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8261DOLLS雪月雪花5/7 17:29:121251cfYvTglcsmfUM

「あなた、もう少し笑った方が良いんじゃないかしら?」

いつもの道、いつもの時間、いつもすれ違うその人に、私は思わず声をかけた。
私はそんなに社交的な人間ではない(仮にそうだとしたら、毎日会社の上司に怒られる事もないのだろうな、というのはまた別の話)。
にもかかわらず、話した事も無い他人にあんな事を言ったのには訳がある。
その人物、表情が、ないのだ。
いつも無表情、いつもポーカーフェイス。
そんな人間を毎日見てしまうと、どうしても嫌な気分になってしまう。
生気が感じられないのだ。
生きた人形を見ている様で、鳥肌が立ってしまうのだ。
だから私は、声をかけた。

雪月雪花5/7 17:30:281251cfYvTglcsmfUM||487
多少の怖いもの見たさもあったし、私自身、かなり表情豊かであると称される事があった。
故に、自分と正反対の彼を見ていると気分が優れなかったのだ。

「何故ですか?」

驚いた事に、その男は話した。
あんな質問にまさか答えるとは思わなかった。そのまま素通りすると思ってた。
その読みとれない表情からは、この男が何を考えているのかも読みとれなかった。
何を考えているのか分からないというのは置いといて、何故と聞かれたからには答えない訳にもいかない。

雪月雪花5/7 17:31:61251cfYvTglcsmfUM||593
「それは…その…。」
訳にもいかない筈だったが、うまい言葉が見つからない。本音を言ってしまえばそれで良いのだが、さすがにそれはまずい。
『まるで人形みたいで気持ち悪いから。』
いくらなんでもそんな失礼な事は言えないだろう(とはいえ、初対面に関わらずいきなり笑えと言ったのもかなり失礼だとは思うが)。

「…急いでいるので早めの回答をお願いしたいのですが?」

彼は無表情で私を急かす。はっきり言って怖い。恐怖以外の何物でも無い。無表情で話しかける彼には、己の感情など無くただ喋っているだけに見える。人形。
まさしくその言葉がうってつけだ。

雪月雪花5/7 17:31:471251cfYvTglcsmfUM||957
「えっと…、その…、つまり、あれですよ、笑った方があなたに似合うかなー、…なんて思ったんです。」
私は当たり障りの無い適当な言葉でその場を切り抜けようとした。これ以上彼の無表情に付き合っていられるほど、私は図太い神経を持ち合わせている訳ではないし、理由も無い。
「そ、それでは私、これにて失礼しますっ。」
早口となったが、逃げるための言葉を無事に発する事が出来て私は少し安堵の表情を浮かべた。

雪月雪花5/7 17:32:331251cfYvTglcsmfUM||83
だけど、それは間違いだった。私は彼を少々あまく見ていたようだ。
「待ちなさい。」
彼は一言、鋭く言い放った。言葉の刃は私を捉え、歩みを止めさせることに成功した。思わず冷や汗が流れた。
彼にとっては成功─そもそも彼に成功も失敗もあるのかという疑問があるのだがそこは敢えて目を瞑ろうか─だが、私にとっては大ピンチ。さてどうしようか。

雪月雪花5/7 17:32:501251cfYvTglcsmfUM||723
まず彼の狙いを見定めなくてはならない。何故引き止めたのだろう。
私がいったい何をしたっていうのだろう。

そんな時には便利な方法がある。相手が何を考えているのかがわかるという便利な方法だ。

それは────


「は…はあ?何でしょうか?」

相手に直接聞くことだ。これ以上に素晴らしい方法を私は知らない。生憎、テレパスとかそういう力は私に無い。

雪月雪花5/7 17:33:121251cfYvTglcsmfUM||305
「何でしょうか…ですか。いえ、大して用事は無いのです、ただ、あなたと少しばかり話がしてみたくなりましてね。」
……なんと言うことだ。つまり簡単に言えば私は、この男にナンパされたのだ(皮肉にも私は生まれてから今までにナンパなどされたことがない。あぁ神様はなんたる不幸を私に押しつけるのだろう)。
「わ、私は忙しいのでけ、結構ですっ。」
私はコンマ二秒程の間を空けて、今の私に出来る最大限で最低限に人を傷つけなさそうな決まり文句を言い放った。
次の瞬間の事も考えずに。

雪月雪花5/7 17:33:331251cfYvTglcsmfUM||622
「あなたの事情など自分にとってはほんの些細で些事な事でしかありません。」
そう言って彼は無表情で逃げようとする私の腕を鷲掴みにした。力はさほど強くないのだが、例のポーカーフェイスパワー(命名私/ネーミングセンス無し)によって私は固まってしまうのだった。
かと言って『じゃあお話しましょうか』と簡単に言える程の強さは持ち合わせていないので、何とか相手のペースを乱そうと試みてみる。
「あ、あなたさっき急いでいるって言ったじゃないですかっ、早く用事を済ませに行った方が良いんじゃないですかっ?」

雪月雪花5/7 17:34:191251cfYvTglcsmfUM||50
思い出したくない彼との会話の全てを自分の頭の中いっぱいに展開し、分解し、一つ一つの単語を反芻していった。その中で見つけた突破口が、今の発言だ。果たしてこの強敵に通用するのだろうか。
「そんな事はどうでも良いんです、そもそもあなたには関係無いでしょう?」
なんとこの狂的な強敵、目には見えない耳栓をしているようだ。人の話を全く聞こうとしない、つまり自己中心的な思考の持ち主だったのだ。無表情の仮面の下には恐ろしい思考が眠っているものだね。

雪月雪花5/7 17:34:411251cfYvTglcsmfUM||413
と、こんな暢気な事を考えている場合じゃない、早くこの場から逃げだそう。そのために少々強引な手段を使うのも仕方ない。
「い、いい加減にしないとっ、警察呼びますよっ!?」
携帯電話をハンドバッグから取り出し、いつでも国家権力を引っ張り出せる事をアピールしてみた。
私の勝手な想像だと、この手の自己中ってのは警察とかの単語に弱いはず、だからここで彼のポーカーフェイスは崩れさり一気に弱気になって謝罪してくるはずで…。そう考えたら思わずにやけてしまった。

雪月雪花5/7 17:34:581251cfYvTglcsmfUM||396
きっと今周りの人達が私達を見たら、不思議に思うだろう。
何故かって?そりゃ言うまでもない、無表情の男と一言言う度にころころと表情を変えていく女。どう見ても正反対であり、その二人のやりとりはまるで滑稽ではないか。

……まぁ私の予想っていうのはつまり、外れるためにあるような物みたいだ。

雪月雪花5/7 17:35:191251cfYvTglcsmfUM||572
「あなたころころと表情を変えて、疲れませんか?」
彼は警察と言う単語に怯むことなく、寧ろ流して私に別の話題を振ってきた。相変わらず無表情のままだが。
「つ、疲れる…?」
私は無理して表情を作っている訳ではないので、彼の言う『疲れる』という意味がどうもうまく飲み込めなかった。
 「はい、疲れる。あなた、その表情の豊かさで周りに口うるさく言われた事はありませんか?例えば会社の上司とか……。」
言われた瞬間、胸がずきっとした。思い当たるどころか、私の毎日そんな事ばっかり、なのだ。

雪月雪花5/7 17:35:471251cfYvTglcsmfUM||96
『何をへらへら笑っているんだ、さっさと次の仕事に移れ!』
『泣いてる暇があるなら一つでも契約取って来なさい!』
『そんなことでいちいち腹を立てる事では無いだろう?』
そうだ…、私は今日、会社をクビになったんだった。へらへらしてたりめそめそしてたりいちいち腹を立ててたり…そんな事ばっかりだったから、仕事に身が入らなくて、クビになった。
そんな自分に嫌気がさしていた。
いつも擦れ違うこの無表情で毎日を過ごしている彼に対して憧れを抱いていたのだろう。だから、私は声をかけたんだ。

雪月雪花5/7 17:36:11251cfYvTglcsmfUM||869
「もう……疲れました…。」
この言葉を発したら、胸が苦しくなって、一気に涙が溢れてきた。嫌だ。感情なんていらない。涙なんか流したくない。
 「全てを捨て、無になるがいい。受け入れろ。全てを受け入れ無になるのです。」

……彼の手軽く額に触れ、そして離れていく。
私の意識が…少し遠のいていく。
気持ちが軽くなる。

全てを捨て全てを受け入れ……無になる…。


私の意識はそこで途絶えた。

 「ふふ…、これでまた一人……人形が増えました…この調子でいけば………。」



雪月雪花5/7 17:40:341251cfYvTglcsmfUM||235
はい、このような駄長文、最後まで目を通していただいてありがとうございます。
なんだろ…現実味があるファンタジー……というより、この世界に酷似していて、だけど何かが根本的に違う感じの作品なんですが…いかがですか?
この独特の世界観を楽しんでいただけたら幸いです…。



感想とかいただけたら嬉しいかなぁ…なんて、戯言ですけどね(ぉ

フィリス5/7 18:46:562201cfpLxrS8ovfug||17
おぉ、最後の言葉なんか怖いですw
一体何者なんでしょうかね。気になるッッ!
表情豊かなことは良いことですよww
(何言ってるんだ自分)
続きあるんなら(あってほしいです)
絶対目をとおしますので、頑張ってくださいw

雪月雪花5/8 18:5:191251cf3f5meE2Cx7U||442
>フィリス様
感想ありがとうございますーvV
モノカキとして、誰かに感想をいただけるというのは非常に嬉しいことでありまして…、私感激です(何
最後の一文からして続編がありそうな雰囲気丸出しですが
実は何も考えておりません(ぁ
あそこであの文にしたのは【いつか】続編を書くかも知れない
という先行投資(違)みたいな物で…
…実は今構想練り始めたり(ぉ
完成しましたらうpしますので、どうかその時までお待ちいただけたら幸いです。

毒姫5/11 19:28:42191cf0rr1QoKpF6c||986
こんばんは♪ 初めまして。
普段芸術板なんて、極たまにしか覗かないのですが
題名が好みだったもので...ぁw
ついついくりっく。 すごくおもしろかったです!
斬新で、どこか残酷な内容が私にクリーンヒットです。
もちろん続編ありますよね?DOLLS*2* 見たいな感じで。
期待大です。小説のうp楽しみに待っております。
乱文失礼いたしました。

そこで、個人的アドバイスなのですが...
題名を「赤太」(特殊文字)で書くとインパクトがでて、より引き立つと思いますよ♪
なんか…ずうずうしくてすみません;;

雪月雪花5/16 17:23:451251cf.A7ZKDrgQ2I||406
>毒姫様
うっわわわわ…
返事遅くなりました…。。
しかも続編まで希望されるとは…(ドキドキ
さらにアドバイスまで…!!
現在まったりと構成を練っておりますので
のんびりお待ちください
うpした時に自宅へ
手紙を投函しちゃいますんで(ぇえ

毒姫5/16 21:4:482191cf0rr1QoKpF6c||177
はい♪ 手紙投函楽しみに待ってますね^^


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