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9537セイクリッド・ブルー第四部(1)istint12/4 1:41:526056cfBTXyxnckzJ2
かなり間が開いてしまいましたが、連載再開です。

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レンティーニとムスティンはグランデュールを訪れていた。
五百年の栄華を極めた美しい町の姿はそこにはない。
空には暗雲の塔から漏れ出す魔界の瘴気が立ちこめ、美しかったグランデュールの城も瓦礫の山と化していた。
まだあちこちでうめき声を上げている者もいる。
生き残った人々はグランデュール城跡に集まり、その敷地内にあばら家を建てて暮らしていた。
そんな姿になってもそこは人々の最期の拠り所となっていたのだ。

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グランデュールは世界に点在する数多の国の中でも最古の王国であると同時に最高の繁栄を成し遂げた国だった。
闇の勢力に対抗できる、この国にいればまだ安全。
そう考えていた平和な人たちの暮らしがあの数時間で、しかも元この町の住人だった男の手によって脆くも崩れ去ったのだ。

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「思ったよりひどいですね…早くルヴィンの母上を探さないと。
 生きていてくれればいいですが…」

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ムスティンとレンティーニはグランデュールに着いてからもう三時間ほど聞き込みで探していたが一向に見つからなかった。
だが、レンティーニはルヴィンの母は生きていると信じていた。

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辺りを見回すと改めて闇ソーサラーの力の凄さがわかる。
グランデュールは城を中心に賢者の張った守護結界が町全体を包み、闇の使徒は中々入り込めないようになっていたが、今は結界のちからも極微量に感じ取れる程度だった。
町の人の話によると、もうあれから何度かオークやゴブリンが町に略奪にやって来たらしい。
それどころか、暗雲の塔からはデビルやガーゴイルが出てきているという噂も聞く。
レンティーニは、はやる気持ちを押さえながらあばら家を一軒一軒覗いていった。

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きっと次も駄目だろう、そう思いながら瓦礫の家を覗く。
「やっぱりここにもいないか…」
ムスティンとレンティーニが家を出ようとしたその時、家の奥から呼び止める声がした。
女性の声だったが、凛とした、命令口調だった。
「そのまま武器を置きなさい。
 さもなくばあなた方を蜂の巣にして差し上げますよ。」

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レンティーニはニヤリと笑うと、「やって見るといい。」と答えた。
ムスティンとレンティーニが振り返った瞬間、物凄いスピードで矢が数本飛んできた。
二人は難なく矢を弾いたが、驚いたことに矢は鈍く光り、更にスピードを上げて追尾してきた。
ムスティンもこれには驚いて今度は本気で叩き落す。
レンティーニも同じように叩き落した。
しかし、女は既に次の矢を番えて構えていた。

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ムスティンがグッと足に力を入れて神脚で間合いを詰めようとすると、「待て。」とレンティーニに制された。
「相変わらず弓の腕は衰えちゃいないようだな、ヘレナ。
 それにしても随分な挨拶じゃないか。」

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レンティーニにヘレナと呼ばれた女性は弓を床に下ろして、プッと噴出した。
「ごめんなさい、ここのところ色々町を襲いに来る輩が後を絶たなくてね。
 偽者だったら最初の一撃で死んでるだろうし、まあ、許して頂戴。」

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この女性がルヴィンの母、ヘレナだった。
ルヴィンはヘレナが弓を扱える事など知らない。
アイシスと結婚してからは全く触っていなかったからだ。
しかしながら、彼女は女性でありながらこの国で並ぶものなしと言われたほどの弓の名手だった。
数本の矢を瞬時に狙いを定めて放つ技法はかつてレンティーニも教わったほどだ。
彼女は核力の使用についても実に巧みで、一度放った矢を任意に遠隔操作も出来る。
しかも放った矢、数本同時に、だ。
これがレンティーニが生きてると確信していた理由だった。
ジスティとて、彼女を倒すのは容易ではない。

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ムスティンはひどく驚いて彼女を見つめた。
天才と呼ばれたムスティンですら、剣一本を遠隔操作するのがやっとだったからだ。
(ルヴィンが強いわけだよ…父上だけでなく母上の素質も受け継いでるに違いない)

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家の奥にはルヴィンの妹、カレンがいた。
彼女はまだ十歳で、もちろん戦う術を知らない。
無口でレンティーニが話しかけても恥ずかしそうに笑うだけだった。
レンティーニはベッドに座り込むと煙草に火をつけた。

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「相変わらずの落ち着き振りね。
 世界がどういった状況か分かってるんでしょ?
 それよりなぜあなたがここに?」

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レンティーニはフーッと煙を吐き出すと答えた。
「落ち着いて聞け。
 俺は城下に立ち寄った後に、町外れの沼地で盗賊団を壊滅させた。
 その時にとらわれていた一人の少年を拾ったんだ。
 それはお前の息子、ルヴィンだった。」

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ヘレナは驚いて手に持ったカップを落としそうになった。
なぜなら、ルヴィンは鍛冶屋の修行に出かけると言って家を出たのに。
レンティーニは続けた。

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「落ち着け、あいつはお前たちに心配を掛けたくなかったんだろ。
 俺はあいつを拾って一人前に鍛えた。
 ちょっとやそっとじゃ死んだりはしないさ。」

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ヘレナは興奮してレンティーニに詰め寄った。
「当たり前じゃない!
 で、ルヴィンはどうして一緒じゃないの!?」

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レンティーニはヘレナを座らせて、今までの事を話した。
話が終わる頃にはすっかり日が落ちていて、外は薄闇が覆っていた。
ムスティンはしばらく外に出ていたが、話が終わってしばらくすると戻ってきた。

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彼は城下の弱まった結界を一時的に強化する呪法を施してきたらしい。
疲れた表情で戻ってきたムスティンの手に握られたダガーからは血の匂いがした。
「外は魔物だらけでした。
 何体か倒したら残りは逃げていきましたが…またすぐに現れるでしょう。
 それから、上空には見たことも無い化け物が飛んでいました。」

istint12/4 1:46:586056cfBTXyxnckzJ2||399
ムスティンの報告を聞いたヘレナが急いで外に飛び出した。
彼女は空を見上げて、ギリっと歯を鳴らした。
レンティーニもそれに続いて外へ出る。
上空には黒い翼を羽ばたかせた人間が飛んでいた。
いや、正確には人間ではない。
皮膚は緑色で頭には角を生やし、下半身は黒い山羊の足だった。

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「あれは、暗雲の塔から出てきた悪魔よ。」

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レンティーニは文献でしか悪魔の存在を知らなかったが、その姿は本で読んだとおりだった。
悪魔族は魔界の住人で人智を超えた魔力を操り、人間界を焦土と化すのが目的だ。
今は創世主がその存在を恐れて空間を遮蔽してこちらの次元には実体化できないはずだったが、闇ソーサラー達によって人為的にこちらの世界に召喚されたのだ。
恐らく次元の穴は暗雲の塔内部にあるのだろう。
レンティーニすらこれには驚いた。

istint12/4 1:47:356056cfBTXyxnckzJ2||291
「闇ソーサラーの魔力がこれ程とは…闇王め、魔界の住人すら己の駒に過ぎないというのか。」
闇王と闇ソーサラー達は元々こちらの次元で生まれた者なので魔界の住人とは直接の関係は無い。
しかし、闇王は創世主によってこちらの世界で自由に活動出来なくされたので、代わりに魔界を制圧したのだ。
もちろん、レンティーニ達はおろか、白の塔の賢者すらその事実を知らない。
辛うじて気付きつつあるのは時流の観測者であるシェリフェルくらいだ。

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ムスティンが一掃したのは魔界の瘴気の所為で巨大化したゴブリンやゲロッグ、ウルフ達だった。
グランデュールはもはや人々の安息の場では無くなっていた。
しかしながら、ムスティンの張った結界は強力で、デビル達も結界の周囲を徘徊するだけでこちらには降りてこなかった。
また、ヘレナの話では魔界の生物は活動を日没から日の出までと制限されているらしく、この結界があれば暫らくは安心できそうだった。
ムスティンの結界の効力は約3ヶ月。
それまでに何らかの手段を講じなければならないがここに残った住人全てをどこかへ移動させるというのは不可能に近い。
徒歩での移動が無理なのでヴァージルガルディのような船が必要だ。

istint12/4 1:48:56056cfBTXyxnckzJ2||950
「新しい力を身につけるまでの間はここでいて貰った方が安全だな。
 それが終わったらスネイクに頼んでみよう。」

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レンティーニ達が家の中に入ると、ルヴィンの妹カレンがブラックウルフのティアと遊んでいた。
カレンは自分の身長よりも大きなティアの顔を撫でて「大きいワンワン。」とティアを犬扱いしている。
ティアはカレンの顔を大きな下でぺロっと舐め上げた。
ムスティンはその様子を見てクスッと笑う。
こんな大きなブラックウルフを見ても怖がらない所なんかルヴィンにそっくりだ。
レンティーニ達はすぐにでも旅立とうと思っていたが、もう夜も更けていたし、ヘレナの勧めもあって一晩ここに泊まることにした。

istint12/4 1:48:306056cfBTXyxnckzJ2||524
あくる日、レンティーニ達が旅立とうとしたら、ヘレナが複雑そうな表情でレンティーニを呼び止めた。
何やらレンティーニに話があるらしい。
ためらいがちにゆっくりと話し始めた。

istint12/4 1:48:406056cfBTXyxnckzJ2||406
「あなたに…まだ話していないことがあるわ。
 私のお腹の中のルヴィンの、青龍の封印を施したのはあなた達王国三騎士だった。
 そこには勿論アイシスも加わってたわ。
 彼は今は既に亡き人だけど、当時あなた達に気付かれないほどのスピードで闇の力に心を侵食されていっていた。
 だから、彼はあなた達の目を巧みに誤魔化して青龍の封印を不完全なものにしていたのよ。
 どういった方法かというとね、ルヴィンはお腹の中にいた時既に一人じゃなかったの。

istint12/4 1:48:516056cfBTXyxnckzJ2||921
 アノ子は双子の弟よ。
 だから封印の力が完全じゃ無くなってしまっていたの。
 でもあなた達ならそんな事には簡単に気付くはず。
 アイシスはあなた達二人の目を意図的に誤魔化してもう一人の赤ん坊の存在を隠した。
 そして取り上げた子供のうち、ルヴィンでは無いほうの赤ん坊をこっそり捨ててしまったのよ。」

istint12/4 1:49:46056cfBTXyxnckzJ2||82
レンティーニにとってそれは二十年近く経って初めて知らされた恐ろしい事実だった。
この二十年もの間、アイシスの手の上で踊らされていたのだ。
あの時、グランデュールに現れたのはルヴィンの封印を弱める為か、それとも他に意図があったのか…。
しかも不幸な事にヘレナはアイシスが闇ソーサラーになった事は知らない。
レンティーニは頭の中が暫らく真っ白になっていたが、やがて気を取り直して声を出した。

istint12/4 1:49:136056cfBTXyxnckzJ2||946
「そうか…、晩年のアイシスの様子の変化には俺たちも気付くのが遅すぎたようだな。 
 それで、そのもう一人の赤ん坊はどうなったんだ?」

istint12/4 1:49:256056cfBTXyxnckzJ2||508
その問いの答えはヘレナにも判らなかった。
二人は暫らく無言のままだった。

istint12/4 1:49:466056cfBTXyxnckzJ2||890
もし、その赤ん坊が生き延びていて、今もどこかで暮らしているとすれば人類にとって大きな脅威になり得るからだ。
ルヴィンもレンティーニと出会わずに旅を続けていたら、最初の盗賊団に捕らわれた時点で闇の覚醒をしていたかも知れない。
しかしレンティーニもヘレナを責める訳にはいかなかった。
彼もまたヘレナには黙ってルヴィンを鍛えていたからだ。
あのアイシスの力に対抗するには何としても同じ血を引くルヴィンの力が不可欠だ。
ヘレナとレンティーニは二言三言、言葉を交わして、別れた。

istint12/4 1:49:526056cfBTXyxnckzJ2||249
ムスティンは既に町の入り口でレンティーニを待っていた。
ここからエルフの村までは馬を降りて徒歩になる。
外には魔物の気配がしていた。

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istint12/4 1:50:176056cfBTXyxnckzJ2||408
白の塔の賢者は焦りを感じていた。
シェリフェルの力は彼の予想をはるかに上回っていた。
シェリフェルの目的はこの世の終末を見届ける事。
即ちそれは自らの手によって世界を滅ぼす事だった。
闇王、闇ソーサラーたちの目的はこの世界を闇の世界に作り直す、闇の力による創世だが、シェリフェルはそれすらも行う気は無いらしい。
支配欲ではなく破壊欲が彼の心を満たすものだった。

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白の塔には賢者が長い時間を掛けて溜め込んだ核力のタンクがあったが、先の戦闘で負傷したルヴィンの治療、青龍を修理するために使ったためその力の多くが失われていた。
このままシェリフェルが隔離空間を破るような事があれば、その核力の大半を失う事になる。

istint12/4 1:50:366056cfBTXyxnckzJ2||884
「なんと恐ろしい力よ…。
 私はとんでもない過ちを犯してしまった…
 闇に対抗しうる力を求めて作り出した生体兵器ラロッシュがこの世を滅ぼそうとはな。」

istint12/4 1:50:496056cfBTXyxnckzJ2||908
不意に隔離空間内部に計測器の針が振り切れるほどのエネルギーが集束し始める。
エネルギーは空間を満たし、行き場を失うと内部で反応を起こし、空間内の温度が上昇する。
シェリフェルはそのエネルギー全てを純粋な指向性の波動に変化させると一気に外の世界へ向けて放出した。
白の塔の周囲百kmほどの地域で強い地震が起こり、次元シフトの余波は高温の暴風となって木々を薙ぎ倒し、山を吹き飛ばし、大地を焼き尽くした。

istint12/4 1:50:566056cfBTXyxnckzJ2||145
怯む賢者の精神体の前にシェリフェルが姿を現した。
予想通り、膨大な力を行使し、彼は息切れをしていた。
しかし彼は賢者を前にしても口元に笑みを浮かべている。

istint12/4 1:51:76056cfBTXyxnckzJ2||553
「ハア、ハア…フフフ…ここまでは君の予想通りだろ?
 それにしてもよくこの僕がラロッシュの子孫だと気付いたね。
 でも君にも知らない事がまだ山ほどあるんだ。
 まず第一に僕は純粋なラロッシュではない。
 幼い頃、両親に捨てられた僕がなぜ今まで生き延びてこられたか判るかい?
 ラロッシュといえど生まれたての赤ん坊は人間と変わらない。
 でも僕には生まれつき闘争本能が備わっていた。
 なぜならこの身体には胎児の頃に触れた高次空間のエネルギー体が憑依していたからさ。
 そのエネルギー体は僕に語りかけた。
 この世界を滅ぼし、自分をこちらの世界に降臨させよ、とね。」

istint12/4 1:51:146056cfBTXyxnckzJ2||108
確かにそれは賢者すらも思い及ばなかった事実だった。
シェリフェルの闘争本能はラロッシュの変異くらいにしか考えていなかったからだ。
しかし、賢者も落ち着き払ってシェリフェルを問い詰める。

istint12/4 1:51:206056cfBTXyxnckzJ2||839
「ほう、ではお前はその高次空間のエネルギー体の傀儡というわけか。
 そのエネルギー体が自らこの世界に影響を及ぼす事が出来ないのはこの世界では実体化できないからか?
 それとも既にこちらの世界の文明が脅威だからためらっているのか。」

istint12/4 1:51:286056cfBTXyxnckzJ2||554
「フフフ…本当に君は鋭いね。
 伊達に賢者を名乗っていないよ。
 でも少し違うよ。
 この僕が高次空間のエネルギー体の傀儡だって? 
 僕はね、他人に指図されるのが嫌いでね。
 そのエネルギー体はこの観測者の力を手にした時期に完全に僕の支配下に置いたんだよ。
 彼は臆病なほど慎重だったから僕とは考えが遭わなくてね。
 文字通り意思を持たない単なるエネルギー体にして飲み込んでやったのさ。」

istint12/4 1:51:426056cfBTXyxnckzJ2||728
僅かに賢者の精神体が揺らめいた。
明らかに消耗しているシェリフェルのほうが劣勢にも関わらず、その不気味な余裕に動揺しているのだ。
そして高次エネルギーすらも封じてしまう程のシェリフェルの意志力に恐怖すら感じていた。
止めを刺そうにも体が動かない。
まるで何者かの意思によって精神を括り付けられているかのように動かす事ができないのだ。
シェリフェルは呼吸を整えるといつもの不敵な笑みを浮かべて凍りつく賢者を尻目にその場を立ち去った。
一つの捨て台詞を残して。

istint12/4 1:51:506056cfBTXyxnckzJ2||659
「君はまだまだ利用価値がありそうだからまだ殺さない。
 でも僕の邪魔をするなよ。
 そのときはこの塔ごと粒子になるまで破壊してやるから。」

istint12/4 1:52:66056cfBTXyxnckzJ2||227
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istint12/4 1:52:216056cfBTXyxnckzJ2||926
シェリフェルは白の塔を後にすると、次は聖蒼教団の本部に向かった。
彼が教団本部に到着すると教団騎士達が慌てて整列して彼を出迎えた。
本部には滅多に姿を現さない彼だったが、その冷酷な性格や残虐性はここでも噂の為、恐れられていたのだ。
いや、むしろ姿が見えないからこそ噂が一人歩きして、皆恐ろしい姿を想像していた。

istint12/4 1:52:296056cfBTXyxnckzJ2||57
それだけに本当の彼の姿を初めて見た者は拍子抜けした。
シェリフェルは特別身体が大きいわけでもなく、顔立ちも綺麗に整って女性的でカーティスやソロネのように威圧的な雰囲気も感じられない。
それに今の彼は酷く消耗し、傷付いていたのでやっとここに辿り着いたという感じだった。
騎士達の張り詰めていた気持ちが少し楽になった。
フーっとため息を吐く物もいる。

istint12/4 1:52:436056cfBTXyxnckzJ2||210
シェリフェルは下を向いていたが、その騎士達の僅かな態度の変化を見逃さなかった。
彼はゆっくり顔を上げると口元に笑みを浮かべて整列した騎士達を見回した。
そして、隣の者と何やらこそこそ小声で言い合っている少し気の荒そうな騎士が彼の目に止まった。

istint12/4 1:52:566056cfBTXyxnckzJ2||940
次の瞬間、本当に瞬く程の速さでシェリフェルはその騎士の前まで間合いを詰めると、鎧兜の上から騎士の首もとを手刀で薙ぎ払った。
そして素手で首を斬りおとして、そのまましなやかに伸びた指先にその首を突き刺した。
その首から兜を剥ぎ取ると髪の毛を掴んでグイっと引っ張って指からその首を抜くと、無言のまま騎士達の前に無造作に放り投げた。
斬りつけてから首をもぎ取るまでに掛かった時間は数秒だった。

istint12/4 1:53:56056cfBTXyxnckzJ2||880
シェリフェルの顔は返り血で赤く汚れていた。
しかし、表情は最初のまま、口元には相変わらずの笑みを浮かべている。
騎士達は一瞬にして凍りつき、恐怖に顔を引きつらせた。
改めてシェリフェルは騎士達を見回す。

istint12/4 1:53:226056cfBTXyxnckzJ2||788
今度ばかりは騎士達は背筋を伸ばし、不動のまま、彼とは目が合わないように真っ直ぐ前を見詰めていた。
シェリフェルは全身から殺気を迸らせながらゆっくり騎士の列の前を通り過ぎる。
地面に転がった生首を、もうその存在を忘れたかのように、人が蟻を踏み潰しても気にも留めないように踏み潰していった。
騎士達はその後姿を畏怖の念を込めて見送ると、ゆっくり門を閉じた。
極度の緊張から開放された騎士の中にはその場で嘔吐する者もいた。
百戦錬磨の荒くれ者たちが一瞬にして己の小ささを思い知らされたのだった。

istint12/4 1:53:336056cfBTXyxnckzJ2||442
今なら誰もが理解していた。
彼は生まれながらにしての狩人。
追われることなど生涯無いだろうと。

istint12/4 1:53:416056cfBTXyxnckzJ2||273
シェリフェルが門をくぐると、すぐに知らせを受けた教団本部所属の参謀司令が彼を出迎えた。
参謀司令はシェリフェルよりも身長の低い50歳くらいの男だった。
流石に彼はシェリフェルの事をよく知っていたので他のものに比べると落ち着いて見えた。

istint12/4 1:53:516056cfBTXyxnckzJ2||140
「御久し振りですな、将軍。
 随分お顔とお召し物が汚れておりますが…。
 すぐ替わりをお持ちしましょう。
 してまた今日はどういったご用向きで?」

istint12/4 1:53:586056cfBTXyxnckzJ2||790
シェリフェルは歩きながら答える。
「外で少しゴミ掃除を手伝ってやったんだ。
 家畜の飼い方をもう少し考えた方がいいんじゃない?フフフ。
 替わりの衣装は後で部屋に届けてくれ。
 今日は十神老に用があってね。
 それから…エラド教皇はお帰りかい?」

istint12/4 1:54:66056cfBTXyxnckzJ2||402
参謀司令は、ハッと目を見開いてシェリフェルを見上げた。
「ゴミ掃除ですとな!?
 ではまた…あまりそういった事をされると五聖将軍としての品格が問われますぞ。
 エラド教皇は自室にいらっしゃいますが…。
 十神老様とは面会になれないかも知れませぬぞ。
 先日も元帥が面会から帰ってこられたときは思わしくない表情でしたので。
 ちなみにカーティス将軍は単身グランデュールの方へ視察へ向かわれたそうで…」

istint12/4 1:54:186056cfBTXyxnckzJ2||50
そこでシェリフェルが彼の言葉を遮った。
「相変わらずお喋り好きだな。
 その口に鉄の塊をぶち込まれたいか?
 首と胴体が繋がってるうちに下がったらどうだ?」
参謀司令はその言葉を聞いてそそくさとその場を立ち去った。

istint12/4 1:54:266056cfBTXyxnckzJ2||333
シェリフェルはその足で十神老の部屋に向けて歩いていったが部屋の前で止められた。
「申し訳ございません。
 ただ今十神老様からはいかなる者もこの扉を通すなと言われてまして…」

istint12/4 1:54:446056cfBTXyxnckzJ2||151
その騎士はシェリフェルの事を知っていたらしく、声が上ずって震えていた。
気分しだいで殺されるかもしれないので、騎士は命がけだった。
そこへちょうど騎士の後ろの扉が開き、教団所属の処刑人、ジュディケーターが姿を現した。
騎士に代わってジュディケーターが話をする。

istint12/4 1:54:546056cfBTXyxnckzJ2||911
「シェリフェル将軍、十神老からの命令だ。
 現在我々教団との同盟国のルナグディ国が隣国の邪教徒サリエナ国に攻め込まれて我が教団に援軍の要請がきた。
 本来ならカーティス将軍に行って貰いたかったのだが、将軍は現在グランデュールの視察に向かっている。
 そこでシェリフェル将軍に十神老直々にご下命が下された。
 一両日中には我が軍の精兵三千を率いて紛争を鎮圧せよ、との事だ。
 ルナグディの第一線の戦力は五千、敵の戦力は三万だ。
 厳しい戦闘になるだろうがたのんだぞ。」

istint12/4 1:55:26056cfBTXyxnckzJ2||282
シェリフェルはその話をずっと剣にもたれて不真面目な態度で聞いていた。
ジュディケーターは騎士団のヒエラルキーの外の組織とは言え、他人から偉そうに命令されるのは気に食わない。
しかもジュディケーターは白い面を被っているから表情も判らないのでそれもイライラさせる原因だった

istint12/4 1:55:96056cfBTXyxnckzJ2||387
(十神老め…何を企んでいるんだ?
 このジジイ共の部屋は特殊な隔壁で出来ているから僕の心眼でも中の様子は判らないし…)

istint12/4 1:55:186056cfBTXyxnckzJ2||645
「ああ、判ったよ。
 そのゴミを掃除すればいいんだろ。
 やり方には口出ししないでもらおう。」
そう言うとシェリフェルはその場を立ち去った。

istint12/4 1:55:346056cfBTXyxnckzJ2||673
次に向かうのはエラド教皇の部屋だ。
闇ソーサラーエラドはあのグランデュールでの出来事をどう思っているのだろうか。
もしかしたらその場で首を刎ねられるかもしれない。
シェリフェルですらまだ闇ソーサラーの真の姿を知らない。
彼自身は今は闇ソーサラーとは戦いたくなかった。
怖いのではない。
確実でないのならやり合いたくないだけだ。
彼は確実に刺せる場所、タイミング、情報が無いと戦いたくないだけだった。

istint12/4 1:55:446056cfBTXyxnckzJ2||918
もしエラドに勝てたとしても他の闇ソーサラーに消耗しているところを叩かれれば一巻の終わりだ。
特にザファの魂の奴隷になるなど、彼には許せなかった。
彼は自分の部屋に寄ると、闇の暗殺者の黒衣に着替えて空間に穴を開けた。
空間の向こう側はエラドの部屋だ。

istint12/4 1:55:506056cfBTXyxnckzJ2||539
エラドはいつものように大鏡の前で酒を飲んでいた。
気配も無く部屋に入ってきた黒い男、シェリフェルにもすぐ気が付く。
部屋には闇ソーサラーの不気味なオーラが充満している。
エラドはシェリフェルのほうには見向きもせずに話し出した。

istint12/4 1:55:586056cfBTXyxnckzJ2||670
「お前は自分が何をしたのかわかっているのかね?
 私の命令に逆らっただけでなく、ベアンの奴にも逆らい、挙げ句今の今まで行方をくらましていたのだぞ。
 今まで貴様の行動には多少目を瞑っていたが今回は少々やりすぎたようだな。
 十神老は貴様のデータを取る為にルナグディに派遣させるつもりだ。
 もちろんベアンにも目を付けられ、ザファからもマークされる事だろう。」

istint12/4 1:56:116056cfBTXyxnckzJ2||863
落ち着いた口調の中にも彼の怒りが感じられ、部屋の空気がピリピリ震えているようだった。
シェリフェルは何も答えなかった。
エラドはシェリフェルに向けておもむろに手のひらをかざした。
エラドの掌からは目には見えない糸が数十本放出され、シェリフェルを拘束する。
消耗した彼の力ではその呪縛から逃れる事は出来ない。
いや、万全の状態であっても抜け出すのは容易では無かったろう。
全身を輪切りにされるかと思うほどの力が糸から伝わって締め付けられる。
しかもその糸は一本一本が確実に人体の急所、経絡を確実に捕らえ、シェリフェルは完全に力を封じられてしまった。

istint12/4 1:56:186056cfBTXyxnckzJ2||8
「闇ソーサラーの力を侮るな。
 貴様ごときいつでも灰燼に化せるという事を肝に銘じておけ。
 …ああ、それから、貴様がえらく執心のあの餓鬼の所にはこのワシ子飼いの暗殺者を送り込んでおいた。
 流石に貴様には手出しは出来まい…ククク」

istint12/4 1:56:306056cfBTXyxnckzJ2||875
シェリフェルはようやくその糸から開放された。
そしてエラドの命令どおり、ルナグディに向かう準備を始める。
確かに彼はエラドの言うとおり、闇ソーサラーの魔力の前に屈したが、それは自らの意思でもあった。
彼は闇ソーサラーと対峙している時は慎重だったのだ。
エラドはいずれ殺すチャンスが訪れるだろう。
それよりもルヴィンの元に送り込まれた暗殺者が気に掛かる。
まあ、こんな所で死ぬようならそれまでの男だったという事。
そう考えるとシェリフェルは三千の軍を率いてルナグディへと進軍を開始した。

istint12/4 1:57:496056cfBTXyxnckzJ2||129
今回はここまでです。
シェイラさんの詩もいつも読ませてもらってますよー。
長くなってしまってすみません。
またちょくちょく続きを掲載するつもりです。
でわでわ。

バルトーク12/4 21:56:302212cfBcsmysAsVME||960
こんばんわ、初めまして。
なんか、とてもレベルの高い作品がここにΣ(・ω・。ヽ)

今回、読ませていただくの初めてだったのでストーリーを完全に理解したとは言い難い僕ですが、すごい出来のいいファンタジーだなー。という印象がしました。

ちょくちょく続きが載るということなので、次回も楽しみしています。

シェイラ12/8 0:16:272184cfPSp9oKKU0aw||102
こんばんわ〜。すっごい嬉しいです!再開おめでとうございます!(●^∀^●)次々現れる新事実に衝撃をうけています。ルヴィンのお母様、かなり好きキャラになりそうです♪これからも、読みます!それと、私の拙い詩にレスありがとうございます。とっても励みになっています!ありがとうございました!


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