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970小説 IRUイクス6/17 20:41:02202cfwKIgBablNMk
 呆れるほど広い荒野があった。
荒野には木が一本も無く、赤っぽい岩肌が荒々しく露出している。
そして、申し訳程度の草が生えている道を一人の男がスクーターを操っているのが見えた。 スクーターは絶え間なく振動して、乗っている男がぶれて見える。
男はくたびれた茶色い帽子をかぶって真昼の強い陽射しを防いでいる。
男、それは、すっきりした顔立ちの13、14歳ほどの人間だった。
半袖の黒いワイシャツの上に白いベストを暑そうに着ている。ズボンにはリヴォルバー
の入ったホルスターとポーチを幾つも付けている。

イクス6/17 20:41:472202cfwKIgBablNMk||960
「ねぇイル、前に入った夢とどっちがマシだと思う?」
彼のかぶっているモノが喋る。イルと呼ばれた男は額の汗を拭いて言う
「どっちも同じだね。次の夢は適当な気候だといいな。」
「ふーんでも良かったよね。願いが叶って。」
「それは皮肉かな?レフィリス。」
イルは言いながらレフィリスを、もう少しずり下げて太陽が視界に入らないようにした。
「どうでもいいけどボクを日避けにするのはやめてくれないかな?」
「だってそれが帽子の役割だろう?」
「・・・・・」
 スクーターは走り続けた。太陽が傾いた頃、ようやく街が見えてきた。

イクス6/17 20:42:192202cfwKIgBablNMk||909
そこだけ緑色の木々と大きな湖が見える。
「あれが”オアシス”ってヤツかな?」
「さあね。それよりあの湖で水浴び出来ないかな?」

 街は市場で賑わっていた。
イルが物珍しそうに通りを歩いていると、一人の男が声をかけてきた。
「やあ、見ない顔だなひょっとして旅人さん・・かな?」
「はい、今さっきこの街に着いたばかりです。」

イクス6/17 20:42:482202cfwKIgBablNMk||820
男は人なっつこい笑顔で言う。
「そうか、そうか、いや、こんなところによく来てくれた。道中暑くなかったかい?」
「とても。そこでシャワーがある安い宿をとりたいのですが、教えてくれませんか?」
「もちろん。案内してあげるよ。」
男に案内された宿は湖の畔にあり、素朴で大きかった。
「ここは街で一番評判がいい店なんだ。安いのはもとより、とにかく風呂がすごい。
しゃれたデザインにとても風流なんだ。それに食事も美味しいし、カーテンの色も良い。
それから・・・」
喋り続ける男をやんわりと無視してイルは中に入る

イクス6/17 20:43:152202cfwKIgBablNMk||651
イルは部屋を取って、宿の主人に評判だと言われた風呂場の場所を聞いた。
主人は初老の老人で感じが良かった。
イルは案内された廊下を曲がって、浴場に入った。
「大きい・・・」
そこは公共の大浴場だった。広いバスタブは金網を通して湖に繋がっていた。
壁やシャワーヘッドには素朴な絵や彫刻が施してあり、天井にはめられた窓からは
夕焼けの光が差し込んでいる。
「風流だ・・」
イルは幸せそうに笑った。脱衣室ではレフィリスが独り言を呟いていた。
「良かったね、願いが叶って。」


イクス6/17 20:43:402202cfwKIgBablNMk||212
次の日の朝、イルは起きてからリボルバー型の火炎放射器「ハウル」の整備と液体火薬の
補充をした。野宿の時などにこれで火を点けていたのでだいぶ減っていた。
整備を終えたイルは身支度を整えて朝食を食べた。知らない生き物も出てきたが、
食べてみるものだった。その後荷物をまとめてから宿の主人に礼を言って、
朝の街に繰り出した。
 「ねぇイル、何処へ行くの?」

イクス6/17 20:45:22202cfwKIgBablNMk||618
「今から、市場へ買い物をしに行こうと思う。」
市場は早朝にも関わらず、前日と同じく賑わっていた。
イルは火薬や弾丸を売っている店で緑の液体火薬を買った。
他には食料や石鹸など、いづれも旅の必需品だった。
イルが歩いていると昨日案内してくれた男が近づいてきた。
「やあ、旅人さん。おはよう。」
「おはようございます。昨日はどうも。」
イルは昨日の礼を丁重にした後、ところで、と続ける。

イクス6/17 20:45:502202cfwKIgBablNMk||965
「この街に何か変わったものか何かありませんか?」
「変わったものねぇ・・あぁそうだ。」
そこで急に声のトーンが下がる。
「湖の向こうの林に悪魔がいるよ。」
「”悪魔”ですか?」
「ああ、そうだ。人の命まで欲しがる強欲な”悪魔”だよ。俺はあいつに弟を奪われたんだ。いいヤツだったのに何であいつが・・」
「そうですか。では、昨日は本当にありがとうございました。」

イクス6/17 20:48:62202cfwKIgBablNMk||930
礼を言って立ち去ろうとしたイルを男が慌てて止める。
「会いに行くなら止めた方がいいぞ。きっと・・」
イルは続けようとしている男を制す。
「ええ、行きませんよ。」
「ならいいんだ。」
男は安心した様子で去っていった。
「行くんでしょ?イル」
「当たり前じゃないか。」
イルはスクーターに乗り込む。

イクス6/17 20:49:52202cfwKIgBablNMk||707
 湖を取り巻いている林は、森、と言っていいほど木が生い茂っていた。
道らしい道は無く、イルは木の根がからまりあった地面を進んでいた。
木々が太陽を遮って薄暗い。
急に拓けた場所に出る。
 そこは大小様々な石碑が立ていた。中心にはイルの三倍はあろうかと言う石碑がっ立って
いる。巨大な石碑に前に白い服を着た金髪の人間がいるのが見えた。


イクス6/17 20:49:262202cfwKIgBablNMk||264
「ひょっとしてあれが悪魔さんかな?」
レフィリスが興味無さげに聞く。
「話してみれば分かるさ」
イルは一言そういって白い服の人間に近づいて行った。
「今日は。悪魔さんですね。」
金髪の人間は振り返る。
「はい、いかにも私が悪魔です。」
その”悪魔”はとても綺麗な顔立ちをしていて、女とも男ともつかない背格好をしている
そしてゆっくりと”悪魔”は天使のような微笑みを浮かべる。


イクス6/17 20:49:482202cfwKIgBablNMk||897
「貴方も”叶えに”来たんですか?」
「何を言っているのか分かりません。私は昨日ここに着いたばかりですので。」
「そうですか。ではお話ししましょう。僕は人の願いを”叶える”事ができます。」
悪魔はゆっくりと話を始める。
「できる、と言うより、叶えてしまう、と言った方がいいでしょう。僕に自分の願いを言うと僕の意思に関係なく”叶って”しまうのですから。」


イクス6/17 20:50:72202cfwKIgBablNMk||183
「嘘でしょ。それでどうせ何もならないんだから。」
レフィリスがすねたような疑いの声を上げる。
「それは本当なんですか?」
「はい、本当です。お疑うなら何か願いを言ってみて下さい。」
「それなら・・」
イルはそこで少し考える。上ではレフィリスが、何にする?、何にする?、とうるさい。
「携帯食料が一つ欲しいですね。」
「小さい夢だね〜。」
レフィリスは明らかに落胆した声を上げる。


イクス6/17 20:51:62202cfwKIgBablNMk||716
「では・・どうぞ」
イルの手には真空パックされた固い板型の保存食があった。
「すごい・・本当に叶った。」
イルは少し興奮して言う。と、その時イルが仰向けに倒れる。
「どうしたの!?イル?ねぇ!」
イルは小声で、大丈夫だよ、と呟く。

イクス6/17 20:51:362202cfwKIgBablNMk||747
「その保存食の替わりに貴方の栄養を頂きました。軽い貧血だと思います。」
悪魔は平然とした声で言う。
「やっぱりそうでしたか。するとあの石碑は。」
「はい、そうです。あの石碑は自分の願いを叶えるために命まで投げ出した強欲な人達の
墓石です。」
「良かったね、その程度で済んで。」
「保存食程度にしておいてよかったよ。」
イルが半ばひきつった笑顔で答える。
「まだなにか願いがありますか?叶いますよ。」


イクス6/17 20:52:82202cfwKIgBablNMk||247
イルは立ち上がって言う。
「いえ、結構です。私達はもう行きます。」
「そうですか。では旅人さん、気を付けて。」
「はい、保存食をありがとうございます」

「何?あの悪魔がそんなに悪いとは思わないって?」
イルの目の前には顔を赤くした男の顔があった。
「はい。だって・・・」



イクス6/17 20:52:342202cfwKIgBablNMk||921
「うるさい!おい!みんな聞いてくれ、こいつが悪魔をかばおうとしてるんだ。」
周りにいた人達はそれを聞くなり、顔を赤くして、そんな!、とか、まさか!、などと
言っている。
狂ったように男は続ける。
「とにかくあの悪魔は悪いんだ!来たばかりのヤツがどうこう言う権利はない!
今すぐ出て行け!」
「はい、そうさせていただきます。ここにいると殺されてしまいそうなので。」


イクス6/17 20:52:402202cfwKIgBablNMk||119
周りの人は皆血走った目でくわやスコップを持っている。
 一台のスクーターが走り去った。

「イル、あれは自己正当化だったなかな?」
湖が握り拳ぐらいになったときレフィリスは聞く。
「さあね、私はどっちでもいいけどね。」
スクーターは走り続ける。

イクス6/17 20:58:212202cfwKIgBablNMk||178
                <あとがき>
ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございます。
疲れたと思いますので、少し休んでください。
どうですか?
誤字脱字などのご指摘やアドバイスをもらうと喜びます。

銀月6/17 21:4:402182cfLMvpixotkc6||875
こんばんは^^
物語の展開が独特で面白かったです。
人の命まで取る強欲な悪魔、そう言う人間達の方が強欲だったんですね^^;
先が読めない楽しさがありますw
次回を楽しみにしていますm(__)m

イクス6/17 21:8:372202cfwKIgBablNMk||816
感想ありがとうございます^^
さっき銀月さんの詩を拝見させてもらいました。
文のリズムとかっこよさが、とっても素敵です。
次回作を期待させてもらいます(^^)

イクス6/17 21:10:102202cfwKIgBablNMk||538
それと・・・長いのをここまで読んでくれて
本当にありがとうございますm(_ _)m

銀月6/17 21:12:462182cfLMvpixotkc6||131
読まれたんですか(;^ω^A
ファンタジーの小説が大好きなので長くても短くても、
面白い物は夢中になって読んでしまいます^^
そういう物は、大抵読み終わっても疲れないので・・・w

イブ6/17 23:13:482191cfrXhw0lYKNxk||445
読ませて頂きました。
純粋に書き方がうまいと、まず思いましたね。
私は動作の描写・人の描写を書くのが苦手なので、尊敬します。
意外性がある話しが好きな私には、この小説はヒットしました。
悪魔が欲望があるわけじゃなく・・・ですか。うまいなぁと思いました。
私的には、こういう話し本当に好きですね。また、頑張って書いてください。

イクス6/18 19:1:422202cfwKIgBablNMk||966
そう言ってくれると私も救われる気持ちになります^^
次回も是非是非読んでいただきたく存じます。


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