9475 | 秋と言えば読書の秋_小説の秋 | バルトーク | 11/20 19:44:25 | 2212cfBcsmysAsVME |
朝。気がつけば、俺は知らない場所にいた。 記憶喪失なんかじゃない。20年以上生きていて初めて見るこの景色は……異世界だった。そしてなんだかんだのうちに勇者としてまつりあげられ、まるでゲームのように魔王を倒す旅に出させられたというわけだ。 〜勇者と黒い鳥〜 人から何かを命令されるという点においては、大学を出て会社に勤めるのと大して変わらないかもしれない。勇者には、労災も出なければ、生命保険もない。変わりに命の危険だけは、豊富にあるのだが。 |
バルトーク | 11/20 19:45:48 | 2212cfBcsmysAsVME||278 | ||
「どうしたんだ?ヨウヘイ。たそがれて」 肩にとまっている黒い鳥が、喋る。 おれは、ぱちぱちと闇をはじきながら赤く光を放つ焚き火に、木の枝を軽く投げ込んだ。 「ちょっと、今までの事を思い出してただけさ」 こいつは、おれと契約を交わした魔獣。『ウイップアーウイル』。普段はただの黒い鳥だが、契約者が支払う代償によって力を発揮し、すべてを暗黒の縁へと誘う。こいつがいなければ、剣もろくに使えないおれは、旅をしてこれなかっただろう。 |
バルトーク | 11/20 19:46:42 | 2212cfBcsmysAsVME||362 | ||
「なあ」 おれはふと呼びかける。 「おれが一番大事なものって、なんなんだ?」 「そいつは、おまえが一番良く知ってるはずだぜ。知っているけど、知らないふりをしているだけさ」 おれが知らないふりをしている大切なもの。一番大きな代償。 なんだ……?まったく思いつかない。 向うの世界では、恋人には捨てられ、金もなく、就職先も見つからなかった。しかし今はそれすらどうでもいい。一度離れてみると、あれほど固執していたものが、どうでもいいようなものに思えてくる。 |
バルトーク | 11/20 19:47:16 | 2212cfBcsmysAsVME||919 | ||
「ヨウヘイ。そんなことを考えてる暇はないぜ!」 ウイップアーウイルが言った瞬間、おれの目の前の空間がヒュゴ!という奇妙な音をたてて歪んだ。まるで高温に熱せられた空気が景色を歪めるように、おれの見ていた景色も、ぐにゃりと歪む。 その歪みを見てウイップアーウイルは呟いた。 「っ、こいつは爆炎系の魔法。やばいぞ!」 その直後、目の前に巨大な火炎が生まれ、大音響を立てて爆裂する。それは周囲にあったいくつもの木々をなぎ倒し、爆風は、おれたちを吹き飛ばした。 |
バルトーク | 11/20 19:47:37 | 2212cfBcsmysAsVME||781 | ||
そして、大地が激しく揺れ始める。 「なんだ!?次は地震か?」 おれは、ウイップのほうを向き、 「なんなんだよ、こいつは?」 「さあ?」 ウイップアーウイルが、無責任に答えた直後、それは起こった。 |
バルトーク | 11/20 19:48:4 | 2212cfBcsmysAsVME||504 | ||
燃え盛る森の中央で、火柱があがったのだ。いや、ただの火柱じゃない。その火柱には、大きな顎牙、鋭い牙、深紅の瞳。その火柱は竜の形をしていた。 その火柱が大きな口を開き、咆哮を上げた。 信じられない脅威だった。絵物語にしか登場しない伝説の獣が、目の前に現れているのだ。死が目の前にいる。そんな威圧感が、火柱にはあった。 |
バルトーク | 11/20 19:48:32 | 2212cfBcsmysAsVME||950 | ||
怯んだ隙に、紅の竜が吐き出した火球がおれを…… 「しっかりしろ!死にたいのか」 ウイップアーウイルが、防護魔方陣を展開し、何とか火球の直撃を防ぐが、爆風でまたしても吹き飛ばされてしまう。 今のをまともに喰らっていたら、死んでいただろう。 |
バルトーク | 11/20 19:49:24 | 2212cfBcsmysAsVME||853 | ||
「ウイップ!力を貸してくれ」 おれは叫ぶ。 「よっしゃあ!任せろ」 嬉しそうな声が返り、肩から黒い鳥が飛び立つ。 そこへ、紅の竜の攻撃。地獄の業火と形容するに相応しい火炎が、おれに向って迫ってきた。 おれの前に出たウイップは、自らの体から黒い波動を放出した。それは火炎もろとも竜を包み込もうとする。 |
バルトーク | 11/20 19:49:32 | 2212cfBcsmysAsVME||90 | ||
火炎と波動がぶつかり合い、おたがいがその場で固まった。 「だめだ。力が足りねぇ。もっと、もっと力を」 |
バルトーク | 11/20 19:50:31 | 2212cfBcsmysAsVME||638 | ||
くそっ。こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。 「いいだろう、使え!もっとも大きな代償が何かは知らないが何だろうと、くれてやる!」 その瞬間、黒い波動は勢いを増し火炎を押し返し始めた。 竜が、圧倒的な死が闇に侵されていく。 「このまま、とどめだ!」 「いけぇーー!」 火炎でできた巨体を、闇が完全に飲み込み収束する。 その跡には何も残ってはいなかった。 |
バルトーク | 11/20 19:50:53 | 2212cfBcsmysAsVME||246 | ||
ほっと息をついたおれは、安心したのかそのまま倒れこんでしまった。 |
バルトーク | 11/20 19:51:14 | 2212cfBcsmysAsVME||253 | ||
「陽平!陽平!」 俺の名前を呼ぶ声……目をあけると、そこには父や母、兄の顔もあった。 みんなが心配そうに俺を見下ろしている。 「みんな、どうしたんだよ。そんな顔して」 あれ、なにかおかしくないか?俺は異世界で勇者になって…… 「おまえが自殺なんかするからだ」 兄貴が冷静な声で事実を告げる。サンクス。おかげで考えがまとまった。 |
バルトーク | 11/20 19:51:53 | 2212cfBcsmysAsVME||991 | ||
俺は昨日、アパートの部屋で首を吊って自殺をはかった。しかし、ボロアパートのおかげで梁が体重に絶えられず、助かったらしい。そして、田舎から急遽駆けつけた家族が一同にかいしているってわけだ。 |
バルトーク | 11/20 19:53:13 | 2212cfBcsmysAsVME||31 | ||
「何で死のうとなんて考えたんだ!」 ホント、何で死のうとなんて考えたんだろ。やっぱ、いろいろあって逃げ出したかったんだろ。 そんな他人事のような感想しか、今の俺には思い浮かばなかった。 |
バルトーク | 11/20 19:54:11 | 2212cfBcsmysAsVME||656 | ||
「だけど、そう簡単に現実は逃げさしちゃくれないぜ」 聞き慣れた声。おまえ、ウイップか…… 「そう、おまえにしか俺の声は聞こえないよ。おまえの一番大切なもの。そいつは『未来』だ。下らない事で未来を捨てんなよ」 ああ、ウイップ。おまえには感謝してるよ。 「やめろヨウヘイ。照れるだろ。じゃあ、おれは新たな勇者を導かなきゃならないからな」 そうして、ウイップアーウイルの気配は消えた。 |
バルトーク | 11/20 19:55:17 | 2212cfBcsmysAsVME||539 | ||
「おい!陽平。おまえ聞いてるのか!」 「まあまあ、陽平も疲れているでしょうし、明日でもいいじゃありませんか」 俺に殴りかかろうとする父親を、母親が懸命に止めている。サンキュー母ちゃん。 未来も大切だが、今もなかなか悪くないじゃないか。 |
バルトーク | 11/20 19:58:21 | 2212cfBcsmysAsVME||289 | ||
END |
バルトーク | 11/20 20:2:54 | 2212cfBcsmysAsVME||573 | ||
〜後書き〜 こんばんわ。お久しぶりです。 空雲様のイベントに参加させていただきました、バルトークです^^ 今回は、ファンタジー的なのを書いてみました。 季節感もへったくれもないですが^^; 如何でしたでしょうか?読みにくさは、相変わらずですね。ハイ 読んでくださった方、ありがとうございました。 感想などがありましたら、是非頂きたいです。 |
ゆうじい | 11/20 23:50:33 | 6036cf2IlF0sHJAV.||925 | ||
こんばんは、読ませていただきました 全然読みにくくなんか無いですよ^^ 前編のファンタジーと後編の現実を 見事に書き分けていますね、 主人公の陽平さんも「未来」に 向けて生きて行けるようになってるところ なんかもいい感じです。 |
バルトーク | 11/21 19:10:37 | 2212cfBcsmysAsVME||889 | ||
ゆうじい様、こんばんわ^^ 感想ありがとうございます。 ナンカ、す、少し誉めすぎではないでしょうか(〃゚д゚;A 自分でも、読み返してみるとなんかまとまってなくって、へこんでいたのですが、ゆうじい様の感想を頂いて、なにやら元気が出てきました^^ もっと、読むに耐えるものを書けるようになりたいので、次があれば頑張りますよ〜。 ありがとうございました! |
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