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9547サザンライド冒険記__第二話sIs12/5 22:15:01219cf0Go//NQU9A.


  第二話
      決意



sIs12/5 22:15:141219cf0Go//NQU9A.||993

「…遅いなぁ…」

エリシアはまた時計を見る。
針はさっきからほとんど動いていない。
だいたい二十秒間隔で見ているから、当然といえば当然である。

「あれ、まだエルミオールさん帰ってきていないのか」

さっきからずっと居間でテーブルに肘をついて、時計をちらちら見ているエリシアの後ろで
静かにドアが開き、少年が一人入ってきた。
中身が半分まで減ったビール瓶を左手に握っている。


sIs12/5 22:15:281219cf0Go//NQU9A.||709

「あら、起きてたのね。また酒飲んでたの」
「悪いか?」
「あんたね、あれほど早死にするって言ったじゃないの」
「年下の命令なんか誰が聞くかよ」

少年はエリシアの向かいに座った。

「ふん、一つしか離れていないわ」
「年下は年下だよ」
「あーら、いつから文句を言うことなんか覚えたのかしら。
 あんなに小さかった養子のアグロムちゃんが」
「ちゃん付けをやめろ、気持ち悪いな…」


sIs12/5 22:15:401219cf0Go//NQU9A.||770

にやにやするエリシアを見て、アグロムは本当に気持ち悪そうな顔をした。
それを見てエリシアがにやにや笑いを引っ込めて、真面目な顔になった。

「そんな不味そうなもの飲むなんて、あんた絶対変よ」
「変で結構。お前も飲めば分かるさ」

そういうとアグロムはグラスにビールを注ぎ、エリシアに勧めた。

「いらないわよ」
「飲めって」
「嫌」

アグロムは苛々して、注いだビールを飲み干した。


sIs12/5 22:15:551219cf0Go//NQU9A.||413

「…ほら、飲んでも別になんともないから」
「やめてよ、酒の無理強いなんて」

酒を全身で拒否するエリシアの後ろで、ドアが品のない大きな音を立てて開いた。

「え、エリシア様!」

荒い息遣いとともに、エリシアの名前を叫んで誰かが入ってきた。
エリシアは驚いて振り返った。

「あら、ナキさん…どうしたの、こんな時間に」


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入ってきた小柄な女性ナキは、パートでこの家の家政婦をやっている。
小さな子供たちや寝込んでいる夫の世話もしなければならないので、いつも午後九時には帰宅している。
今日も午後九時に出て行ったはずなのに、何故戻ってきたのだろう。

「え…エリシア様、あの…はぁ、えっと…」
「落ち着いて、ナキさん。ゆっくりでいいから」

急いで来たらしいナキの肩をぽんと叩いて、エリシアが落ち着かせた。
走ってきて乱れた髪の毛を手で直しながら、ナキはエリシアの顔を見て泣きついた。

「エルミオール様が…」


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*



sIs12/5 22:16:301219cf0Go//NQU9A.||730

「―――あ、エリシア様、アグロム様…」
「どいて、お父さんはどこなの!」

敬礼する警官を押し退けて、エリシアは青ざめた顔で叫んだ。
アグロムが後ろで「落ち着け」と声をかけているが、彼女にはまるで聞こえない。

「え、エルミオール様は…」

数人の警官がエリシアを止めようとしたが、彼女は意に介さず会議室まで突進した。
アグロムも警官を何とか振り切って彼女の後ろをついていく。
会議室の青い扉は閉ざされていたが、鍵はかかっていなかった。
エリシアが乱暴に開けて中に入る。


sIs12/5 22:16:421219cf0Go//NQU9A.||848

「!」

会議室の中を見て、アグロムは自分の目を疑った。
目が痛くなるほどの赤が、視界一杯に広がっている。
アグロムの目の前で、エリシアが何も言わずに崩れ落ちた。
そこら中から全ての音が消える。
何も聞こえない。耳鳴りも、呼吸すらも聞こえない。
しかし何故だろう、彼は耳が突然痛くなって、思わず耳を抑えた。

「…何だこれ」

自分の発する言葉でさえ、こんなに弱々しいものだったのかと疑うほど小さく響く。


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「…エリシア様、アグロム様、今から現場検証を始めますので、できればお離れ下さい」

二人を嗜める警官の声も、海の向こうから聞こえるように虚しかった。


sIs12/5 22:17:21219cf0Go//NQU9A.||227


*



sIs12/5 22:17:131219cf0Go//NQU9A.||968

警官に言われるがまま家に戻り、
二人は居間のテーブルでさっきと同じように座っていた。

「…」

エリシアは、さっきから何も言わない。
アグロムも、ずっと口を噤んでいる。
ナキもとっくに帰ってしまって、真っ暗な家の中には彼らしかいない。
日付ももう少しで変わる。
今までにないくらいとても静かだ、とアグロムは思った。


sIs12/5 22:17:261219cf0Go//NQU9A.||179

「…エリシア」

小さく声をかける。彼女が返事してくれるかどうか心配だったが。

「…何」
「あのさ…その、泣かないのか」
「…さっきから、涙が出てこないの…泣こうと思っているのに…」

エリシアは泣きたかった。でも泣けなかった。
悲しいはずなのに、さっきから本当に涙がちっとも出てこないのだ。
出てこない理由は、多分アグロムもエリシアも同じだろう。
だから、アグロムはそれ以上訊かなかった。


sIs12/5 22:17:391219cf0Go//NQU9A.||317

「…エリシア様、アグロム様」

ドアが開き、誰かが二人を静かに呼んだ。
アグロムもエリシアも元気なくドアのほうを見つめる。
さっき二人を制止した警官が、申し訳なさそうに立っている。
エリシアが力なく振り向いて、小さく尋ねた。

「…何」
「エルミオール様が殺害された部屋で、こんなものを見つけまして」

エルミオールが殺害された部屋。
それを訊いた途端、アグロムはこの警官を追い出したくなった。
この家に戻ってまで、そんな話を聞きたくなんかない。


sIs12/5 22:17:501219cf0Go//NQU9A.||411

「…ノエドナの紋章です」

警官が小さな紋章を差し出し、エリシアに渡した。
縦長の菱形の真ん中に鍵が描かれており、菱形の後ろで二本の槍が交差している。
サザンライド地方の自治領の一つ、ノエドナ領の者が身につける紋章だ。

「…ノエドナ」
「ノエドナ…」

二人は顔を見合わせた。

「…そういえば、お父さん、出かける前に…」


sIs12/5 22:18:21219cf0Go//NQU9A.||555


―――『ああ、ちょっとルーシェさんに呼ばれているからな』―――



sIs12/5 22:18:171219cf0Go//NQU9A.||619

そしてルーシェはノエドナ領の領主である。

「…もしかして…」
「断定は出来ないけど」
「でも、確か今日会議室を使ったのは」
「四人の領主様のみでした」

と警官が言う。

「…間違いないんじゃない?」
「そうだな…」

二人はもう一度お互い顔を見合わせ、頷きあい、そして居間を出た。
突然の二人の行動に、警官は慌てた。

「あ、あの、お二人とも、どちらへ」
「寝る」

アグロムとエリシアの声が重なった。


sIs12/5 22:18:271219cf0Go//NQU9A.||83

後書き

出だしは割とシリアスです。

警官が最後のほうで言ったように、エルミオールは(二話目で)死んでしまいました。
ルーシェが犯人だと二人は言いましたが、たったこれだけの証拠で断定していいのか。
馬鹿だから断定しても問題ないか(爆)

サザンライドには20歳未満はお酒禁止、という法律がない為アグロム(17歳)も酒OKです。
(※ 日本にはちゃんとありますから、飲酒は20歳になってからですよ!)


sIs12/5 22:18:351219cf0Go//NQU9A.||109

バックナンバー

第一話 http://bbs.chibicon.net/bbs/t12-9465.html


バルトーク12/5 22:49:572212cfBcsmysAsVME||809
こんばんわ。
とりあえず、エルミオールに黙祷を捧げます(-∧-)

場面の展開のときのスペースの使い方が巧いなと思ったっす。
しかし、エルミオールもこんな大勢の人々に悲しまれて幸せ者です。
なにげに感情移入していた僕ですんで(・ω・;A)

それと、セリフの一つ一つが洗練されている気がしました。
次回も楽しみにしています。頑張って下さい!

12/6 20:40:461252cfoGa70MKEkcM||985
こんばんはsIs様。

エルミオールに鎮魂歌を。

エリシアとアグロムには深い眠りを。

悲しみを消すことはできませんが

その怒りを…力の足しにして頂きたいです(・д・`*)

今回も素晴しかったです。

では、失礼いたします。

sIs12/7 19:7:411219cf0Go//NQU9A.||58
バルトークさん
感情移入してくださったのに、早々に殺してしまってすみません…。
話の区切り方に付いてはあまり考えませんが、こんなのでいいんですか。
台詞は分かりやすい言葉を使い、ノリを大切にしてみましたがどうでしょう。

武さん
身内を失うのは、凄く悲しいことです(アグロムは養子ですが)
殺されたとなると、きっと悲しみと同じくらい怒りが込み上げてくるのかも。
しかし二人とも馬鹿(すいません)なので力の足しに上手く出来るかどうか。
それが心配ですが、今後彼らには頑張ってもらいます。


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