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9302こちら吼え猛る獣の会バルトーク10/12 17:42:592212cfBcsmysAsVME


吼え猛る獣の会。それは魔獣関連の事件を解決する機関である。
この大きな建物の中には、数百人の捕縛師や破魔剣士などが生活をともにしている。
吼え猛る獣の会に引き取られ、捕縛師や破魔剣士の教育を受ける以前はどうあれ、そこで認められた時点で、彼らの故郷は他になくなるのだ。



バルトーク10/12 17:44:122212cfBcsmysAsVME||870
1−1

本日の収穫。
うさぎが三羽に砂トカゲが三匹。
吼え猛る獣の会の宿舎からさほど離れていない林の中でエルクは少々……否、かなり不満な顔で自らの収穫を見下ろしていた。
艶やかな黒髪に角度によっては金色に見える琥珀の瞳というかなり珍しい組み合わせの少年は難しい表情で西の空を見上げる。血の色に染まった太陽が、西の地平に姿を消そうとしていた。明るいのはあと半時間がせいぜいだろうと結論に達したとたん、ますます嫌そうな顔になる。常に上げる収穫の、半分しかないのだ。しかも帰舎時間は迫っていて、これ以上の長居はできない。

バルトーク10/12 17:45:112212cfBcsmysAsVME||611
吼え猛る獣の会へ引き取られて五年。同じ歳で引き取られた仲間達は、すでに成人の儀を済ませ、捕縛師や破魔剣士として活躍している。
にも係わらず、エルクは未だに魔獣さえ持たない。それはなにも、彼が吼え猛る獣の会の会員としての素質に乏しかったわけではなく、何千分の一のありがたくもない当たりクジを引いてしまったせいなのだが、だからと言って、何も会に貢献できていない現実は、変わりはしない。せめて食料調達ぐらいは人一倍うまくなければ、本当に穀潰しの代名詞になってしまう。

バルトーク10/12 17:45:482212cfBcsmysAsVME||161
「仕方ないな……今日は帰るか」
憮然とした表情でエルクはつぶやき、自分としては不満な収穫を肩に歩きだす。
さくさくと砂を踏むたびに、だんだんと沈んでいく自分の心を彼ははっきりと掴んでいた。
なぜこんなに心が焦るのかは考えるまでもない。別に会で名声を得たいわけでもないのだ――それを何よりも望んでいる者もいるにはいるけど。
変なものに気に入られなれば、そこそこの捕縛師として、その地位を得られたはずなのに……それで充分満足できたのにな。
「忌々しいこった」
本心から彼はつぶやく。こんなことは、会では口に出来ない。

バルトーク10/12 17:47:152212cfBcsmysAsVME||827
「何が忌々しいの?」
突然の問いにエルクは、はっとして声のしたほうを見た。そこにはエルクと同じ黒髪の主を見出し、心底驚く。
気配はなかった。人も、魔獣も。それなのに、その17、18の少女はそこに立っていた。
黒いショートカットに勝気な黒い瞳の少女。しかも―――。
少女には、影がなかった。それは彼女が人間でない何よりの証拠で、捕縛の道具をエルクは何ひとつ持ち合わせていなかった。

バルトーク10/12 17:47:302212cfBcsmysAsVME||180
「もしかして、魔獣とか?」
聞くだけ無駄と思いながらも、つい聞いてしまうのは、世の中に魔獣よりも恐ろしい存在がいるのだと、身をもって知っているからである。もっともその問いに否と答えるが人の前に姿を現したという話は一度しか聞かなかったけれど。
「残念。ハズレ」
明るい口調で少女は予想外の答えを返してきた。ぎくりと、体が緊張する。人型を取れるのは、魔獣の中でも高レベルの魔獣。そうなると……

バルトーク10/12 17:47:472212cfBcsmysAsVME||245
いや、もうひとつ、別の可能性だってある。もしもこの魔獣が会の護り手なら……神獣とは呼べない。本質がそうであっても、人間に与した時点で、彼らは魔獣の名を捨てるのだ。
けれど、会に住んで五年。この少女を見たことは、ない。もちろんエルクだって護り手すべての顔や名前を知っているわけではない。もしかしたら、自分の知らないうちに、捕縛師に捕らえられ、眷族を振りすてた者だとすれば説明がつかないこともない。けれど、少女は彼の知る護り手とは、あまりにも雰囲気を異にしている。
「じゃぁ、何なわけ……?」

バルトーク10/12 17:48:72212cfBcsmysAsVME||157
ずばり聞くのが恐ろしくて、エルクはそう問う。残る可能性が、二つしかないことは分かりきっていたのだが、もしもそのうちの、彼が絶対に係わりたくないものだとわかった時のことを考えると、とても怖くて聞けなかった。
「覚えてないの。薄情なんだ」
拗ねた子供のような声が返ってきたときは、だから驚いた。
「えっと、どこかで会ったっけ?」
即座に問い返すと、少女はますます面白くない顔つきになって、エルクに恨みがましい視線を投げた。

バルトーク10/12 17:48:352212cfBcsmysAsVME||422
「本当に、全然、まるっきり、覚えてないわけ?」
くどくどした物言いに、かちんとくる。この非難がましい物言いは何だよ?まるで自分が悪者のような口調じゃないか。
「覚えてたらこんな会話は続けてないって」
感情を押し隠してエルクは答える。今、感情が外に出ればこの勝気な神獣に何かを悟られてしまようような気がしたから。
そんなことを考えて、ふと太陽を見ればすでに半分が沈んでいる。これはまずいな。こんなところで訳の分からない少女に係わっている暇はない。
穀潰しの上に、門限破りの烙印まで押されてはかなわないし。

バルトーク10/12 17:49:192212cfBcsmysAsVME||971
そういうわけで、エルクは少女を無視して宿舎へ戻ることにした。
「わるいけど、俺は忙しいから帰るよ」
一言も言い残さないで帰るのは悪いような気がして、素っ気なく言い残して立ち去ろうとしたその時。
「忙しいっていったって、開店休業でしょう。知ってるんだから」
のほほんとした声で人が一番気にしていることをずばっと指されて、エルクは一瞬、少女に殺意を抱いた。その、ほんの一瞬の、彼から立ち上ったまぎれもない殺意に気づいてか、少女は肩をすくめた。
「いやだなあ。そんな怖いこと考えないでよ。本当のことでしょう?」

バルトーク10/12 17:49:492212cfBcsmysAsVME||134
なだめるような顔でにこにこ笑う様子は、どうみても本気で恐れているとは思えない。何が本当のことだから怒るな、だ。本当のことだから怒ってるんじゃないか!
「もう、エルクはすぐに怒るんだから」
このっ……いつか問題を起こしたらこの手で。エルクはかたく決心した。
すでにどう急いでも門限には間に合いそうにないことも手伝って、彼の怒りは静かに深く根づこうとしていた。
「問題なんておこさないって。シュラいい子だもん。まあ、エルクに殺されるなら本望だけど、それよりも好きになってくれたほうが嬉しいな」
あまりに軽い言い方に、ぞわりと背筋が寒くなる。なんて、軽薄な……
「だ、誰が好きになるか!冗談じゃない」

バルトーク10/12 17:50:112212cfBcsmysAsVME||502
吐き捨てるように言うと、エルクは歩調を早めた。これ以上、この神獣に係わるのは御免だった。
いったいどうして、―――自分は変なモノ。それも人外の存在に限られて、絡まれるのだろうか?あんなものに選ばれなければ、今頃は捕縛師くらいにはなっていて、会に貢献していたはずなのに……。
「大丈夫だよ」
その時、シュラと名のった少女が、やけにきっぱりと断言した。
「エルクはそんなこと気にする必要なんかなくなる。すぐに、あそこの連中は認めることになるよ。さすがはあの刀に選ばれた剣士だってね」

バルトーク10/12 17:50:352212cfBcsmysAsVME||708
励ますようなその言葉に、エルクはぎくりと身を強張らせた。
「おまえ……何を知っている?」
最高機密に係わる事実に、いともあっさり触れてくれたシュラに、驚いていた。しかし、さすが人の何倍もの寿命を誇る神獣の少女は簡単に尻尾をだしてくれない。
「何のこと?」
とぼけきった顔で言われて、エルクは拳を握り締めた。のらりくらりと……
その時、閉門を知らせる鐘の音が、風に運ばれて耳に届いた。
「やっぱり……おまえが用もないのに引き止めてくれたおかげで、門限におくれたじゃないか」
恨みがましく言うと、シュラは笑った。

バルトーク10/12 17:50:592212cfBcsmysAsVME||362
「だって今日を逃すと、エルクに変な虫がつく恐れがあったんだよ。お呼びがかかるまで待った挙句に、他の子に取られるのは、冗談じゃないから。待つのは平気だけど、横取りされるのは別」
意味不明だ。
「いったい何のことなんだ?」
問い掛ける彼に、シュラはいたずらっぽく漆黒の瞳を輝かせて答えた。
「すぐにわかるよ、エルク。すぐにね。今度会うまでに、私のことを思い出してくれたら嬉しいな」
影さえあれば人間としか思えない、そんな人懐っこい笑顔でそう言うと、シュラはすいと、腕を伸ばした。
ついと、エルクの肩を小突く。その瞬間、心の一部を閉ざされるような、奇妙な感覚に襲われてエルクはよろけた。

バルトーク10/12 17:51:272212cfBcsmysAsVME||133
「何を……したんだ?」
「ちょっと、術の補強をね。他の子に取られないように」
「術って、なんだよ」
まさか、会に仇なすものでは……危険性がないとは言い切れない。
「安心しなって。私はエルクの嫌がることを基本的にはしないから」
シュラの無邪気な笑顔が、信用できない。
「今しただろ。俺は他人に心を扱われるのが大嫌いなんだ!」
ぎっと睨みつけると、シュラはぺろりと、舌を出した。
「基本的にって言ったじゃない?私の欲求を満たすときには例外よ」
「この……!」
相手の襟首を掴みあげようとした瞬間、少女は何食わぬ顔で、宙に身を滑り込ませた。

バルトーク10/12 17:51:572212cfBcsmysAsVME||602
「待て!」
「いや、待ってあげたいのはやまやまなんだけど。吼え猛る獣の会の結界っていう無粋なものがあるから、今日は失礼するわ。今度会うときは、笑う顔も見せてね」
宙に消えた少女の顔を、エルクは決して忘れるか、と思った。
「人の神経を逆なでするばかりか、心まで勝手にいじって……」
怒りに肩を震わせながら、エルクは自らに言い聞かせた。
何がまた今度だ。もう二度と御免だ。
ぶつぶつぼやきながら、エルクは上空を見た。
薄闇の中に、巨大な建築物―――吼え猛る獣の会の総本部が鎮座している。

バルトーク10/12 17:52:142212cfBcsmysAsVME||482
「罰則は夕食抜きか」
ぽつり、とつぶやく。
「満腹で寒さに震えるよりは、空腹で暖かいベットで寝たほうがいいよな」
寒がりらしい思考で、そう結論を出すと、門の前に立って開門を求めた。
門はすぐに開かれた。その直後に、彼の劣等感に悩まれながらも、平穏に過ごしていた生活に終止符が打たれたのだ、ということを彼は知る由もなかった。
宿命の歯車は動き出したのだ。

バルトーク10/12 17:55:62212cfBcsmysAsVME||584
==後書き==
相当長いですね^^;これを書いた僕は相当の暇人ということですが……
恋愛モノを書いてみようと思い立って書き始めたのがこの作品。どんな感じだったでしょうか?
続けばいいなと思っていますが、これは続くと思います。
では、またいつかお会いしましょう。

10/12 22:35:82221cfajqyHv/U9Ck||997
こんばんは^^

とっても話の進みが良く、
話にぐいぐいと引き込まれていきました。
そして、様子や喜怒哀楽が上手に会話の合間に入っていて
スムーズにさくさく(?)読めました。

続きを楽しみに待っております^^

バルトーク10/13 17:18:552212cfBcsmysAsVME||618
武様、こんばんわ^^
お褒め頂いて光栄です!
いや〜過大に評価されすぎちゃってる気がしますよ。
続きは、只今執筆中であります。おそらくこれで終わりという事はないと思うので次回も見てくださいねv

†猫†10/13 19:36:552181cf2EILdpX0so6||174
・・ふっ・・ふぉぇぇぇ・・(ぇ?
ちょぉっと(ぢゃないって)おど・・驚き(ぇぇ?
三・ェ・三{まず、影の無い女の子は何なんでしょうね(ちと目が痛くなります
すいません・・私の要望なんですが、読みにくくなるので、間を(タテに)あけると見やすい
です。非常に。(`・・)=3要望を出来れば聞いてくださいなq

バルトーク10/13 20:13:112212cfBcsmysAsVME||944
†猫†様、感想&アドバイスありがとうございます
アドバイスの行間を縦に間を開けるといい。という事なのですが、やはりそうですよね〜。

僕も開けたほうがいいとは思っているのですが、区切りの悪いところで開けてもな〜と思ってしまって。
前回の僕の作品で開けてみたのですが、なにやら失敗してしまってかえって読みにくくなってしまった気がしました。

今回は区切るべきところがなかったかな。とも思ってまして^^;もちろん、読みやすくはしていきたいのですが、僕が苦手なので・……すみません!m(_ _)m

要望に応えられなくて申し訳ないです。
しかし、次回も読んでくだされば嬉しいです。


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