいね^^

スワロー12/20 18:13:176111cfyil7c1Ws9M.||428
初めまして、一気に読んでしまいました。
な、なんか深いですね!!いい小説読んだ時の満足感があります。
そして個人的に文章が色っぽい気がするのですよ?
(決して悪い意味ではなく、魅力的というか…)
他にもあるなら、ぜひ読ませて頂きたいな、と思いました^^

MOON12/21 16:27:62221cf856yXwLAops||479
はじめまして、久しぶりに良い小説読ませて頂きました。
なんか私もこういう感覚あった気がします。小さい頃ですけど
どっちかというと進みたいのか現実逃避したいのか
今じゃよくわかりませんが・・・変な子供でした。

『翼』というキーワードがとても奥深くて、色々な面から
考えさせられました。ともあれ、カナ君が成長できて良かったです。

ではでは、素晴らしいお話を有難うございました。


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