8777 | -_光る闇の下で_- | sIs | 7/31 19:30:51 | 1242cfWvWfTCgMNwE |
その日は、とにかく空が澄み渡っていた。 雨の多いこの町にしては珍しいほど、雲が見えなかった。 「・・・あなたも、星見るの好きなの」 「うん。・・・えっ?」 それは、その日の夜、校舎の屋上で星を眺めていたときのことだった。 |
sIs | 7/31 19:31:1 | 1242cfWvWfTCgMNwE||604 | ||
- 光る闇の下で - |
sIs | 7/31 19:31:14 | 1242cfWvWfTCgMNwE||523 | ||
「お前、名前は?」 「・・・深島 月葉」 「はっ?」 「みしま、つきは。そういう名前」 「・・・変わってる名前だな」 ふう、とため息をつく。 |
sIs | 7/31 19:31:26 | 1242cfWvWfTCgMNwE||9 | ||
「それはお互い様じゃないの、甲川 鴫弘君」 深島も同じようにため息をつく。 雲がなく、月が明るい空の下で、彼女の真っ白な肌がやけに目立つ。 その肌は凄く綺麗に光っているが、しかし表情や目に輝きがないので美しくは見えない。 よく手入れされている黒い長髪は、さっきから風の吹くままにされている。 |
sIs | 7/31 19:31:40 | 1242cfWvWfTCgMNwE||72 | ||
「・・・何で俺の名前、知ってるんだ」 いわゆる「美人」だが、しかしあまり印象に残らない感じの、この少女に名乗った覚えはない。 「知ってるから知ってるのよ」 自分が疲れていそうなのにも関わらず、「あなた疲れていない?」とでも言うような口調で、淡々と答えてきた。 その横顔を見て、変な奴だと思ってしまった。 |
sIs | 7/31 19:31:50 | 1242cfWvWfTCgMNwE||624 | ||
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sIs | 7/31 19:32:5 | 1242cfWvWfTCgMNwE||17 | ||
「甲川鴫弘君は、星好きなの」 深島がフルネームで呼んでくる。 「嫌いだったらわざわざ見にこねぇし。 お前もそうだろ」 極々普通のことを言う。 ところが深島の答えは変だった。 |
sIs | 7/31 19:32:18 | 1242cfWvWfTCgMNwE||247 | ||
「私は嫌い」 「じゃ、何でここに来るんだ」 わけが分からないので、とりあえず訊いてみる。 「私が見たいのは星じゃなくて、月」 そういうと深島は遥か上で神々しく輝く上弦の月を指差した。 その指はやっぱり白く、そして細い。 まるで「穢れ」という言葉を知らないようだ。 |
sIs | 7/31 19:32:32 | 1242cfWvWfTCgMNwE||810 | ||
「何で星は嫌いなんだ」 微笑みもしない深島の顔を見て訊いた。 「・・・あれは、人間だから」 半開きの目を微かに潤して深島は言った。 |
sIs | 7/31 19:32:48 | 1242cfWvWfTCgMNwE||277 | ||
「人間は、死んだら星になるの。 どこで、どんな星になるか、それは誰にも分からないけど、 良い人も悪い奴もいつかは死んで、いつかは星になるの。 良い人間は良い星になって輝くけど、悪い人間は悪い星にしかなれない。 あの星空にも、良い星悪い星があって、でも良い星は悪い星よりもずっと少ないの。 それは、良い人間が少なかった証拠。 ・・・って、星を見ていると、いつもそういうことを考えるから嫌い」 まともな人間なら多分理解できないこの滅茶苦茶な話を、やっぱり淡々と深島は話した。 そして、何故かこの話を変だと思わず、それどころかどこかに共感してしまった。 |
sIs | 7/31 19:33:2 | 1242cfWvWfTCgMNwE||210 | ||
「・・・そうかもな」 気がつけば肯定していて、いつの間にか別のことを訊いていた。 「月は何で嫌いじゃないんだ」 「星と違って一個しかないから、人間じゃないもの」 ご尤も。 |
sIs | 7/31 19:33:11 | 1242cfWvWfTCgMNwE||993 | ||
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sIs | 7/31 19:33:24 | 1242cfWvWfTCgMNwE||187 | ||
「甲川鴫弘君は、家族は好きなの」 突然訊かれた。 「ん? あぁ・・・どうだろう」 「嫌いなの」 「いや、嫌いではないけど・・・でも」 「でも?」 「好きでもない・・・かな。 例えば『勉強しろ』って言われたら、それは俺の為に言ってくれてるんだろうけど、 でも素直に受け入れようとは思わないし。 いてくれると嬉しいし助かるけど、いつも一緒だと邪魔っつーか」 |
sIs | 7/31 19:33:37 | 1242cfWvWfTCgMNwE||1 | ||
いつの間にか、本音を喋っていた。 喋り終わってから、はっとして深島の方を見てみると、彼女はじっと月を眺めていた。 嘲る様子も、哀しむ様子もない。 ただ、硝子玉よりもずっと壊れやすそうな目で、じっと月を眺めていた。 |
sIs | 7/31 19:33:48 | 1242cfWvWfTCgMNwE||988 | ||
「それぐらいの距離が、一番いいの。 近すぎるとどうしても甘えたくなっちゃって、いつか一人になったときに生きていけなくなるし、 遠すぎると独りぼっちで、きっと哀しい。 甘えるのは時として愚かなことだし、独りきりは悪の根源になる。 近すぎても遠すぎても、死んだ後できっと後悔する星になってしまう」 月から目を離して、こっちを見てきた。 その顔には微笑みすら浮かんでいないが、しかしどこか優しい表情をしていた。 家族や友人より、優しく心を抱きしめてくれるような気がした。 |
sIs | 7/31 19:33:56 | 1242cfWvWfTCgMNwE||618 | ||
「そうだな、星になるなら後悔はしたくないな」 「そうでしょう。その気持ちは決して忘れないでね」 軽く頷いて、また二人で空を見上げた。 今見ているこの数百の星の中に、良い星はいくつあるのだろうと考えながら。 |
sIs | 7/31 19:34:4 | 1242cfWvWfTCgMNwE||867 | ||
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sIs | 7/31 19:34:20 | 1242cfWvWfTCgMNwE||823 | ||
しばらくしてから腕時計を見てみると、とっくに十二時を過ぎていた。 そろそろ帰らなければならないと思った。 「おい、深島、そろそろ・・・」 そこで初めて気がついた。 「・・・あれ、深島?」 名前を呼んだときにはもう、深島月葉の姿はどこにもなかった。 |
sIs | 7/31 19:34:27 | 1242cfWvWfTCgMNwE||540 | ||
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sIs | 7/31 19:34:41 | 1242cfWvWfTCgMNwE||894 | ||
「先生」 数日経っても、あの夜以来深島月葉を見かけなかったので、思い切って先生に訊いてみることにした。 「おう、どうした甲川、お前が職員室に来るなんて」 「先生、あの、深島月葉って女子、知りませんか」 |
sIs | 7/31 19:34:53 | 1242cfWvWfTCgMNwE||619 | ||
「知りませんか」と言い終えるのと、先生が目を丸くしたのがほぼ同時だった。 しかし明らかに演技ではない。 「深島月葉? お前、それをどこで」 「え、あ? いや、その・・・」 戸惑いで震える肩に、先生が手を置いた。 「甲川、お前がどうして深島月葉の事を知っているのか知らんが、もう二度とその名前は喋るな。 いいな? 絶対だ」 突然真剣な表情と真剣な口調で言われたので、思わず頷いた。 信じてくれたのか、先生はすぐに教室に戻るように指示し、それに従った。 |
sIs | 7/31 19:35:2 | 1242cfWvWfTCgMNwE||210 | ||
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sIs | 7/31 19:35:14 | 1242cfWvWfTCgMNwE||721 | ||
それ以来、深島月葉の名前は勿論、あの夜の出来事も誰にも言っていない。 そして、深島月葉が一体誰で何なのか、それも調べていない。 でも、調べる必要なんて今更ない。 深島月葉と話したことが、こうやって記憶に残っていたらそれでいいのだから。 |
sIs | 7/31 19:36:8 | 1242cfWvWfTCgMNwE||269 | ||
* 後書き * 7月19日完成。 本当はこれ、どこにも公開するつもりはなかった小説。 夏なんです。暑いんです。頭がお仕事してくれないんです(爆) だから、創作意欲回復(と文章力向上)の為に書いた練習作品。 で、まぁ色々ありまして公開に至ったわけですが(ごまかし) ここでの公開の理由は「取り敢えず生きてますよー」って生存主張の為です。 一応読切だけど、連載の可能性が出てきてしまいました。 ちなみにリキシリーズ7月号は諦めてしまいました。ごめんなさい。 |
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