戻る
9236今、過疎地の神様は_(読切小説)sIs10/2 17:39:341219cffTLM13GXZB6

この作品は

今年の学校の文化祭で販売した、文芸部の機関誌に出した作品です。
現代風世界で暮らす少年の、小さいけれど不思議な体験。
恋愛物や戦闘物をお求めの方は、別の作品をどうぞ。


sIs10/2 17:39:451219cffTLM13GXZB6||978

季節は冬。

「・・・よーし、終わり」

小学五年生の証太は、引越しの荷造りをしていた。
といっても、荷造り自体は今完成したので、あとは家の掃除をするのみである。

「あ、でも・・・その前にお昼ご飯」

三時間もかけて荷造りをしたので、少し休憩することにした。

sIs10/2 17:39:551219cffTLM13GXZB6||990

しかし昼食を終えても、証太は掃除する気にならなかった。
まだ掃除機が家になかったので、箒と雑巾で掃除するのである。
これが非常に面倒なので、証太はやる気にならないのだ。
そこで、掃除以外に何かで時間が潰せないか、証太は考えた。

「・・・そーだ、神社行こう」

思い立ったが吉日・・・ではないが、証太は立ち上がり、家を出て裏山の神社へ向かった。
長年住んだ地域での、最後のお参り、そして少し早すぎる初詣だ。

sIs10/2 17:40:51219cffTLM13GXZB6||475

証太の住んでいるこの辺りは、末歩という。往時は百人以上が住んでいた集落があったらしい。
しかし現在は証太の一家以外には誰も住んでおらず、つまり明日から末歩は無人地帯になる。
郵便局や小学校まであった集落が、明日からは無人地帯。
生まれも育ちも末歩の両親は、無人地帯になることが信じられないようだが、
証太は郵便局や小学校まであったということの方が信じられない。
証太の一番古い記憶でも、小学校や郵便局はないからだ。

しかし神社は最後まで残っていた。
郵便局や小学校などと違い、神社で働く人はいない。
取り壊すほうが費用がかかるのかもしれない。

sIs10/2 17:40:241219cffTLM13GXZB6||658

「よいしょ、ぃよいしょ、・・・よいしょっ」

しかし何故こんな山の上に建てたのだろう。年に一、二度訪れていたが、その度にそう思う。
狭く長い石段は疲れるし怖いし、山の中は虫が一杯だ。
行って帰ってくるだけでも虫刺されが腕に数箇所出来てしまう。
証太はそれが大嫌いだった。

「ぃよいしょっ、・・・ふぅ、着いたぁ」

長く急な石段を登りきり、証太は両膝に手をつき深呼吸した。
気温は零度近いというのに、額や背中が妙に湿っている。
呼吸を整えてから、証太は改めて周りを見回した。

sIs10/2 17:40:351219cffTLM13GXZB6||738

枯れ木が一杯で見通しが悪く、山林の奥は真っ暗。
証太が立つ小さな空き地の奥の方に小さな本殿があり、
その中に御神体の青い水晶玉が、半分吹きさらしの状態で安置されている。
供え物の花は全て枯れており、食べ物は全て腐っていた。

「あ、お金忘れた」

証太は左手をポケットに突っ込んで硬貨を探したが、どうも忘れたらしかった。右のポケットにもない。
仕方ないのでそこら辺から平らな小石を見つけて、それを賽銭箱に入れた。
手を二回鳴らし、黙想する。
しばらくそのまま動かないでいると、突然どこからか声が聞こえた。

sIs10/2 17:41:01219cffTLM13GXZB6||307

《君は誰かな》

証太は驚いて目を開け、そして周りを慌てて見回す。
しかし証太の周りには誰もいない。
なのに・・・、

sIs10/2 17:41:71219cffTLM13GXZB6||576

《君の名前は、何だ》

また聞こえる。
冷や汗が背中を伝うのが分かったが、証太は恐る恐る答えてみた。

sIs10/2 17:41:201219cffTLM13GXZB6||85

「・・・廼田証太です」

そう答えると、声は満足したように、

《廼田・・・証太君、か。麓で暮らしている子供だな》

と、証太のことを知っているような返事をした。
しかし証太は誰なのか知らない。そもそも姿が見えない。

sIs10/2 17:41:391219cffTLM13GXZB6||519

「あの、あなたは誰ですか」
《私か? 私は神だよ。君の目の前にある、青い水晶玉だ》

えっ、と驚き、証太は本殿に安置されている青い水晶玉を確認した。
しかし別に変わったところはない。
さっきと同じ場所に、さっきと同じ色で安置されている。

《自分では動けないから、何も変わっていないよ。ところで証太君、何故ここに来たんだ?》
「え、えっと、初詣・・・」
《まだ十二月だろう? ちょっと早くないか》
「明日引っ越すんです。だから今日行っておこうと思って」
《・・・何、明日引っ越す?》

ここで神様に動揺が見られた。

sIs10/2 17:41:551219cffTLM13GXZB6||670

「はい、合久に引っ越すんです」
《・・・ということは、明日からは無人地帯になるのか》
「そうですけど・・・何で分かるんですか」

自らは動けない水晶玉が、この見通しの悪い場所から麓の様子を見られるはずがない。

《ははは、何故って、それは私が末歩の神だからだよ》
「神様は何でも見られるんですか」
《末歩のことしか見られないけれど、その分誰よりも末歩のことは隅々まで見ているよ》

証太は青い水晶玉を見て、目を白黒させるばかりだった。

sIs10/2 17:42:111219cffTLM13GXZB6||258

「・・・誰もいなくなると何かダメなんですか」
《私がこの神社を離れないといけなくなるんだよ》
しかし、先ほど自らは動けないと言ったばかりだ。
「でも、動けないんじゃ」
《ああ、確かに、この水晶玉では動けない。
 だから、この水晶玉という体を捨てて、別の何かに変わらなきゃダメなんだ》
「何で、離れなきゃダメなんですか」
《そうだな、どう説明しようか。
 ・・・私たち神は、何をエネルギーにして生きていると思う?
 水か、光か、植物、動物・・・。そういう目に見えるものじゃない。
 私たち神がエネルギーにしているもの、それは人間が生活する力なんだ》
「えっ、人間が生活する力?」

sIs10/2 17:42:211219cffTLM13GXZB6||842

証太にはそれが何なのか、よく分からない。しかしそこに神様が説明を加えてくれた。

《そう、人間が生活する力。
 起きて、飯を食べて、働いて、会話して、遊んで、寝る。
 この一つ一つの行動にこめられた力が、私たち神が生きていく上で大切なエネルギー》

証太は繰り返し呟いてみた。
起きて・・・飯を食べて・・・働いて・・・会話して・・・遊んで・・・寝る・・・。

《そう、人間が毎日当たり前のようにすることが、私たち神にとって大切なもの》

sIs10/2 17:42:361219cffTLM13GXZB6||461

変な感覚だ。
自分たち人間よりも上にいるはずの神様が、自分たち人間がいないと生きていけないなんて。
証太は少し嬉しいような、少し責任を感じるような、複雑な気持ちになった。

「僕は・・・引っ越さないほうがいいですか」

声から元気が少し消えたのが、神には分かったらしい。
神様は少し慌てた口調で返事してきた。

sIs10/2 17:42:481219cffTLM13GXZB6||489

《そういう意味じゃないよ。引っ越すのなら引っ越したほうがいい。
 私は、別の神社に移動すればいくらでも生きていける。
 また末歩の地に誰かが帰ってきたら、またこの青い水晶玉の姿で生きていく。
 だから、証太君が気にすることじゃないよ》

その声には怒りや悲しみが全く含まれていなかった。
証太への優しさと、自分への自信だけが満ち溢れた声だった。
そして、証太はその声に思わず涙を流してしまった。

sIs10/2 17:42:571219cffTLM13GXZB6||346

優しい末歩の神様、頼もしい末歩の神様。
やはり神様は神様だ。
人間のエネルギーに頼っていたって、神様は人間より遥かに偉い。
証太はたまらなくなったのだ。
遥かに偉い神様が、僕を慰めてくれるなんて。
情けなくて、悔しくて、でも少し嬉しくて、涙が止まらなかった。

sIs10/2 17:43:101219cffTLM13GXZB6||695

やがて証太も泣き終え、気持ちが落ち着いてきた。
そこに神様が声をかける。

《証太君は、旅行に行ったことがあるか?》

変な質問だった、だが証太は答えた。

「東京とか、大阪、沖縄とか・・・行きました」
《楽しかったか?》
「とても、とても楽しかったです」
《そうか》

神様は満足そうだったが、同時に不服そうでもあった。
そしてまた沈黙。

sIs10/2 17:43:241219cffTLM13GXZB6||556

「神様・・・」

証太が消え入りそうな声を出した。

《何だい》
「神様は、末歩が好きですか」

証太はそう訊きながら、これも変な質問だと思った。
しかし神様は返事をしてくれた。

《大好きだよ。この神社が出来てから、ずっとここにいるからね。
 色んな人が来てくれた、大好きな、思い出の場所だ》

やはり、神様とて離れるのは寂しいのだろう。声が微妙に震えていた。

sIs10/2 17:43:351219cffTLM13GXZB6||3

「・・・それじゃあ・・・」

証太は、ここで少し声量を上げた。

「・・・僕、いつか絶対末歩に帰ってきます。
 それで、また末歩に住みます。
 そしたら、神様もまた末歩にいられるでしょう」

それが、自分に出来る精一杯のことだと思った。
さっき優しくしてくれた、神様へ出来る精一杯のこと。

sIs10/2 17:43:471219cffTLM13GXZB6||733

《・・・》

神様は、すぐには喋らなかった。

《・・・証太君は、それでいいのか》

証太は躊躇わず答えた。

「僕も末歩が好きです。
 何もないけど、何もない末歩が好きです」

本当のことだった。
証太は日本各地を旅行したが、どこよりも末歩に住むのが一番いいと思っていた。
明日から住む合久も、多分末歩には敵わないだろう。

sIs10/2 17:43:581219cffTLM13GXZB6||160

《そうか》
「そうです、一番大好きです」
《・・・それじゃあ、また証太君とこの神社で会えるかな。
 その日を楽しみにしていてもいいか》
「約束します」

そのとき、証太は水晶玉が少し嬉しそうに光ったように見えた。

sIs10/2 17:44:141219cffTLM13GXZB6||29

翌朝、証太は末歩駅に立っていた。
まだ辺りは薄暗く、霧もかかっている。
線路の両脇には雪が積もっていて、寒い夜だったことを教えてくれている。

「寒くない?」
「大丈夫だよ」

心配そうに訊く母親に、証太は答えた。
しかし右手が震えているのが父親に見つかり、父親のマフラーを貸してもらった。

「風邪なんか引くなよ」
「分かってるよ」

優しく頭を撫でてくれる父親に、証太は答えた。

sIs10/2 17:44:281219cffTLM13GXZB6||529

やがて霧の中から列車が来た。
早朝なので他に乗客は二人しかいない。
証太は窓際の席に座り、曇っていた窓を拭いて景色が見られるようにした。

「昼頃には合久に着くからな」

うん、と曖昧に返事をしながら、証太は窓の外を懸命に見ていた。
途中、林が一度途切れたところで、山腹にあるあの神社がちらっと見えた。
今頃は神様ももう別の神社に行ったのだろうか。
いや、しかし、それでも約束した。また必ずあの神社で会う、と。

sIs10/2 17:44:431219cffTLM13GXZB6||724

「また、絶対に・・・」

証太はそれだけ呟くと目を閉じて、あっという間に寝入ってしまった。


そして今も、ある過疎地の神社には、誰かを待っている御神体がある。


sIs10/2 17:44:521219cffTLM13GXZB6||240

後書きらしいですよ

〆切前日に完成したので、色んな意味で雑です(爆)
わけ分からん表現があったりしましたらゴメンナサイ。
でも頑張ったんですよ! この話書くまでに半月かけたんですよ!

「続編は?」と訊かれたのですが、今のところ特に考えていません。
ただ、もしかしたら気の向いたときに書くかも。
証太君が戻ってきたときの話とか・・・。
うん、面白そう。


sIs10/2 17:45:31219cffTLM13GXZB6||134

補足:人名と地名

機関誌の方にはルビ(よみがな)を付けたのですが、
こちらでは出来ないので(かといって括弧書きは見栄え悪いので)ここで補足をしておきます。

廼田 証太 → のだ しょうた(人名)
末歩     → すえぶ(地名)
合久     → あいひさ(地名)

こらそこ、変だとか言わない。


グー者10/4 23:13:495914cfoPUNyr8DaLQ||114
こんばんはw師匠の小説で勉強させていただきます。(ぁ

まず、廼田 証太(のだ しょうた)が読めない僕の漢字能力に反省。(ぇ
ちゃんとストーリーと短編に抑えられるのがさすがです。
神社や小学校等親近感のある物が出ていながら、神様とリンクしたり何処か不思議な世界がリンクするのはとても引き込まれますね。

こんな所で感想は以上です^^
えー最後に・・・感想を下さい!(ぁ

sIs10/7 22:48:21219cffTLM13GXZB6||531
グーさん
あ、ここ忘れてた・・・(爆)
遅れましてごめんなさい。でもありがとう。

廼田君はいいでしょう、わざと読めない漢字にしたし(何)
実は神様って、こんなに身近なところにいるものなのかもしれない。
僕の勝手な妄想だけど。でも、何となくそれもありかな、と思いました。
「『神』社」だし、神様がいてもおかしくはない・・・かも。

感想は、この前言ったとおりまとめて最終回のときに(笑)
あれ、まだ最終回迎えてないよね・・・?


本文(<>," shift+7使用不可)
 ※メルアドや電話番号を公表してはいけません、荒らしを批判するのは「俺が神掲示板」以外は禁止!
 
特殊文字 by.チビファンタジー 過去ログ
無料ゲーム総合サイト: おもしろフラッシュ総合サイト: PS2:GBA:PSP:NDS:GC:XBOX